精神障害者めぐる「社会の雰囲気」を変えたい

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「精神障害があることをオープンにすると、選挙で不利になるのでは」

議員を目指して活動をはじめた男性は、支援者からこのような“アドバイス”を受けました。

はじめはパンフレットに「前職で障害者施設に勤務」とだけ書いたものの、思い直して障害があることを公表して選挙に臨み、当選。

「社会の全体に精神障害者を隠す雰囲気がある」

精神障害のある人たちが壁を感じないで政治参加をするために求められることは何か、現在議員として活動する男性に、聞きました。

精神障害をとりまく現実を変えたい

堀合研二郎議員

神奈川県大和市議会議員の堀合研二郎さん(43)は、ことし(2023年)の統一地方選挙に初めて立候補して当選しました。

堀合さんは大学生の時、不眠に悩むうちに、突然、妄想や妄言が出てくるようになり、医師から「統合失調症」と診断されました。

統合失調症とは
脳の中で情報を伝達する物質が増えすぎたり減りすぎたりすることで、脳が混乱してしまい、幻覚や妄想が出たり、意欲や考える力が低下する病気のことです。

自分の意思ではない行動をしてしまうことがあったという当時の感覚について、「自分ではあるけれどもコントロールできなくなって、ものすごい怖いことだし、苦しいことでした」と振り返ります。

自分に合う薬が見つかり、ここ9年は症状は落ち着いていると話しています。

精神障害と向き合う中で、堀合さんは多くの仲間と出会いました。

病状が落ち着くと精神障害の当事者団体や相談センターの立ち上げなどに関わり、入院を前提にした日本の精神障害者の治療方針や、障害への偏見、自立をしたくても満足のいく賃金が得られないなど、精神障害をめぐる現状にさまざまな疑問を持つようになったといいます。

こうした現実を変えたいと、堀合さんは市議会議員への立候補を決めました。

はじめは隠した精神障害

支援者と選挙の戦い方について話し合っていたとき、こんな意見が出ました。

「精神障害をオープンにして活動するのは、選挙において不利なのでは」

堀合さんは、その言葉に違和感があったものの初めての立候補だったこともあり、意見を受け入れました。

そのときに作ったパンフレットには「精神障害」ということばはどこにもなく、議員を目指したきっかけは「障害者施設で働きながら勉強会などに参加したこと」と紹介しました。

障害を公表せずに活動をはじめましたが、精神障害者の現状を変えたいと立候補したのに、自分が障害を隠しているのはおかしい、と思い直します。

堀合研二郎議員
「考えた結果、精神障害者だということを公表して戦いたいと支援者に伝えました」

支援者にも納得してもらい、最終的に作った選挙のビラです。

「当事者」と大きく書きました。

街頭演説でも精神障害があることを話し、当事者の現状を訴えました。

選挙の結果、堀合さんは2400票あまりの支持を受け、当選。

議員として活動を始めた堀合さんは、精神障害だけではなく、さまざまな障害の当事者と接する機会が増えました。議会で質問に立ち、市に対して福祉作業所の工賃の課題と改善を訴えるなど、精力的に活動しています。

課題は社会の雰囲気

選挙活動を通じて堀合さんは、社会全体が精神障害を隠すような雰囲気が、精神障害者の立候補を妨げていると感じました。

堀合研二郎議員
「今でも“精神障害があることを周りに言うな"と言われる人がいます。それも、家族や会社からです。
そういう経験をしていくと、精神障害があることにコンプレックスを持ち、公表できないわけです。
選挙に出るというのはまさに自分自身を社会に知らしめる行為ですから、こうした偏見 によって自分自身のバックグラウンドに引け目を持ってしまった人にとっては、立候補 は非常にハードルが高い行為なんです」

そのうえで堀合さんは、精神障害のある人が立候補しやすい環境づくりを進めたいと考えています。

堀合研二郎議員
「障害を公表するか否かは候補者自身に任せて、公表したくない場合は、その秘密が何があっても守られること。そして公表したいと思ったときにはハードルなく開示できることが大事です」

「投票する側」の支援も改善を

この取材で記者は堀合さんに、もうひとつ聞きたいことがありました。それは、「投票する側」の支援です。

この「みんなの選挙」サイトで紹介しているように、視覚障害のある人には点字投票など、外出できない人のためには郵便投票などがある一方で、精神障害者の投票への支援はまだ遅れていると感じていたからです。

障害者の選挙参加に力を入れて取り組んでいる東京の狛江市が、ことしの統一地方選挙にあわせて全国で初めて行った障害者の投票率調査の結果では、精神障害がある人は障害の程度が重くなればなるほど投票率は低くなり、最重度の人は、市の平均の半分程度でした。

(狛江市の調査についてはこちらの記事をご覧ください)

堀合研二郎議員
「障害の特性で外に出られない、出してもらえない人が多い、薬の作用でやる気が起きない、病院にいると政治を含めたさまざまな情報と隔絶されてしまうなど、精神障害者が投票に行きにくい理由はさまざま考えられます」

精神障害は外見ではわかりづらいことがあり、突然、気分のコントロールができなくなってしまったり、衝動的な行動をしてしまったりすると、周囲を驚かせてしまうことも少なくありません。それによって、生きづらくなってしまう人もいると思います。

堀合さんは社会に精神障害を正しく理解してもらうことがなにより大事だと話します。

堀合研二郎議員
「障害がある人がもっといろんなところでいろんな人と触れ合えるようにしていかないと 正しく理解されていかないと思います。障害そのものは、そう簡単には変わらない、というか別に変わる必要はないんです。そのままでいいいので。突然、大声を出したってかまわないんですよ。そういった意識をみんなで持っていけたらいいと思います」

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