教えて先輩!早大ラグビー部 後藤翔太さん【前編】

才能がないから始めました

2020年07月22日
(聞き手:石川将也 勝島杏奈 佐々木快)

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今回の先輩は、早稲田大学ラグビー蹴球部コーチの後藤翔太(37)さんです。ことし1月、11年ぶりに日本一になったチームを支えました。自身も大学時代に日本一に輝き日本代表も経験。常に華のあるラグビー人生でした。でもラグビーを始めたきっかけは、負け続けた経験からでした。

得意な事がなかった

よろしくお願いします。

後藤さん

学生
石川

よろしくお願いします。今のお仕事について教えてください。

そこはもう、想像されてるとおりかなと思いますが、選手たちを日本一に導くという一点が仕事です。

屋外の風通しの良い場所で距離を空けて取材しました。

学生
勝島

年の離れた学生を指導するのは難しいと思いますが、人の心を動かすためにはどうすればいいですか?

それぞれの選手のバックグラウンドに想いをはせながら、この人何考えてるんだろうなとか、どういう想いでこっち見てるのかなとか、しっかりと受け止めて、その人を良くしようっていうところがその人に伝われば、人が動く可能性があるんじゃないかな。

選手に対しても、「俺がこういうことを教えたい」じゃなくて、「こいつをなんとかしたい」。僕は選手たちを良くしたいんですよ。

人を変えるのって、大変だと思います。

僕は自分なりの方法で、ある選手にアプローチしたんですが、なかなか変わらないわけですよ。その選手も自分がなかなか変わらないことが悔しくて、僕の前で涙流したりして。

僕自身のアプローチが彼には合ってなかったかもしれないなと思って、アプローチを変えたんです。そうすると、彼の表情もどんどんよくなって、パフォーマンスもやっぱり変わっていったんです。

最近の経験なんですけど、自分本位では人は動かないし、その人にとってどうやったらいいのかをもう1歩踏み込んで。そこが大事かなって思います。

学生
佐々木

選手の方を見つめる目に愛を感じます。

愛がないとね、バレるんです。だから打算的に言っても、選手の心は絶対に動かないんですよ。

そもそもラグビーに興味を持ったきっかけはなんですか。

僕は才能がありませんでした。足も遅くて、勉強もできなくて。子どもの頃からもう劣等感しかなかった。友達はサッカーができる、野球ができる、勉強ができる人もいて。

羨ましいな、僕も何かできないのか?と思っていました。でも水泳もダメ、英語教室も通わされたのだけど全然面白くない。

それで、逃げるようにラグビーをやりたいって言ったんです。

えー!

10年後に勝つ

競技を始めた時って「しんどいな」とか、周りとの差にくじけそうになった事はあったんですか?

ありました。全然勝てなかったですから。僕は中学1年生で1メートル43センチ、38キロでしかありませんでした。でも、もしかしたらラグビーだったらいけるかもって思ったんですよね。

感覚的にですか。

うん、感覚的に。まず自分で言いだしたからやめられないなっていうのが1つ。僕はスクラムハーフっていうポジションで、ボールをよく投げるポジションなんだけど、そこを磨けばもしかしたら…もしかしたらいけるんじゃないかなと思いました。

それで僕は10年後に勝ったらいいなと思ったんですよ。

結構長いスパンですね。

そう、今は勝てないから。今この瞬間で考えたら絶対くじけるじゃないですか。

それからどういう取り組みを行ったんですか?気持ちの面も含めて。

10年間の計画を立ててやっていったかと言われたらそんな訳ないんですよ。そんな計算が立つわけなくて。学校終わって1人でラグビーボール持って坂を走りに行ってね。

目標に向かって日々全力で取り組んでいったということですか。

もちろん修正は毎日ですよ。こういう練習のしかた、トレーニングの方がいいなとか、勉強もできなかったのでこういうふうにやった方がいいなとか。

なぜ勝てないかを考える

中には体の大きい子とかもいて自分では変えられない事ってあるじゃないですか。そういうもので挫折を味わってしまった時に乗り越えてどう進んでいくか教えてほしいです。

物事を捉える時に、この瞬間だけで捉えると駄目だと思うんですよ。今いいとか今悪いとかってあるんですよ、誰でも。

でも、そういう捉え方だと多分それは解決しません。

どういう事ですか?

この瞬間では勝てないけど、僕はその時に負けている人たちよりも考えている自信があった。だって勝てないから、その分勝つために何をすればいいか考えました。それが積み重なれば、もし仮にどっかで追いつけた瞬間に抜けると思いました。

逆に今プラスは危ない。今プラスはひっくり返される可能性がある。例えばいい大学に行っていい就職先が見つかった、よしこのまま続くんじゃないかなって。

でも今もしうまくいかなかった人は、すごい必死に考えていて5年後10年後その人たちはすごい成功をおさめるかもしれない。だからこの瞬間だけで捉える必要はないと思いましたね。

プラスに変えるには、そこに『いい負け方』と『悪い負け方』っていうのはあるんですか。

その負けから多くのものを学び取れるんだとしたらいい負け方になるし、何も獲得できないんであればいい負けにならない。負けたあとが決めるんじゃないですか。

就活生もちょうど今内定が出始めたところなので、失敗しちゃったなと思っている学生もいると思うので、すごくためになります。これからどう活かしていくかが重要っていうのはすごく刺さりました。

小さな成功体験

ぶれずに日々全力で10年間続けてきた結果として日本代表という大きな目標につながったと思うんですけど、継続させる秘訣ってなんですか。

1つは根本的に思いの強さっていうのはあるなって思います。もう1つは、ちょっとうまくなったなという絶対値で評価してあげることです。

スポーツの世界ですけど、基本的に相対なんですよ。自分たちがどんなに強くても相手に負けたら負けですよね。

でもテストで、前回50点しか取れなかったのに55点取れるようになった。そこは絶対値が上がっているわけですよ。もしみんなが頑張って順位は変わらなかったとしてもね。

小さな成功体験を噛みしめるということですか。

そういうことですね。

ストーリーで評価する

高校は「みんなと同じ環境では勝てない」と、地元・大分を離れ神奈川の桐蔭学園に。3年生の時に花園ベスト8。そして、強豪・早稲田大へ進む。

桐蔭学園時代の後藤さん

早稲田大学に入学した当時、「すげぇな」と思える人はいっぱいいたと思いますけど、競争というのは就職活動にも言えまして、そういう競争にどう立ち向かっていきましたか?

絶対値で見た時にこの人とは違う所に焦点を絞って、勝ちにいくことにしました。

違いが強さになるということですか?

そうです。

でも似ていると思います。自己分析という点で壁にぶつかって、自分に落とし込んで分析するという面ですごく似てるなって思いました。

相対的に強いかどうかっていう分析じゃなくて。就活で僕がもし採用する立場だったら、その人たちがこれまでどういうストーリーを築いてきたのかをただ知りたいよね。

別にその人はちょっと話し方がうまいとか、ちょっとTOEICの点数が取れるとかは仕事をしていくうえでほんの切り取った部分でしかないから。

社会の中で生きていこうとするといろんな人と関わったり、コミュニケーションをとったり、つながったりしなければいけない。その人がどういうふうに生きてきたのかっていう“そのもの”が強みになると思います。

自己分析をするうえで、やはりこれまでの過去を顧みることが大切ですか。

自分が生まれてからこれまでどういうふうに生きてきたか。ストーリーにしなければいけないんですよ。勝つためにもストーリーが大切でそれが分からないと次の一手は打てません。

全国大学ラグビー選手権でボールを持って走る後藤さん(2005年1月)

その人が苦労や困難をどう乗り越えてきたのかっていうストーリーを相手が感じると、会社でこれから起こるであろう困難を重ねあわせてね。

この人だったらこういうふうに乗り越えるんじゃないかな?とかイメージするよね。そういうふうに伝わると思うんだよね。

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