2022年03月25日
(聞き手:石川将也 梶原龍)
大手コンサルタント会社に勤める久古健太郎さん。かつてプロ野球で投手として活躍し、リーグ優勝を経験した経歴の持ち主です。
4年前に戦力外通告を受けてプロ野球を引退。しかし、そのわずか3か月後には、現在の会社に採用されたそう。思い切った転身を果たしたワケを聞きました。
学生
石川
いま、コンサルティング会社でどんなお仕事をしているのですか?
官公庁の支援事業プロジェクトや、民間企業へのシステム導入支援プロジェクトなどに携わらせてもらっています。
久古さん
スポーツに関わるところでは、サッカー観戦をどうやったらより楽しくできるか、どうしたらお客さんにより良いサービスを提供できるか、といったところでクラブチームのお手伝いをしています。
そういった幅広い活動をさせてもらってます。
久古健太郎さん
1986年5月16日生まれ 東京都豊島区出身 青山学院大学から日産自動車・日本製紙石巻を経て2010年ドラフト5位で東京ヤクルトスワローズに入団 戦力外通告を受けた3か月後に「デロイト トーマツ コンサルティング」に入社 企業や官公庁のコンサルタントとして活動中
まったく別の世界に飛び込まれて大変でしたか?
入社当初は本当に大変でした。
ビジネス用語とか、もう全然僕には分からない事だらけだったので。
周りの人たちがどういうことを話しているのかとか、まずは仕事の基礎をつかんでいくところから始まりました。
その後、少しずつ仕事に慣れていったかなっていう感じですね。
学生
梶原
引退を決断された時のお気持ちってどんな感じだったんですか?
2018年に戦力外通告を受けまして、その後、最後の望みをかけたトライアウトというテストを受けたんです。
でも、どこの球団からもオファーがなくて、引退を決意しました。
そのころ、どういうお気持ちで野球と向き合っていたんですか?
最後の年は、ずっと2軍でプレーしていて、自分の思うようなプレーができなくなっていました。
調子が良かったときでも、自分ではなく若い選手が1軍に上がる姿を目の当たりにして。
こういう状況で自分のモチベーションを保って、野球をやるっていうのはすごく苦しかったですね。
引退するまでは、野球が人生のすべてみたいな形でやっていましたので。
野球人生に終わりを告げることへの葛藤はあったんですか?
やっぱり、寂しさや後ろめたさは多少なりともありました。
とはいえ、自分の中でやりきったところも結構強くて。
最後まで「どうしたらうまくなれるのか」とか「バッターを抑えるためにはどうしたらいいのか」ってずっと考えてきた結果、戦力外通告を受けたので。
そうだったんですね。
もうこれ以上やることはないと、出せるすべは全て出し尽くしたっていう思いがありました。
そういう意味では、けっこう早く切り替えができたのかなと思います。
なぜ、これまでとはまったく違う道に進もうと思ったのですか?
大変ありがたいお話で、球団からは球団職員としてのポジションを用意して頂いたり、以前から親交のある方からは就職先の紹介をいただいていたんですが、その都度、お断りさせていただきました。
えっ、どうしてですか?
プロ野球選手のセカンドキャリアって、野球にかかわる仕事だったりとか、知り合いのツテで就職したりというイメージが強いのかなと思います。
そういう既成概念が自分の中にもあったんですが、それが、本当にやりたい事や、自分の可能性みたいなものを決めつけてしまっているんじゃないかと感じて。
だから僕は、今まで先輩方が歩んでいないようなキャリアを歩みたいなと思いました。
とはいえ、もちろん不安もありましたし、家族もいるのでチャレンジするリスクもありました。
でも、リスクを背負わないと自分の行きたい道に進むのは難しいんじゃないかって思ったんです。
その目標感が高いからこそ、そこから逆算して起こる行動のレベルも上がってくるのかなと。
そういう考え方って、なかなかできるものではない気もするんですが…。
僕は大学を出てから社会人を経てプロに入りました。
そういう意味では、自分にとっての大きな決断っていうのを何回かしてきていたんですね。
たとえばヤクルトから声をかけて頂いた時は日本製紙に残って会社員を続ける選択肢もありました。
当然、その時は、活躍できるかどうか分かりませんでしたが、結局はプロ野球選手としての道を選びました。
今思い返すと、自分の中では「常に厳しい道に」という判断基準みたいなものがありましたね。
自分にとって厳しい選択をすると得られるものが変わってくるということですか?
やっぱり自分がどういう環境にいるかで、自分のパフォーマンスって変わるって思っていて。
たとえば、あのまま社会人野球を続けていたならば、社会人の打者を抑えるための練習を続けていればよかったんです。
ところが、プロ野球の世界に入れば、当然、プロのバッターを抑えるための練習をしなきゃいけない。
こうした時に、「どっちが自分の可能性を高められるのか」って考えたらおのずと答えがでますよね。
なるほど。すごく納得しました。
転職活動では、就活生と同じように自己分析もされたんですか?
もちろんやりました。一番最初は、まずやり方が分からないので本を買いに行って。
本を?
知識がなかったので。本当みなさんと一緒ですよ、そこは。
それで、僕は「野球を通じてどこに喜びを感じていたのか」っていうのを紙に書くところから始めました。
そうだったんですね。
試合に勝っても、自分が打たれたら、心から喜べない。
では、何で野球が楽しいかを考えると、自分が成長できた時、自分がやろうとしていることが実現できた時に、一番の喜びの根源があったなと。
自己分析をしていく中でこうしたことがだんだん明確になってきた時に「社会人として一番早く成長できるところはどこなんだろう」って考えたんです。
そのとき、コンサルティング会社という厳しい環境を選ぶことが僕の中の答えでした。
自分の野球の喜びの源泉と、次のキャリアで自分がどういった環境を選ぶかというところがだんだん結びついていったんです。
いまはどんな形で野球と関わっているのですか?
VR=仮想現実の技術を使って、離島の高校生に指導を行っています。
でも、これは、野球に関わりたくて始めたというよりも、地方の課題解決の手段としてやっているものです。
地理的にハンデのある高校に対してレベルの高い指導を、最新技術を使って行う事で、その離島から離れていく選手を減らしたり、野球を起点に地域を活性化させたりできないかと考えています。
そんなお仕事もあるんですね。
結構、コンサルティング会社って、いろんなことやっているんです。
企業の課題解決だけでなく、こうした社会課題の解決みたいなところも支援させていただいています。
今後も野球に関わっていきたいとお考えですか?
正直そこには固執していません。
ただ、僕の関心事としては、アスリートが引退後に、次のキャリアでもしっかり自分の足で歩めるようにしたい。
子どもたちが純粋な気持ちでプロアスリートを目指せる環境づくりを進めることがすごく大事だと思っていて、そのためには引退後のキャリアに対する不安を取り除いてあげることが必要です。
いつか、そういった側面でスポーツ界に何かを還元できたらいいかなと思います。
ありがとうございました!
ありがとうございました!
編集:清水阿喜子、撮影:佐藤巴南
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