「みんなの選挙」実現するために目指すことは

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選挙のときの「投票の壁」を取り払おうと、去年7月の参議院議員選挙から進めている「みんなの選挙プロジェクト」。

先月の統一地方選挙でも、テレビやラジオ、特集サイトなどで情報を発信して、多くの反響やご意見をいただきました。でもまだまだ取り組みは始まったばかりです。

あらためてこのプロジェクトで目指していることは何かについて、プロジェクトを担当するNHK選挙プロジェクトの杉田淳デスクに、野村正育アナウンサーが聞きました。

みんなに便利な選挙のプラットフォームを

野村アナウンサー:
杉田淳デスクは政治部の記者をしていた時、15年前に緑内障が進行して、いわゆる中途障害者になったということですが、どうやって仕事を進めているんですか?

杉田デスク:
全く見えてないということではないんですけれども、今の視界はかなりぼんやりしていまして、目で文字を読むということは難しい状況なんです。ふだんどういう風に仕事をしているかというと、パソコンやスマートフォンで、画面の情報を音声で読み上げてくれる機能があるんです。それで情報を確認したり、あるいは原稿もパソコンで書いたりで対応しています。
こうしたそのデジタル技術の進歩によって、視覚に障害のある人の働き方とか、日常生活もかなり変わってきてるということはあるんですよ。

スマホの読み上げ機能を使っています

野村アナウンサー:
杉田さんたちが中心になって去年の夏に立ち上げた「みんなの選挙プロジェクト」、あらためてどんな内容ですか?

杉田デスク:
一言で言いますと、選挙のバリアフリーを目指そう、ということなんですね。障害のある人にとっての選挙の壁というのはたくさんあります。一例ですが、足に障害があって投票所までたどり着くのが大変とか、あるいは手が震えて投票用紙に名前を書くことが難しいとか。あるいは車椅子で移動するのに、投票所の段差があって移動できないということがあったりします。

私も選挙のときに届く選挙公報をパソコンで確認しようとするんですけれど、パソコンのソフトで読み上げてくれない形式の公報が多かったりします。こうした問題については障害者団体では以前から声を上げてきたんですけれど、なかなか改善が進んで来なかったという現状がありました。

そこで私たちは困っている人たちとか、投票者を受け入れる側の自治体の人たちにとっても情報が共有できるプラットフォームを作っていきたいということで、プロジェクトを立ち上げました。
そのプラットフォームがネット上に設けられたことで、皆さんからの反響の中にも、やっと意見を言えるところを見つけた、あるいはこのサイトを選挙が終わってもずっといつでも見られる状態にしておいてもらいたいという声も寄せられています。

野村アナウンサー:
みんなの選挙プロジェクトには、杉田さんのどういった思いや気づきが込められているんですか

杉田デスク:
選挙の問題を考えることは、実は日常の問題を考えることにもつながっていると思うんですね。例えば視覚障害があると聞くと、点字で情報を確認していると想像される方が多いと思うんです。私も選挙管理委員会の方と話していて、杉田さん、うちの自治体では点字で情報出してるから大丈夫ですって言われて、ちょっと戸惑ったことがありました。と言いますのも、私は点字はわからないんですよね。
また私はパソコンで情報を確認していますが、そうした機器を使うことが苦手という方もいらっしゃいます。

このようにどんな人がどんなところにつまずいて、どんなサポートを必要としているのかということは、本当に人それぞれだと思います。
その意味では誰もが投票しやすい環境について考えるって事は、誰もが暮らしやすい社会がどういうものかを考えることにもつながっていると感じています。

もう少し向き合ってほしい

杉田デスク:
プロジェクトでは障害者の投票の支援について各自治体の選挙管理委員会がどんな対応しているか、現状を把握するために、ことし1月、全ての自治体の調査をしました。1741の自治体のうち95%から回答がありました。

調査の結果を見ると、障害のある人への対応マニュアルを既に作成しているという自治体は18%。
障害がある人の対応について説明会や研修を実施しているというところは30%でした。

(調査の結果はこちらをご覧ください

野村アナウンサー:
この結果をどう受け止めますか?

杉田デスク:
自治体それぞれの事情はあるとは思いますが、もう少しこの問題に向き合ってほしいと思います。これまで投票の仕組みとか制度を作ってきた経緯の中で、あまり障害のある人たちにどう対応するかっていう目線はなかったと思うんですね。いわゆる健常者の意識で作られてきた側面があると思うんですよね。やっぱり制度に人が合わせていくのではなくて、制度が人に合わせていくという姿勢で対応してほしいと感じます。

野村アナウンサー:
特設サイトに寄せられた声には、車椅子を借用したいとか、不安定な机が書きづらい、あるいは投票所でパニック障害で人の視線に耐えられないといった声が寄せられていますね。こうした声は今後どうすれば変わっていくでしょうか?

杉田デスク:
今年に入って、総務省が先駆的な取り組みをしている自治体の事例をホームページに公開するなど、改善を図ろうとはしてるんですね。どうしても進んでいる自治体と、なかなか進んでいない自治体との格差の問題は大きいと思うんですよ。そして一つの自治体の中でも、選挙を担当する部署と、福祉を担当してるところとの間で情報共有ができていないということもあるので、その壁を取り払ってほしいですね。

別の視点で考えますと、あらゆる障害の人に対応するために全ての投票所で準備をしておく、事前の情報なしに準備をしていくということは、なかなか無理があるんだろうと思います。
投票に不安があると思われる方、あるいはその家族の方などは、事前に選挙管理委員会に電話などで連絡を取って、そこで相談することで解決することは結構多いと思います。
お互いが歩み寄ることによってより投票しやすい環境を作り上げていく、そうした循環が大事かと思います。

どんな立場の人も自由に意見を言える社会に

野村アナウンサー:
サイトで拝見したんですが、品川区のある知的障害者のグループホームでは入居者5人、全員の投票を実現しました。4年前から独自に入居者の投票をサポートしてきたんですが、その方法は候補者の顔と名前をハサミで切り取って1枚の紙に貼って一覧表にして、これを投票所に持参して、投票する時にその中から1人を指でさして投票所の担当者に代筆してもらった…ということですね。

候補者の一覧表

杉田デスク:
自分で投票用紙に名前が書けない方はいらっしゃって、そのために「代理投票」という制度があるんですね。これは自分がどなたに入れたいということを投票所のスタッフに伝えて、代わりに書いてもらうというものなんですけれど、その際に鍵になるのは、どうやって自分の意思を伝えるかということなんですね。

例えば投票所に行って候補者がずらっと文字で並んでいると、知的障害の方も現場で困ってしまうので、どうしたら対応できるかをみんなで考えたのが、顔写真入りのリストを作って投票所に持って行って、それで伝えるというやり方だったんです。

一人一人が何ができて何はできないかということを見極めて、その一人一人が自分で選ぶやり方をみんなで追求していったということなんですね。こうしたちょっとした配慮によって、それまで投票できなかった人も投票できるようになるという事例だと思います。

野村アナウンサー:
改めて「みんなの選挙」の取り組みを行っていて感じることは何でしょうか

杉田デスク:
今の時代は「多様性」や「ダイバーシティ」の時代だと言われます。そうした社会を作るためには、どんな立場の人も自由に意見が言える状況があることが大事なことだと思います。そう考えますと、選挙でやりやすい投票環境を考えるということは、まさにその第一歩になるんだと感じています。

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