目指せ!時事問題マスター

「まるわかりゴーン事件」5つの疑問

2019年03月01日
(聞き手:田嶋 あいか)

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去年11月、東京地検特捜部が逮捕して以降、世間を騒がせてきたゴーン事件。とても大きなニュースですが…複雑で難しそうでイマイチよくわからない…。そんな思いを抱えてきた学生リポーター田嶋が5つの疑問をぶつけてきました。

1) 悪い?悪くない?どっち?
2) 有価証券報告書の虚偽記載って?
3) 特別背任がわかりません!
4) 日産に責任はないの?
5) 今後どうなるの?

教えてくれるのは、事件取材歴20年、社会部事件担当の木村真也デスク。大学時代は、ラグビー部だったそうです。

学生
田嶋

これは何ですか?

今回の事件の資料です。

木村
デスク

す、すごい。こんなにあるのですか…?

記者が取材してきた情報が書かれた取材メモに、新聞記事、オフィシャルな資料、実際にニュースで出した原稿が入っています。注目の事件で毎日ニュースを出さないといけなかったので、どんどんファイルが増えていきました。

すごい数の付せん・・・

1.悪い?悪くない?どっち?

まず、ズバリ教えていただきたいのですが、ゴーンさんって悪いんですか?悪くないんですか?

今は、逮捕され、その後、起訴(検察官が裁判所に訴訟を提起すること)された段階です。まだ何かの罪で悪いことをしたと決まったわけではなく双方の主張や証拠をもとに、今後、裁判所が有罪か無罪かの判断を下すことになります。

検察とゴーン被告側の主張は対立しています。検察は「日本の法律に触れる、こういう悪いことをしたんですよ」と納得できるような客観的な証拠を裁判に提出して、裁判官に有罪のジャッジをしてもらわないといけない。納得させることができない証拠しか出せないなら無罪になるということです。

逮捕の一報を聞いたとき、驚きましたか?

それはもう衝撃でしたね。著名人の事件だと、何らかの疑惑が世の中に表面化したあとに逮捕されるというケースが多いのですが、今回は事前にそうした報道は一切なく、まさに「ゴーンショック」、衝撃の逮捕劇でした。

これだけ知名度も影響力もある人物を逮捕するという判断、本当に大丈夫だったのでしょうか。

そうだよね。これほど世界から注目される人物の事件を日本の捜査当局が手がけるケースは、過去にはほとんど例がないんです。逮捕すれば、経済に大きな影響が出る。仮に裁判で無罪だったらとんでもないことになると、誰が考えてもわかる。検察は有罪に持っていける自信があったはずです。

なるほど。

それと今回は、アメリカなどでも導入されていて去年から日本でも初めて導入された司法取引という制度を使って、特捜部は捜査しているんですね。

どういうことですか?

日産の関係者が捜査に協力する見返りに、自分も不正に関わっているんだけど自分の罪は軽くしてもらえるという司法取引に合意したうえで、11月の最初の逮捕に踏み切ったんです。

2.有価証券報告書の虚偽記載ってどういうこと?

調べてみたのですが、2つの罪で起訴されているんですね。まず、最初に逮捕された有価証券報告書の虚偽記載の罪ってどういうことですか?

(有価証券報告書…投資家が十分な投資判断ができるよう上場企業などに提出が義務づけられている企業活動の年次報告書)

有価証券報告書に自らの報酬を実際より少なく記載したということです。

もう少し簡単に言うとどういうことなんですか?

報酬は年間約20億円だけど、実際に有価証券報告書に記載して公表するのは10億円にしましょう、そして残りの10億円は退職後に支払うことにしましょうと約束したとされる文書があって、その一部にはゴーンさんの直筆のサインもあった。ということは20億円が本当の報酬だったのに、それを隠して10億円としていた、それはだめですよというのが検察の主張ですね。

3.特別背任がわかりません

もうひとつの罪、特別背任はどういうことなんですか?正直これが一番わからないんですけど。

莫大な損失が出る恐れのある為替取引の権利を、自分が損をしないために日産に付けかえた。さらに、協力してくれた知り合いの実業家に会社の資金を不正に支出したということです。

イマイチわかりません…。

とても簡単に言うと、自分の投資での損を免れるために、つまり自分の利益を守るために、会社に損をさせた。

会社のお金を使うのはだめだとわかるのですが、ゴーンさんは「日産の資産と信用力を一時的に担保として借りただけ、その後ちゃんと返して、会社に損はさせていない」と主張しているんですよね。会社に実害を与えていなくてもだめなんですか?

ちゃんと正式な手続きを踏んで会社のお金を適正に使っていればOKなんです。つまり日産の取締役会が正式に承認したなら罪にはならない。でもゴーンさんは、自分の名前は隠した形で取締役会の承認を得て、こっそり為替取引の権利を付けかえていたとされている。つまりゴーンさんの損失の付けかえとしては、取締役会は承認していなかったと検察は主張しています。特別背任のポイントは、3つあるんです。

3つのポイントですか。

①正式な手続きを取らずに、
②自分の利益を守る目的で会社の資金を流用して、
③会社に損をさせる。
この3つがそろえば罪が成立する。

なるほど。

「自分の会社の金を使って何が悪いんだ」と言う人がよくいるんですけど、会社のルールを無視して自分の私腹をこやすために会社に損をさせてしまうというのは、いくら経営者でも法律違反にあたるよ、というのが特別背任罪なんです。
ただ特別背任は、これまでに特捜部が手がけた事件でも無罪判決が出るケースが結構あって、難しい犯罪だともされています。

そういうことなんですね。なんか初めてわかった気がします。

取材中にも記者から電話がかかってきて一時中断。忙しそうです…

4.日産に責任はないの?

不正を見逃していたという点で会社側に責任はないのでしょうか?

有価証券報告書に報酬を少なく記載した罪については、会社側も起訴されています。虚偽の記載を組織として防げなかった、いわば不正を見過ごしてきたということで会社も罪に問われている。
ただ、今回、罪が2つありましたよね。

はい、もうひとつは特別背任ですよね。

そう。日産の資金を流用した特別背任の罪については、会社は被害者の立場でゴーンさんを刑事告訴しているんです。一方は共犯として捉えられていて、もう一方は被害者と加害者という、ちょっといびつな関係になっているのが今回の事件です。

監査では、なぜわからなかったのでしょうか?

有価証券報告書に報酬を少なく記載して、差額分を退職後に支払うという約束を知っていたのは日産の内部でも本当にごく限られた人だけだった、経理部門も知らない事実だったというのがこれまでの捜査でわかっています。
本来なら経理部門がチェックしなければならないのですが、経理部門も知らないようなごく少数でやっていた不正だったので、防ぐことができなかったとみられています。

5.今後どうなるの?

この先、有罪か無罪か決まるまでに、どれぐらいかかりそうですか?

報酬を少なく記載した罪についても、会社の資金流用の罪についても、検察の主張とゴーン被告側の主張が全面的に対立しています。仮に、一審の東京地方裁判所で有罪になったとしても、高裁に控訴できる。高裁で負けてもさらに最高裁に上告できる。そう考えると有罪かどうかが確定するまでに少なくとも数年はかかるんじゃないかな。

そんなにですか!

そうですね。報道する側としてもね、ここまで主張が対立している事件というのはすごく難しいんです。両方の言い分をちゃんと伝えないといけないので、そこは配慮しています。

でも両方の言い分が載っているとどっちの主張も正しく聞こえてきてしまいます。その結果、よくわからなくなるという…。

そうだよね。ただ、我々も本当に有罪になるという自信があるわけではないし、もちろん無実だという自信もなくて、そこは歯切れが悪くて申し訳ないんだけど、こういう場合は慎重に報道するしかないんですよね。

実刑になる可能性はあるんですか?

不正流用したとされる資金の規模から言うと、過去の特別背任事件では実刑判決が出ているケースのほうが多いです。だから有罪になれば実刑になる可能性はある。

でも無罪の可能性もあるんですよね?

そう。さっきも言ったように特別背任罪は無罪になるケースも多い。
さらに、ゴーンさんの弁護を担当することになった弘中惇一郎弁護士は、これまでにも著名な事件の裁判でたびたび無罪を勝ち取ってきた“無罪請負人”の異名を持つ人物なんです。
この事件、裁判の行方からまだまだ目が離せません。

お忙しいなか、ありがとうございました!

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