1からわかる!マイナンバー(3)

カードからマイナンバーが消える?

2023年06月29日
(聞き手:藤原こと子 堀祐理 平野昌木)

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トラブルが相次ぐマイナンバーカード。政府や自治体が対応に追われる中、“新カード”発行の検討が始まりました。
このタイミングで、デザインや仕様を変えようという思惑は?そしてカードが描く少し先の未来とは?解説委員に聞きました。

え、もう新カード登場!?

最近、霞が関でマイナンバーの仕事を担当している人達から「マイナンバーカードは名前が良くなかった」「本当は別の名前にすべきだった」という話をよく聞きます。

解説委員
竹田

学生

どういうことですか?

竹田忠解説委員は経済、雇用、社会保障が専門。2012年から始まった、医療・介護・年金・子育ての充実を目指す「社会保障と税の一体改革」を担当。「マイナンバー制度」について開始当初から繰り返し取材してきたスペシャリスト。自身の「マイナンバーカード」は交付が始まったばかりの2016年にいち早く取得した。

マイナンバーと、カードは別モノなんです。

マイナンバーとカードのそれぞれの役割についてはこちらの記事をご覧ください
【1からわかる!マイナンバー(1)そもそも何のためにあるの?】

特に最近はマイナンバーそのものより、カードのもうひとつの見えない番号、つまりICチップの電子証明書の方が使い道が拡大しています。

といいますか、これこそが行政サービスのデジタル化の中核です。

でも、オンラインでのサービスが拡がるたびに“大事なマイナンバーを勝手にそんなことに使っていいのか!”という反応になってしまう。

“いやいや、マイナンバーは使わないんです”“使うのはICチップなんです”と説明しても、“じゃあなぜマイナンバーカードを使うんだ!”ということになって、なかなか理解してもらえないというんです。

行政からするとカードは今や、国民IDカードとしての役割が主体になっているので、必要な時に使えるよう携帯して欲しいと考えています。

一方で、マイナンバーカードという名前から連想して、大事な番号が知られないようにしっかり家で保管しておこうという人も少なからずいます。

そのギャップが埋まらない限り、カードを持つ人が増えても、なかなか利用してもらえないというのが現状です。

学生
平野

私も普段は持ち歩いていないです。

なぜこういう話を始めたかというと、まもなくカードの大量更新の時期が来るからです。

学生
藤原

えっ?

カードの交付が始まったのは2016年1月からです。

カードの有効期限は10回目の誕生日を迎える日までですので、2025年1月以降に失効するカードが出始めます。

このため、単純に考えると、その3ヶ月前の2024年終盤から更新のための手続きが始まることになります。

今持っているカードが替わるんですか?

本人の写真を新しいものに変更するのが狙いですので、古いカードを返却して新しいものと交換します。

なので、これを機に券面のデザインや仕様を変えて“新カード”にしようという検討が始まっているんです。

新カードの発行は2026年中を想定していて、最大の変更は、カードからマイナンバーの表記が消えることになるかもしれません。

まだあくまで検討段階ですが、カードの表面にマイナンバーを記載するのはやめるべきだという声が強いんです。

どうしてなんでしょうか?

そもそもマイナンバーのついた個人情報は法律によって「特定個人情報」と言う特別な位置づけとなり、利用や保管には法律上の厳しい規制があります。

なので、カードの発行が始まった時も政府自身が、情報保護のために券面のマイナンバーを見えないようにする透明のカバーを付けました。

なにせその当時はマイナンバー保管用の金庫が売れたという話があるぐらいなので、今になって保護だけでなくもっと活用しましょうと言われても利用者からすれば素直には受け入れられません。

ならば不安のもとであるマイナンバーを記載することをやめたらどうかということです。

マイナンバーカードなのに、マイナンバーをなくすんですね。

そう考えるとちょっと変ですよね。でも、マイナンバーそのものはICチップの中に記録されていますし、今年5月からはそのICチップの機能をスマートフォンに搭載することが可能になりました。

※アンドロイドのスマホのみ

将来、マイナンバーはスマホで確認したり、スマホで証明することが普通になるかもしれません。

ちなみにマイナ保険証もスマホで使えるようにする計画です。

というわけでカードからマイナンバーの表示が消える可能性は十分にあります。

それどころか、マイナンバーカードという名前も変えてしまうかもしれません。

名前もですか?

もしマイナンバーが見えなくなれば、マイナンバーカードと言う呼び方は違和感がありますし、政府としては一連のトラブルのイメージを払拭するためにも、「カード一新!」などと言って、全く新しい名前に変えるかもしれません。

まだ何も決まっていませんが、最初に紹介した霞が関の声はそういうムードを表しているのではないかと考えています。

いずれにしても今後、目先の変化があろうとなかろうと、必要なことは行政サービスがカードによってもっと安全に、そしてもっと1人1人にとって便利になるかどうかですから。

マイナ保険証が目指すは医療DX?

その先行きでやはり気になるのはマイナ保険証のことなんですけど。

そうですよね。今回、いろいろトラブルもありましたからね。

マイナンバー改正法が6月2日に成立しました。これによって今の健康保険証が来年(2024年)秋に廃止され、カードを保険証として使う「マイナ保険証」に一本化されることが正式に決まりました。

マイナ保険証にしないとダメなんですか?

まず大前提としてカードを持つことは義務ではありません。

なのでカードを持たなかったり、持っていても保険証とひも付けていない人は、申請すれば保険証の代わりとなる「資格確認書」が無料で発行されます。

ただし有効期限は最長1年間で、更新が必要です。また政府はマイナ保険証の場合よりも窓口負担を割高にすることも検討しています。

なるほど…。

さらに使い方も変わります。この点についてはまだ政府の説明が不足していると感じています。

例えば、今の保険証なら普通は月替わりに1回提示すればOKですよね。

しかし、マイナ保険証は毎回必要になります。受診のたびに持参して顔認証のカードリーダーに読み取らせることが必要です。

どうしてそうするんですか?

これはカードの写真と本人を毎回照合することで、他人によるなりすましを防ぐためです。

今の保険証には写真がないため、そういうチェックをしたくてもできなかったわけです。

そして保険証の有効期限が変わります。5年で更新が必要です。

カード自体の有効期限は10年ですよね?

カードの有効期限は2つあって、ICチップの電子証明書は5年になっています。

マイナ保険証はこの電子証明書の機能を使ってアクセスします。なので、有効期限は5年で、役所に出向いて更新しないといけません。

今までは更新時期になると新しい保険証が送られてきましたが、マイナ保険証ではそんなことはありません。

そもそもなぜマイナ保険証に一本化するんですか?

簡単にいうと医療のデジタル化、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるためです。

医療DX?

例えば、マイナ保険証になると利用者は医療機関や薬局での診療情報や薬剤情報、そして医療費の情報などをオンラインで確認できます。医療機関や薬局も本人の同意があれば閲覧できます。

政府はこうしたことに加えて、将来は医療機関のカルテ情報や自治体の予防接種、それに介護情報なども含めた医療情報基盤(プラットフォーム)を作ろうとしているんです。

こうした情報を本人や医療機関などが必要な時に閲覧できれば、個別の診察では判断が難しい総合的な診療の判断や健康管理が可能になり、医療費の効率化も期待できるからです。

さらに、医療ビッグデータとしての活用も期待できます。

医療ビッグデータですか?

一人一人の情報を匿名化して集めることができれば、地域間の健康格差や医療費格差、治療方法の比較、リハビリの効果など、医療と介護にまたがるさまざまな課題解決のヒントが見つかる筈です。

医療だけじゃなく介護も?

そうです。特に介護保険というのは、要介護度に応じて受けられるサービスや料金が違ってくるので、要介護度が変わると役所に行って介護保険証の情報を書き換えなければなりません。

本人が出向けない場合は代理人が行くことになりますが、健康保険証と同じように介護保険証もカードに一体化させれば自宅からオンラインで必要な手続きができます。

介護サービスを提供する側も、その人が医療機関でどういう治療を受けてきたかがわかれば、より適切な介護が可能になる筈です。

介護保険証とマイナンバーカードの一体化については以下の記事で詳しく解説しています
【介護保険証もマイナカードと一体化へ その理由は?】

大きな話なんですね。

ただ、一体化については、新たな問題が指摘されています。

新たな問題ですか?

それは保管や管理の問題です。高齢者や障害者の施設では、健康保険証や介護保険証を預かっている例が多いんです。

マイナ保険証になれば、今度はカードを本人や家族の同意を得て暗証番号付きで預かることになるでしょう。でも、カードと暗証番号が揃えば、本人になりすますことが可能です。

もし悪意のある人に盗用されたらどうなるのか。全国保険医団体連合会が3月に高齢者施設を対象にしたアンケート調査では、94%の施設がマイナカードを「管理できない」と答えました。

政府がマイナ保険証への一本化を進めたいなら、弱い立場の人や困っている人をさらに困らせることのないよう、こうした現場の問題にキチンと対応すべきです

さらに今後は、他の証明書との一体化や、利用拡大を進める計画です。

政府がこのほど閣議決定した「重点計画」によると、カードと運転免許証との「一体化」の開始がこれまでの「24年度末まで」から「24年度末までの少しでも早い時期」と修正されました。

ただこの場合は、健康保険証とは異なり、現行の運転免許証の廃止は想定されていません。

こっちは2枚持ちが可能なんですか?

そうです。今の免許証だけでもいいし、両方持って、どちらを使ってもOKとなる見通しです。

また重点計画では母子健康手帳との一体化も進めることになってます。今年度中(2023年度中)に希望する自治体から始め、その後、全国的な運用を目指します。

赤ちゃんの予防接種記録や乳幼児健診・母子健康情報などのデータがスマホに搭載されるカードのアプリでいつでも、必要な時に確認できるようになるとしています。

便利にはなるんですかね?

懸念もあります。情報を入力するのは市区町村の職員で、紙の健診結果を手作業でシステムに入力することになります。

またもや、データの誤入力やひも付けミスが起きてそれをもとに母親が誤った判断をすれば大変なことになります。

入力ミスが起きないよう、そして起きてもすぐに気づけるよう、システムの整備が必要です。

デジタル庁の資料

さらに、まだ正式な計画になっていないものも含めて政府には人の誕生から最後まで、ライフステージごとに様々な手続きとカードを連携させようとする構想があります。

連携やひも付けが増えれば増えるほど、利便性と同時にリスクも高まります。政府はセキュリティーを徹底させることが必要です。

カギを握る「マイナポータル」

マイナンバー制度で、今後重要なカギを握るのは「マイナポータル」の充実です。

カードの所有者がオンラインで利用できる自分専用のサイトで、納税額や医療費などの情報を確認できたり、行政サービスの手続きなどができます。

多くの人はマイナポイントを申し込むためにこのアプリをインストールしたもののその後はほとんど使っていないのではと思います。

なぜマイナポータルが重要なカギなんでしょうか?

理由は2つあります。

1つは、自己情報の確認と行政の監視です。

自己情報ってなんですか?

私たちの税や社会保障の情報は、番号によってひも付けられ、必要に応じて省庁間で確認されています。

マイナポータルの中には「やりとり履歴」の機能があり、自分の情報について「どの行政機関が」「いつ」「何のために」「どの情報を」照会したのかが確認できるんです。

自分の情報がどのようにやりとりされているかを自分自身で確認できることは、セキュリティー面でも大変重要なことです。

そしてもう1つが、プッシュ型行政の可能性です。

プッシュ型ってなんですか?

日本の行政サービスは、本人が申請してはじめて給付が受けられる申請主義を採っています。

本来なら給付を受ける資格があっても、本人がそれに気づかずに申請できなければ給付は受けられない

困窮者支援の制度についても、本当に困っている人は制度について調べたり、行政に相談したりするゆとりがないため、結局制度が行き届いていないということがよく言われます。

それを解決するのがプッシュ型ですか?

はい。欧米には、本人からの申請は必要とせず、行政が番号制度を使って自動的に対象者を割り出し、低所得者支援などを行う「プッシュ型」行政の仕組みがあります。

実は日本でも、地方自治体や国が継続的に行う手当の中にプッシュ型給付が出始めていますが、まだ部分的、例外的です。

ただマイナポータルには、行政がその人に合わせたお知らせや通知を行う機能があります

今後マイナポータルがもっと様々な情報やサービスを扱えるようになれば、困った人がアクセスした時に自分がどんな行政サービスを受けられるかが、すぐにわかるようになるかもしれません。

もしそういうことができれば、みんながカードを利用すると思います。

私もそう思います。カードの普及はあくまで手段であって、目的ではありません。

目的はデジタル化を進めることによって、誰も取り残さない行政や社会を、そして多様な社会を実現することです。

若い皆さんがぜひ、声をあげ、アイデアを出し、そういう社会を作ってくれることを期待しています。

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