2022年03月04日
(聞き手:小野口愛梨 本間遥)
ことし4月から、成人年齢が18歳に引き下げられます。どうしていま引き下げ?そもそも大人、成人って何?20歳になったばかりの学生リポーターが、司法担当の山形晶解説委員に1から聞きました。
いきなりですが、そもそも大人、成人って何?というのがすごく気になります。
逆に、大人とは?と聞かれたらどう答えますか。
仕事を持つ社会人というイメージ。
責任感がある人ですかね。
なるほど。ただ責任感で言うと、年齢が結構いっているのに無責任な人もいますよね。
確かに(笑)。
「大人」を辞書で引くと「一人前」とありますが、人によってイメージも違いますし、何をもって大人とするかは本当に難しいんです。
でも、どこかで線を引いて決めておかないと世の中うまく回らない。
だから成人年齢が決められています。
山形晶解説委員は、司法取材のスペシャリスト。社会部記者時代には裁判員制度が始まり、制度をめぐる課題を取材。2020年から司法・事件事故などを専門とする解説委員を務める。
なんでうまく回らないんですか?
例えば、大きなお金が関わる契約の話。
判断力が未熟な人のことはトラブルが起きないように保護しないといけないですよね。
そうですね。
でも見た目が大人で「自分は大人だ」とも言っている相手が、実は内面的には未成熟だった。
それで後になって「この契約なしにして下さい」と言ってきたら、そんなのあり?となりませんか。
それは困ります。
とはいえ、それって見た目では分からない。
だから、“内面的に大人かどうかは分からないけれど、法律的には大人のカテゴリーにしよう”。 その線引きをしようというのが「成人年齢」。
つまり、「大人になる」ということではなくて、「大人になったとみなそう」ということ。
今回それが18歳になる。
4月の時点で18歳と19歳の人たち、全国で200万人ほどが一斉に成人になります。
じゃあ、本人の意思とか感覚とか関係なく“大人扱い”されるということなんですね。
そうです。急に大人扱いになるんです。
で、それを決めているのが、法律の中で一番基本的なものとも言える「民法」。
今回は、その民法が変わったということなんですね。
でも、どうして今だったんですか?
端的に言えば「政治主導」です。
政治主導?
政治に参加してもらいたいという政治側の要望というか意図があったんです。
きっかけは、2007年に成立した「国民投票法」をめぐる議論でした。憲法を改正する具体的な手続きを定めた法律です。
国民投票の対象年齢を何歳にしようかとなったとき、国会で「18歳に参加してもらいたい」となったんです。
どうしてなんでしょう?
当時の国会での議論を見ると、「世界に合わせる」という考え方があったみたいです。
2008年に法務省がまとめた調査では、世界の国と地域187のうち141で成人年齢が18歳かそれ以下(※16歳・17歳)。
選挙権年齢でみると170で18歳かそれ以下(※16歳・17歳)でした。
いずれも18歳が大半。
「20歳」は少数派でした。
そうだったんですね。
こういう状況を踏まえて、憲法改正は大きな問題なので、若い人にも参加してもらったほうがいいということになったわけです。
ただ2007年から、ずいぶん時間がたちましたね。
国民投票の法律ができた時、民法の成人年齢や、国会議員などを選ぶ選挙権の年齢も国会で議論しましょうということにはなったんです。
「社会参加」という意味では共通する部分もあるので。
でもいろいろ手続きを踏んでいるうちに時間がたってしまいました。
いろいろ議論をしたわけですね。
そうです。その流れの中で2015年には、公職選挙法が改正されて、選挙権年齢が18歳になりましたよね。
そうでした。
そして選挙権を下げるのであれば十分な判断能力があるということ。
それなら契約などを自分で判断できるとみなしてもいいだろうということで、今回の民法改正につながっていきます。
19歳や17歳ではなく、どうして18歳なんでしょう?
その点は明確な答えを持ち合わせていないんだけど、18歳で就職して経済的に自立する、進学して親元を離れる、といった人がそれなりの割合でいる。そのことを意識した議論も見られましたね。
確かに18歳で生活スタイルが変わるという感覚は、私たちから見てもしっくりきますね。
法律上、成人になると実際、何が変わるんですか?
一般的に大きく2つの意味があると言われています。
1つは「契約」。
自立した責任を取れる立場であるという考えから、契約を自分で結べる、親の同意はいりませんということ。
たしかに未成年のとき、スマホの契約に親の同意が必要でした。
未成年は守られる立場。とんでもなく不利益な契約を結ばされてしまう心配があるので必ず親の同意がいります。
それに「親の同意がない」と言うだけで、どんな契約も取り消せます。強力に保護されているんです。
守られていますね。
もう1つの意味はちょっと抽象的なんだけど、「親権」って聞いたことありますか?
はい、あります。
これは、親の権利でもあるんだけど義務でもあります。
どういうことですか?
親の権利と書くから、親が子どもを言うとおりにさせるイメージを持つかもしれないけれど、そうではなくて、ちゃんと子どもを守り育てていく権利であり義務。
未成年には親権が及んでいて、抽象的な概念だけどバリアで守られているような感じ。
バリアですか?
そう。少し窮屈に感じるかもしれないけれど、例えば子どもの財産や進路。親は関わる権利があるし、同時にしっかりと面倒を見る義務がある。
そのいわば見えないバリアが、成人になるとなくなるわけです。
自由になる反面、責任も出てくる。
そうです。
自分のお金も自分で管理しなきゃいけない。財産を悪い人に狙われても自分で守んなきゃいけない。
あんまり気づいてないけれど、大きな変化があったんですね。
もちろん成人した瞬間に親と縁を切れ、というようなことではないですよ。ただ法律上はシビアになる。
少し話は変わりますが、そもそも20歳で成人は、いつ決まったんですか?
日本では明治9年、1876年。140年以上前です。
明治9年!大昔ですね。
当時、日本は近代国家を目指して、欧米の国と同じように法律の整備も進めていました。
その中で、明治9年に「太政官(だじょうかん)布告」が出ます。
太政官は当時の行政の最高機関のこと。その「太政官布告」で成人年齢が20歳と定義されたんです。
それがそのまま受け継がれてきたということですね。
なぜ20歳だったんでしょう?
実は、さらに遡ると、日本は成人になる年齢がすごく早かったんです。
何歳くらいですか?
13歳とか15歳。
早い…!いまの中学生ですね。
昔の人の寿命というのも関係しているかもしれないけれど、日本の社会はある程度若い年齢でも一人前とみなしてきたようです。
奈良時代のころから始まった元服の慣習。今の成人式にあたる儀式ですが、15 歳前後だったそうです。
それがなぜ明治時代に20歳になったのか。
おそらく外国の影響があったと言われています。
あれ、外国は18歳が多かったのでは?
現在はそうなのですが、当時の欧米では21歳から25歳を成人年齢とする国が多かったんです。
だいぶ年が上でしたね。
明治政府も、これはだいぶ日本と違うなと考えたわけです。そこで欧米の例も参考にしつつ日本の状況も踏まえて、20歳にしたと言われています。
間をとるといったら言葉が悪いかもしれないけれど、この辺りが落ち着きどころと考えたのかもしれません。
外国ではいつごろから年齢が下がっていったんですか?
1960年代から70年代にかけて、欧米の主な国を中心に、選挙権年齢と成人年齢が変わり、18歳が多くなっていきました。
国によって事情は違うけれど、1つは、徴兵制との関係があったようです。
18歳で兵役に就き、命を懸けて務めるのであれば、我々も政治に参加させるべき、あるいは政治に参加させてあげるべきだという議論が巻き起こってきた。
それと連動して、成人年齢も18歳にしようとなった。
徴兵制が関わるんですね。
それともう1つ、60年代から70年代は、各国で学生運動が盛んになった時期。若い人たちの政治参加の意識が高まっていたというのもあったようですね。
それで選挙権年齢が変わって、あわせて成人年齢もと。
日本では140年変わりませんでしたけど、その間、議論はなかったんでしょうか?
日本でも学生運動が盛り上がった時期がありましたが、成人年齢などは、大きな議論になりませんでした。なぜかと言われるとよくわからないですけれどね。
ところで山形さんは、自分が大人になったなあと感じた時ってありますか?
今も大人かと言われるとわからないんだけど。
でも1つあるとすると、21歳の時にバレーボールやっていて足を骨折して、半年入院することになったのよね。
それは大けがでしたね。
そのときにたくさんの人にお世話になって改めて思ったのよ「ああ自分はいろんな人のおかげで生きているんだな」って。
それで、すごく人の気持ちや立場を考えるようになったよね。あれは大人になっていく転機だったかな。
なるほど。
まあ結局、大人とは何かって難しいでしょう、定義がね。
だからどこかで線引きが必要なわけです。
成人年齢が引き下げられても、お酒が飲めるようになるのは20歳のまま。“18歳成人”で具体的に何が変わって、何が変わらないのか。次回は、その理由をひもといていきます。
編集:種綿義樹 撮影:石川将也 芹川美侑
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