2021年06月14日
(聞き手:白賀 エチエンヌ・本間 遥)
なぜ、LGBTという名称でひとくくりにするのか。当事者たちを取り巻く現状は。LGBTのキャリア支援を続ける藥師実芳さんに聞きました。
学生
白賀
代表を務めている認定NPO法人ReBitの活動内容をお伺いさせてください。
学校・企業・行政での研修やコンサルテーション、LGBTのキャリアに関する相談支援などをしています。
ReBit
藥師さん
すべての子どもたちが、ありのまま大人になれる社会を実現したいという思いをもってこうした活動に取り組んでいます。
《藥師実芳さんプロフィール》
1989年生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科卒。認定NPO法人ReBit代表理事。トランスジェンダー男性。
LGBTの子どもたちはその約7割が学齢期にいじめを経験。
トランスジェンダーの約6割が自殺を考えたことがあるといいます。
誰かと違うことで悩む全ての子どもたちに「あなたのままで大丈夫」と伝えたくて20歳のときにReBitを立ち上げました。
藥師さんが自分をさらけ出した就職活動で直面したものとは。
学生
本間
なぜ、こうした団体を立ち上げようと?
私自身がトランスジェンダーで、やっぱり小学校の頃から性別に違和感がありました。
当時の私のように「自分っておかしいのかな」と思っている小学生とか「隠さなきゃいけない」って思っている中学生。
「生きていけないんじゃないか」と思っている高校生もまだまだいると思っています。
ご自身の経験からLGBTの支援を始めたということですか?
そのとおりだと思います。
ReBitには、Bit:少しずつ、Re:何度も繰り返すことで社会が良くなって欲しい、そんな願いが込められています。
ご自身が「周りとちょっと違うのかな」って違和感を覚えたのはいつごろなんですか?
私は3歳から9歳までアメリカに住んでいたんですが、初めて女の子を好きになったのは小学校2年生のときでした。
当時はそれがおかしいとまわりから言われる事がなかったので普通に過ごしていました。
なるほど。
そのあと、小4で日本に帰ってきて、あぐらをかいて座っていると「女の子なのにダメでしょ」って言われて。
「女の子だと思っていないのにな」と違和感がありました。
バレンタインのチョコを誰にあげようかという話で周囲が盛り上がるんです。
女の子に好きって言ったらダメなんだなと実感するようになっていきました。
クラスの男の子が好きだってウソをつき始めたのもこの頃です。
そうだったんですね。
トランスジェンダーという概念を知ったのは小6の時。
ドラマでトランスジェンダーの役の人が出ていたのを見て「自分もこれだ」と思いました。
でもドラマの中ですごくいじめられていたから、自分もいじめられちゃうのかなと誰にも言えずにいました。
できるだけ女の子らしくして、バレないようにしようと思っていたのが中学生でした。
その後、高校2年で「このまま生きていけないんじゃないか」と毎晩ふとんの中で泣く生活がピークを迎えました。
それで、学校から自宅に帰る途中、電車に飛び込もうとしたんです。
ええっ!
幸い、この時は飛び込む寸前で思いとどまることができました。
でも、それをきっかけに「もう死んだつもりでカミングアウトしよう」と決意し、クラスの友達を放課後、校庭のハナミズキの木の下に呼び出したんです。
そこで初めて、自分がトランスジェンダーなんだということを伝えることができました。30分泣きながら。
その時の反応って覚えていますか?
その友達は間髪入れずに「藥師は藥師だからそれでいいじゃん」って言ってくれました。
自分でも受け入れられない事を受け入れてくれる人がいるんだなと感じて嬉しかったです。
そのおかげで他の人たちにも言えるようになったかなと思います。
その後、男性として生活を始めたのは、大学1年生の時。18歳からです。
初歩的な質問になりますが、LGBTということばについて詳しく説明していただけますか?
難しいですよね。
セクシュアリティ(性のあり方)は、4つの軸で分類する事ができます。
「自認する性」
「身体の性」
「好きになる性」
「表現する性」
この4つの組み合わせで性のあり方、セクシャリティが決まります。
4つあるんですね。
このうち「好きになる性」と「自認する性」を英語では「sexual orientation」と「gender identity」といいます。
これらの頭文字を取ってSOGI(ソジ)と呼ばれています。
へ~。
誰もがもっている性のあり方を総じてSOGIというのですが、SOGIにマイノリティー性がある人たちをLGBTといいます。
1つ1つ文字に意味があるんです。
L=レズビアン
G=ゲイ
B=バイセクシュアル
T=トランスジェンダー
LGBはさっきの話で言うと、「好きになる性」の対象が同性であったり、男性も女性も好きになったりする人のことを言います。
最後のトランスジェンダーは「自認する性」と「身体の性」が異なる方々を指すんですね。
分かりやすいです。
私は女性として生まれたのですが、自認する性が男性なので、トランスジェンダーの男性です。
さまざまな調査が国内でもありますが、LGBTの人の割合は3〜10%くらいといわれています。
10%だと大体左利きの人と同じくらいの割合がいるとも言われていますね。
最近、LGBTのほかにもQ+とかいろいろな呼称を耳にすることがあります。
LGBTっていう概念が日本で広く使われるようになったのは、まだ10年たってないくらいだと認識しています。
それに加えて今おっしゃって頂いたようにLGBTQ+、LGBTAなどいろんな表現の仕方があります。
なぜかというと、セクシュアリティって人の数だけあるとも言われていて、LGBTの4つに代表されるものではないんですね。
QというのはQuestioning(クェスチョニング)。性のあり方を決めていないとか決められないっていう人。
もしくはQueer(クィア)。もともとは「奇妙な」という意味の侮蔑的なことばだったのですが、いまでは逆に性の多様性を誇ることばとして使われています。
そして、AはAsexual(アセクシュアル)。どの性別の相手も恋愛の対象にならない人を指します。
セクシュアリティの呼称はほかにもたくさんあるのですが、全ての頭文字を並べることができずにLGBTQ+などと呼ぶこともあります。
でも「さまざまな呼称を集約して+(プラス)にするのはしっくりこない」という意見もあります。
実は多様な性のあり方を包括した呼び名はまだ進化の途中なんです。
多様すぎて、まだ模索中っていうところではあるんですね。
それぞれに名称をつけて区別するのにはどういう意図があるんですか?
非常におもしろい質問です。
名前を付けてくくる事が果たしてよいのか、それに何の意味があるのかっていう問いですね。
マイノリティーってマジョリティーの中でいないことになっていたり、見えなくなっていたりすることが多いんです。
例えばLGBTはなかなか見た目だけじゃ分からないし、言えない人も多い。
だから自分のまわりにはいないんじゃないかと思われる事も多いんです。
でもこれだけの人がいるんだよってことを可視化するために、グルーピングする意義があると思います。
広く認識してもらうために、あえてそれぞれに名称をつけているということ?
そのとおりです。
一方でそのグループの中にも多様な人たちがいるので、元来、グルーピングできるものではない。
だからいずれは「みんな多様だからグルーピングする必要ないんじゃないか」となるんじゃないかと。
そこで初めてラベルが取れていくと思っています。
そういうふうに社会が前に進んでいくといいなって思いますが、まだ日本ではこのグループをなくしていけるフェーズかというとそうではない。
時代をもっと前に進める必要があるのかなと思います。
最後に、藥師さんにとって仕事とは何ですか?
「社会が変わっていくこと」
その心は?
20代にこの質問をしていただいたら「私の仕事は社会を変えていくことです」って恥ずかしげもなく答えていたと思うんですよ。
でも多くの人たちと一緒に仕事をさせていただくなかで、誰か一人の仕事のおかげでなんていう考えはおこがましくて。
一人一人みんなの仕事のおかげで社会は確実に少しずつ変わっていっているんだなと。
役職や業務内容にかかわらず、すべての人の仕事が「社会が変わっていくこと」につながっていると感じています。
藥師さんのお話を聞いて、社会全体がもっと成長していってほしいなと思いました。
ありがとうございました。
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