目指せ!時事問題マスター

1からわかる!少子化問題(1)このままだと日本はどうなるの?

2023年03月02日
(聞き手:黒田光太郎 佐藤巴南 堀祐理)

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いま、日本が直面している大きな課題の1つ「少子化」。よくニュースで見聞きするけど、あまり実感がわかない…と感じている人も多いのではないでしょうか。

 

でも、このまま少子化が進むと、いまの私たちの生活に必要なサービスが受けられなくなってしまう可能性もあるんです。このままだとどうなってしまうの?その原因と対策は?長年、取材を続けている山本恵子解説委員に1から聞きました。

学校も病院もなくなる?

学生
佐藤

「少子化」が進むとどうなるのか、あまりピンとこない、という人もいるんじゃないかと思います。

当たり前ですが、少子化によって、まずは人口そのものが減ってしまいます。

山本
解説委員

そうすると、皆さんの住んでいる地域から、あるのが当たり前だと思っていた学校や病院なんかがなくなってしまう、なんてことが起こるかもしれません。

山本恵子 解説委員

1995年にNHK入局。社会部や名古屋放送局などで記者を歴任。これまでに20年以上にわたり少子化問題の取材を続けている。現在は名古屋放送局のニュースデスクと解説委員(ジェンダー・男女共同参画担当)を兼務。中学生の娘の母。

学生

えっ!?

全国には地方を中心にすでに過疎化が進んでいる自治体がたくさんありますよね。

このまま少子化が進めば、2040年までに全国の地方自治体の半数が消滅の危機に瀕する恐れがあると指摘する推計も出ています。

民間の有識者などでつくる「日本創成会議」が2014年に公表した推計。2040年には896の自治体で20代~30代の女性が半減し、将来的に消滅する可能性があるとしている。

人が住まなくなるということは、その地域で税金を納める人が減っていくということです。

そうすると、その自治体が運営している学校や病院、ゴミの回収などの公共サービスが維持できなくなってしまう恐れがあるんです。

確かに、私の地元でも小学校が統合されました…。

小学校って災害時の拠点でもあるので、地域の防災計画にも関わってきたりしますよね。

そして、鉄道やバスも、利用者が減れば路線を維持できなくなりますし、警察官や消防士などのなり手が不足して、地域を守る力が弱まっていく、なんてことも懸念されます。

学生
黒田

いろいろなところに影響が出るんですね…。

4割が高齢者の時代に?

もう1つの大きな問題が、子どもの数が減り高齢者の割合が増えることで人口の構成比が変わってしまうことです。

65歳以上の高齢化率がどんどん上がっているんですね。

2020年には28.6%だったのが、2065年には38.4%になると推計されています。

今でも年金や医療などの社会保障は働く世代の2~3人が高齢者1人を支えている計算で「騎馬戦型」と呼ばれています。

しかし、子どもが減って働く世代が減っていくと、この先ほぼ1人が高齢者1人を支えなければならない時代になります。

1人が1人を支える「肩車型」と呼ばれる構図です。

すると、これから働く世代の皆さんの負担が今よりも重くなっていく可能性があるんですね。

そんなことに…。

あとは、自分が年金をもらう年齢になったときに、年金や医療、介護といった今のような社会保障の制度が維持されているかどうか、ということにもなってきますよね。

介護を受ける側になっても「介護してくれる人がいるの?」という社会になってしまっているかもしれません。

去年は72万人減

日本の人口って少子化でどれぐらい減っているんですか?

日本の人口は2022年1月1日現在で約1億2592万人。これ、実は2021年1月1日時点と比べて72万人減っているんです。

72万人って徳島県全体の人口とほぼ同じ。これぐらいの規模の人口が毎年、減っているんです。

そんなに減っているんですね。

実際に生まれた子どもの数をみると、少子化がどんどん加速していることが分かります。

厚労省のまとめ 出生数の減少は7年連続

ご覧のように、第1次ベビーブームの1949年には約270万人の子どもが生まれました。

その後、第2次ベビーブームが1970年代の前半にあって、その時は年間200万人。

そこからだんだん下がっていって、2022年に生まれた子どもはとうとう80万人を切って過去最低になりました。

少子化が進むと、子どもを産むことができる女性の数も減っていくので、どんどん加速していってしまうんです。

少子化がさらに少子化を進めてしまうと…。

結婚している人も減っている

ここまで、少子化が進んでしまった原因は何ですか?

一番の原因は結婚する人の数が減っていることです。

下のグラフは、1年に何組が結婚したかの推移を示しています。

去年は51万9823組と、過去最低だった2021年と比べ5500組ほど増えましたが、過去最低の低い水準が続いています

ピークだった1972年の半分以下に減ってしまっているんですね。

結婚をしない人の割合も増えていて、2020年には50歳の男性の28%、女性の18%が結婚したことがないという状況になっています。

日本では結婚しないで子どもを産むという選択をする人が少ないので、結婚する人が減っていることが少子化に直結してきます。

“経済的な問題”が一因に

どうして結婚しない人が増えているんでしょうか?

まず大きいのが「経済的な問題」。収入の低さや雇用の不安定さです。

下の図は、男性が結婚している比率を雇用形態別に分けてグラフにしたものです。

30歳~34歳で見た場合、正規、いわゆる正社員の59%が結婚しているのに対して、非正規では22%となっています。

倍以上も差が…。

しかも、非正規として働く人の数は増加傾向にあるんです。

総務省の調査では2021年の時点で男性全体の22%が非正規。

25歳~34歳でも14%が非正規という結果が出ています。

男性の場合は年収が高い人ほど配偶者のいる割合が高い傾向にあるというデータもあって、”結婚はぜいたく品”と感じる人たちもいる状況だといえます。

“愛読書”の少子化社会対策白書 内閣府が毎年、発行している

ちなみに、女性は非正規の割合が男性よりもさらに高くて、全体で5割を超えている状況です。

積極的に結婚したいと思わない理由を聞いた調査では、20~30代の男女のおよそ4割が「結婚生活を送る経済力がない・仕事が不安定だから」と回答しています。

あんまりお金と結びつけたくはないですが、実際に結婚して子どもを産んだらすごくお金がかかりそうだという不安があります。

まさにそのとおりですよね。

妻の年齢が35歳未満の夫婦を対象に、理想とする数の子どもを持たない理由を聞いた国の研究機関の調査では、全体の実に77%が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を理由に挙げています。

日本は教育に関して家庭がその多くの費用を負担しているんですよね。

大学まで教育を無償化している国もあるなかで、日本は家庭の負担がものすごく大きい

そうしたこともあって、今は大学生の2人に1人が奨学金を利用している状況なんですね。

大学を卒業後、いきなり数百万円の借金を背負うという状況では、なかなか結婚して子どもを持つことまで考えづらいですよね。

そうかもしれません…。

教育にお金がかかる一方で、子どもには良い教育を受けさせてあげたいと思う人も多いはずです。

そうすると、それだけ稼がなきゃいけないのが日本の現状なんですね。

若者の雇用が不安定で収入も増えないなか、将来への不安が大きい。

このため「将来、子どもにかかるお金が心配だから子どもは持たない、持てない」という状況になっているのではないかと感じます。

女性に負担が偏っている

経済的な理由と並んで結婚が減っている理由として挙げられているのが「女性に負担が偏っていること」です。

さきほど紹介した積極的に結婚しない理由を聞いた調査で、男女で差があり女性が高かったのが「仕事、家事、育児、介護を背負うことになるから」です(20~30代の女性39%、男性23%)。

それはどうしてですか?

その背景には「男は仕事、女は家事・育児」という固定的な性別役割分業意識がまだまだ残っていることがあると考えています。

私自身も子育てをしながら働いてきて、こうした厳しさを実感してきました。

どんなところで感じたんですか?

少子化といいながら、15年ほど前は待機児童問題で保育園は狭き門。入れなかったら職場に復帰できないという不安がありましたし。

無事、保育園が決まって育休から仕事に復帰しても、職場では出産前のように残業や泊まり勤務ができないので肩身は狭く、昇進も遅れました。

働き方に制約があるので、会社では「早く帰ってごめんなさい」と謝り、保育園では子どもに「お迎えが遅くなってごめん」と謝る。罪悪感との戦いです。

さらに電車に乗れば泣かないか、周りに迷惑かけていないか常に気を遣って。

悪いことしているわけじゃないのに、なんでこんなに謝らなければならないのだろう、なんで全部を1人で背負わなきゃいけないのだろうかって悲しくなって夕日に向かって泣いたことがありますよ。

そうだったんですね…。

以前と比べるとだいぶ子育てしながら働きやすくなったとはいえ、女性にこうした子育ての負担が偏りやすい傾向ってまだまだ残っていると感じます。

こんな状況だと、職場や環境によってはキャリアは諦めないといけないこともでてきますよね。

こんなに子どもや子育てしている人に厳しい環境では少子化になるのは当然だと感じていました。

18歳の意識にも

なかなか少子化が改善する見込みもないのでしょうか?

少なくとも急激に回復する期待は持てない、というデータも公表されています。

日本財団が去年、17歳~19歳の男女1000人を対象に行った意識調査の結果を見ると、将来、「子どもを持つと思う」と答えた割合は「必ず」と「多分」を合わせて46%。

「持たないと思う」と答えた割合は合わせて23%でした。

日本財団の資料より作成

もちろん、この先、どう意識が変わるかは分かりませんが、5人に1人の若者が「子どもを持たないと思う」と答えている実情だけを見ると、このまま少子化が進んでいきますってことになりますよね。

そう感じてしまいますね…。

ここで重要なのが「なぜか」というところ。

やはり、そこには「金銭的な負担」と「仕事との両立」という2つが子どもを持つ上での大きな障壁となっていることが、この意識調査の結果からも明らかになっています。

少子化を解消していくためには、この辺りの不安や負担感を払拭していかなければならないわけです。

みんなが暮らしやすい社会に

聞けば聞くほど、深刻な状況だというのが伝わってきました。

子どもを育てにくい、持ちたいと思えない社会だから少子化になっているわけですが。

それって出産や子育ての当事者だけでなく、他の人たちにとっても生きづらい社会なんじゃないかって思います。

雇用が不安定で経済的な不安があったり、男性は長時間労働で、女性に家事・育児の負担が偏っているとか。

やっぱり自分たちが生きやすい世の中にしていかなきゃ、子どもを安心して産んで育てられないですよね。

日本の社会全体を見直すような?

そうですね。

少子化で考えるべきは「皆さんが、これから生きていくのは、どういう世の中がいいですか」という1つの大きな問いに対する答えだと思っています。

赤ちゃんから、おじいちゃん・おばあちゃんになるまで安心して暮らせる世の中にしていかないといけない。

突き詰めれば、少子化対策ってそういうことなんじゃないかなと思います。

社会のあらゆる面に影響する少子化。次回は、少子化の状況を変えるにはどうすればいいか、その具体的な対策について見ていきます。

撮影:藤原こと子 編集:岡谷宏基

※少子化対策について詳しく取り上げた「ニュースなるほどゼミ」の番組ホームページはこちら

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