教えて先輩!バーチャルサイクリングZwift 福田暢彦さん

ゴールは1つじゃないから面白い

2021年07月06日
(聞き手:田嶋あいか 本間遥)

  • お問い合わせ

自宅にいながら、スポーツジムのフィットネスバイクのようにバーチャルサイクリングが楽しめるサービス・Zwiftを日本で広げてきた福田暢彦さん。これまでにスポーツ業界で4社、転職してきましたが、大切なのは「その会社で自分がどんな役割を果たせるか」だといいます。就活生が聞きました。

スポーツの力ってすごい

学生
本間

福田さんは、学生時代から「スポーツ関連の仕事に就きたいな」っていうふうにお考えになっていたんですか。

高校時代はバスケット部で週6日部活漬けの毎日だったんですけど、レギュラーだったわけでもなくって、ベンチの方が多いくらいでした。

福田さん

一生懸命練習しても試合に出られるとか出られないとか、そういうのを見ているうちに、競争至上主義に違和感を抱いたのかもしれません。

じゃあ大学ではスポーツは…?

もっぱらアルバイトに忙しいキャンパスライフで、スポーツを止めていました。

学生
田嶋

そこからどうしてスポーツに関わる仕事に就くことになったんですか?

恥ずかしながら就活というものもそんなにしていなかったんですけど、「なんとなく仕事に就かなければ」という思いはあったので、派遣会社に登録して、たまたまスポーツアパレルの会社で働くことになりました。

サッカーのアパレルとかシューズとか、ランニングの用具を作るブランドなんですけど、スポーツに熱い人たちがものすごく多かったんですよ。

最初のスポーツアパレルの会社で働いていた頃の福田さん(右端)。W杯になると社員みんなで日本代表のジャージを着て応援。

ちょうどサッカーのW杯があって、朝出社すると総務部の社員さんがみんな日本代表のジャージ着てるんです(笑)

チームを手厚くケアする人もいれば、サッカーのイベントをこうしたら盛り上げられるんじゃないかっていう工夫をする人もいて、みんな一緒になって盛り上げようとしている。

その姿になんか感動したんですよね。「スポーツの力ってすごいな」って。

元々興味はなかったけど、そこでスポーツに熱い社員さん達に出会ったことによって今に繋がっているっていう感じなんですね。

そうですね。それを機に、「スポーツに携わる仕事をしていこう」と決意しました。

その後現在のZwiftにたどり着くまではどのようなキャリアを歩んでいらっしゃいましたか?

最初のスポーツブランドで9年間仕事をしていたんですけど、そこがアウトドア用品を取り扱い始めて、クライミングという競技をしている一人のアスリートに出会ったんです。

2012年と13年にリードという種目でワールドカップ年間総合優勝を果たしていた安間佐千という選手です。当時安間選手は、競技としてのクライミングから、自然の岩場に活動のエリアを移している時期でした。

2013年スポーツクライミング W杯リード種目に出場する安間佐千選手

ロッククライミングですね。

同じクライミングでも、他者と競い合うのではなく、自分と向き合うという趣向が強いスポーツなんですよ。

誰も行ったことのないコースを探して、どんな岩場でも工夫次第で登っていく。タイムやスコアを伸ばすということではなく、登り切った後にいい景色を見ることで満足できるんです。

へえ。

ああ、こんなスポーツもあるんだ。スポーツってもっと自由でいいんだ!と気が付きました。

クライミングで唯一アシストが必要なのがシューズなんです。岩場によっても、目的によっても必要なシューズが違う。

クライミング専用のシューズ。コースや種目によってシューズを変えて挑む選手が多いという。(写真は学生リポーターの私物です)

それで、もっと選手に対して深いケアがしたいと思って、クライミングの靴を専門に扱っている小さなスポーツメーカーに転職しました。

転職された会社にも、やっぱりスポーツに熱い方が多かったですか?

そうですね。家賃が払えなくなってもクライミングには行く!っていうような人がいっぱいいたので、面白い業界にいたなとは思いますね。

そこまで熱中できるものをみんなが持っているってめったにないですよね。

ないですね。スポーツをしてない人にしてみれば、何でそんなことするの?みたいな部分って結構多いじゃないですか。何で自転車で山を登るの?とか、何で素手で岩を掴んで登るの?とか(笑)

日本人のスポーツのイメージは、“やるなら強く、早く!”ってなりがちですが、僕はマイナースポーツのゴールが1つでないところに惹かれます。自転車なんて、そもそも移動手段ですしね。

たしかに(笑)。

自己満足の世界と言われるかもしれないけど、マイナースポーツを世の中に普及させていく仕事に魅力を感じて、その後もう一社外資系のスポーツメーカーを経て、今の仕事につながっている感じです。

会社の中でどんな役割を果たせるか?

外資系のスポーツ業界で4社変わられていますが、どうして転職という道を選んだんですか?1社目の大手企業でクライミングを広めることも可能だったのかなって。

私なら保守的な思考に走って、大手企業にずっと居続けて、クライミングをまあまあ広められたらそれでいいかなって考えちゃうと思います。

大きな会社だと僕は一つのファンクション(機能)しかできないんですね。例えば物を作ることが仕事だったとして、ソーシャルメディアでどういう発信をしていくかは僕の範疇ではないし、どういう選手と契約するかも僕の範疇ではない。

全部やりたいなと思った時に、やっぱり小さい会社へ行ってもっと掘り下げたいなと。そういうチャンスがやってきたから、やるしかないと思ったのが転職したきっかけです。

後悔はなかったですか?

無いと言えばうそになりますよね。金銭的な部分ではやはり大きく下がったし、でもそれ以外では特にないかな。

転職先を決める時に「ここだけは譲れない軸」はありますか?

一番大事なのは、どこの会社に行くかっていうことよりも、その会社の中でどんな役割を果たせるのかっていうのが見えているところに行きたいということを軸にしていますね。

僕の場合は、そのスポーツをやっている人とどれだけ近い距離の仕事ができるかっていうところが大きなポイントで。

選手と対話したり、お客さんと対話したりというような仕事ができるというのが一番大事です。

なるほど。

自転車にしても他のスポーツにしてもトップレベルでやっていたわけではないけれども、「英語が多少なりしゃべれます」みたいなスキルをスポーツとブレンドさせて、そこから出ちゃわないようにしながらキャリアメイクしていくっていう感じですね。

仕事選びと好きなことは別に考えた方がいいですか?

よく「仕事と遊びをごっちゃにしちゃダメだ」とか「仕事とプライベートは分けた方がいい」とかって言われたりするんですけど、僕はどちらかというと仕事とプライベートは今、切っても切り離せないものだと思うんです。

だから、どれだけ会社が自分のプライベートを大切にしてくれるか見抜くのは大事かなと思っています。

どういう仕組みで人事評価されるかというのはちゃんと聞いた方がいいです。

僕らの場合は「いつまでにユーザー数をこれくらいまでに伸ばしましょう」という目標がしっかり作られていて、それを達成さえすれば他は割と何をやっててもいいんですよ。

勤務時間も自由ということですか?

そうですね。例えばこの取材が終わった後に、15時から自転車に乗りに行って、夜になったらまた働くというのもOK。

土日雨で平日晴れていたら、平日に遊びを持ってきて、土日は家で仕事をするというのも個人の裁量でやっています。

すごいですね。

テントの中でリモートワーク

事前にいただいた一日のスケジュールを見ても、そんな感じですね。

そうですね。だいたい起床したらZwiftで軽めの朝練をします。乗りながら海外のニュースをよく見ますね。特にスポーツ関係のチャンネル。アメリカだとちょうどライブでニュースをやってる時間なんですよ。

で、終わったら朝ごはんをたべながら、国内のニュースを見ます。特に天気予報。

花粉の情報とか気温とかを見て、週末が晴れだったら、こういうことをしかけておこうとか、寒かったら家の中でZwiftしてくれるかなとか、全部天気によって変わってくるので、一番見るニュースと言っても過言ではないです。

面白いです。

アメリカチームとの打ち合わせはだいたい午前中に行われますね。打ち合わせがない時は、午前中はデータ分析とか、マーケティングのキャッチコピーを作ったり頭のエネルギーを大量に使うものをやってしまいます。

このランチライドってお昼ごはんを食べながら自転車に乗るってことですか?

食べながらが多いですね。3人しかいない日本チームで、Zwiftに乗って、ランチを取りながら、おしゃべりしたりします。

学生たち

へー!

完全リモートということですが、出社はほぼしていないんですか?

そうですね。でも、どうしても家に長い時間いると落ち着かない質なので、パソコンとか自転車とか山道具を全部持って山に行ってテントを立てて、テントの中でテザリングでWi-fiを繋いだりしながら仕事をすることもあります。

山に籠ってテントでリモートワークをすることも。

え!どのくらいの期間行くんですか?

去年は1か月ちょっとそうやって生活していました。

1か月も!

富士ヒルクライムのイベントが終わった後、燃え尽きて(笑)山を転々としながら、趣味のクライミングをやったりとか、自転車に乗ったりとか。

山でのリモートワークの合間には、趣味のクライミングも楽しむ。

山に籠ってリモートワークって聞いたことがなかったです。

夜な夜なテントの中から英語でバーっと喋りだしたりするので、周りはびっくりするんじゃないかと思います(笑)

自然の中に自分の体があったほうがいろんなインスピレーションが湧いてくるし、自分のワークライフバランスも成立しやすいんです。

もうそろそろ、また外にテントを持っていって仕事をする1週間を作ろうかなとか思ってますね。

最後に、福田さんにとって仕事とはどういうものですか?

「背負ってる感」だと僕は思っています。

決められた役割で判断するのではなくて、自分がどれだけ関わる人に責任を持てるかが大事なので、どんな仕事も流れ作業にせずにちゃんと責任感を実感しながらキャリアを刻んでいけると人生が楽しくなると思います。

背負ってる感のある社会人になれるように頑張ります。

お話を聞きたい先輩を募集します

詳しく知りたいテーマを募集