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コラム ベビーカーでバスに乗ってみたら・・・その後

こんにちは、記者の大窪奈緒子です。先月、掲載した「ベビーカーでバスに乗ってみたら・・・」や「バスにベビーカーは迷惑?」の記事には、たくさんのご意見をいただきました。ベビーカーでバスや電車に乗ることに、本当に多くのママが不安や悩みを抱えているのだなと実感するとともに、いろいろな受け止め方があるんだなと改めて感じました。まだまだこの問題について、取材を続けていかなくては!と思いを新たにしました。

いただいたご意見をいくつか紹介させていただきます。
中には、ベビーカーで交通機関を利用することに否定的なご意見もありました。

“ラッシュ時は無理”

(埼玉県・40代男性・バス通勤者さん)

「路線にもよりますが、毎朝の通勤ラッシュのバスは、乗客同士がぎゅうぎゅう詰めになる程、酷いものです。その様な車内に、ベビーカーが入る余地があるでしょうか。周囲の客が邪魔に思うのは無理のないこと、と言うよりむしろ当然のことなのです。
ベビーカーはバスに安全に乗れるべきです。しかしそれは、感情論で実現してはならないのです。首都圏の交通インフラは、もう飽和してどうしようもないのですから、その非人間的通勤ラッシュそのものを解消しなくてはならないのです。人の心を思いやれるのは、自分の心にゆとりのある人だけですから」

都市部では過酷な通勤ラッシュが緩和されないかぎり無理、というご意見です。
投稿を寄せていただいた方の中には、そもそもベビーカーで利用することをほぼ諦めているという方も少なからずいらっしゃいました。

“肩身が狭い”

(兵庫県・30代女性・miyacoさん)

「SNSで何度となくベビーカー論争が繰り広げられるのを目にすると、新生児から使える大きなベビーカーを買う決心はつかない。1人目の時と同様に極力抱っこ紐で暮らせないかと思っているし、外出しなければ嫌な思いをしないですむのではと思ってしまう。東京で生きるなら仕方のないことなのだろうか。肩身の狭い思いをして「すみません、申し訳ありません」と周りに謝り続ける未来しか想像できない」

(東京都・30代女性・shimanekoさん)

「ベビーカーをたたまなければ乗れないほど混雑している場合は、私はバスの乗車は諦めてしまっています。バスが混雑してなくても、赤ちゃんがちょっと泣いただけで周りからジロジロ見られたことが何度もあります。だから普段は私もできるだけバスには乗らず、40分ほど歩いて移動しています。これから猛暑になるので赤ちゃんが熱中症になるのが心配です。私たち母親は、子供がいるというだけでどうしてこんなに肩身狭く暮らさなくてはいけないんでしょうか?」

ただ、諦めるわけにはいかない切実な事情を抱えている方々もたくさんいました。
その1人で、理解を広げるために自分たちで取り組みを始めた女性からも投稿が寄せられました。
都内で3歳の男の子を育てている平本沙織さん(34)です。どのような事情があるのか詳しく知りたいと思い、取材にうかがいました。

やっと入れた保育園は、4駅先

平本さんは、4年前に夫と2人で、デザインコンサルタントの事業を立ち上げ、その翌年、長男を出産。自営業ですが、事務所は自宅とは別で、仕事を続けるには保育園を探さなければなりませんでした。平本さんは出産後すぐに保育園探し、いわゆる“保活”を開始します。しかし、それはいばらの道でした。

平本さんは、港区に住んでいましたが、当時は保育園に入りにくいという話を聞いていたので、保活のために渋谷区へ引っ越しました。ただ、渋谷区でも、0歳の年度途中で入れる認可保育園はありませんでした。そのため、自宅の最寄り駅から2駅ほど先にある保育園の一時保育やベビーシッターを利用して、仕事を続けました。次の4月に認可保育園に入ることができましたが、それは第5希望の保育園。場所は、最寄り駅から4駅先の新宿駅でした。

保育園に子どもを預ける時間は、朝の通勤ラッシュの時間帯と重なっています。子どもを抱っこしてラッシュ時の電車に乗ると押しつぶされる危険があると感じていたことや、荷物が多かったため、ベビーカーを使わざるを得ませんでした。そこで、少しでも混雑を避けるため、保育園の登園時間を遅らせたり、できるだけ各停を利用したりしていたそうです。雨の日や荷物が多い日は、お金がかかってもタクシーを利用することもありました。ただ、毎日タクシーを利用するのは経済的に難しく、やむなくベビーカーに子どもを乗せて、電車での登園を続けていました。
しかし、満員電車にベビーカーで乗ることへの風当たりは、非常に強かったと言います。「ベビーカーを電車から降ろせ」とどなられたり、ベビーカーを蹴られたりすることもあったそうです。

「一時保育などは時間に厳しいので、遅刻してしまうと預かってもらえなくなってしまう。何本も電車を見送った上で、『もう、これに乗らないと、無理だ』というので、ギリギリ乗りこんだ電車で、『この時間にベビーカーは・・・』『降りろ』と注意されてしまう。どうしていいか分からず、乗るのが怖くなってしまいました」(平本さん)

ただ、同じベビーカーでも、夫が使っていれば、電車の中で厳しい声をかけられることはなかったそうです。最終的には夫に保育園の送りを担当してもらい、迎えを平本さんが担当することに。また、迎えに行く時間も、ラッシュに重ならないように、仕事を抑えて早めにするなど、工夫を重ねました。
ことしの春から、ようやく自転車で10分くらいの保育園に入れましたが、それまでの2年ほどの間は、気が休まらなかったそうです。

はじきだされて、わかった

「公共交通機関は、片手を上げてつり革につかまれて、片手で重いかばんをもって、足で踏ん張れる、けがもしていない、子どもを連れて手をひいてもいない、身軽な格好の、働いている、健康な、困っていない、そういう男性にできるだけ近い状態の人だけが乗れるものになっているのではないか、という危機感を持ちました。そのことに、自分がはじき出されて初めて気付きました。よく公共交通機関というのは『みんな』の乗り物だと言われるけれど、その『みんな』に、子連れとか、ベビーカーを使っている人とか、いろんなマイノリティーが含まれていない。『みんなの迷惑を考えて』という言葉を聞いたとき、1番悲しい気持ちになる。それは、その人の言う『みんな』に、私たちはもう含まれていないのだなという風に感じてしまうからです」(平本さん)

電車登園で感じたしんどさを、平本さんは去年12月、ツイッターでつぶやきました。
車内で「この時間にベビーカーで乗るな」と言われたことにその場で反論したという内容でした。
このツイートはさまざまな反響を呼び、「満員電車にベビーカーで乗るなんて非常識」「自分の子どもを危険にさらしている」「子どもや保護者の側にも、その時間に乗らなきゃいけない理由がある」などツイッター上で大きな議論となりました。

このことをきっかけに、平本さんは友人たちとともに団体を立ち上げ、インターネット上で「子どもの安全な移動を考える」をテーマにしたアンケートを実施しました。アンケートには、子育て中の母親を中心に1000件以上の回答が寄せられました。
記述欄には、こんな声が寄せられました。

「近隣の保育園に入れず、電車で0歳児を連れて山手線で通園していました。車内で子どもが泣き出した時は身が縮こまる思いでした」

「子どもが2歳になりたてのとき車両内で騒いだら、初老の男性にどなられたのがトラウマになっています」

「ベビーカーで電車を利用すると暴言をはかれたり注意されたりします。しかし、毎日の子育てでけんしょう炎の慢性化した腕で、首のすわっていない子を片手で抱き上げベビーカーをたたむのは無理だし、できたとしても危険に思えます」

「公共交通機関ですが、子連れは乗ることができないので、公共の乗り物ではないと感じる」「企業主導型保育勤務時に一緒に出勤の際、朝通勤ラッシュ、帰りは帰宅ラッシュの時間に重なり、子どもはつぶされそうになるので抱っこしていました。帰宅するにも一苦労」

地下鉄に「子育て応援スペース」

ことし2月、平本さんたちは、アンケートの結果をもとに、子育て応援車両の設置などを求める要望書を東京都に提出。7月末には、都営地下鉄大江戸線の一部の車両に、子連れでも気兼ねなく利用できる「子育て応援スペース」が設けられました。

「タイミングも合ったのだと思いますが、こんなにも早いスピードで社会って変わるのだなと、自分でもびっくりしています。いろんな人が、『こんな電車があるのすごいね』とか、『こんな風にできるのいいね』と言ってくれてうれしいです。電車で登園している時に、『子育て応援スペースありますよ』って言ってくれていたら、どんなに心強かったかとも思います。これから出産して子育てをするお母さんたちが、少しでも安心して公共交通機関を利用できるよう、1人でも、嫌な思いをするお母さんが減るよう、1人の母親として、社会に声を伝え続けていきたいなと思っています」(平本さん)

平本さんは、時には厳しい意見や主張をぶつけられることもあるそうです。私としては「落ち込むことや大変なこともきっとあるのだろうな」と想像してしまいますが、取材の中で話をうかがっていると、それすらもひょうひょうと乗り越えてしまえるような、新しい、若い世代のママの“風”を感じました。
その陰には、「生きづらい」と感じている多くの母親の思いがあるのだと思います。私たちのもとに寄せられたご意見の多くは、そんな“叫び”のようなものでした。

(東京都・30代女性・あずさん)

「西東京市の近辺のバスでは、「混雑時にはベビーカーを畳んでご乗車ください」というアナウンスがあります。結局これでは、ベビーカーで乗車は出来ないな・・・と思いました。特に第二子の妊娠中に、1歳児を連れて移動するとき困りました。」

(千葉県・20代・りささん)

「私には2歳の子と、首の座ってない2ヶ月の赤ちゃんがいます。赤ちゃんを抱っこ紐にいれ、2歳の子をベビーカーに乗せてバスに乗車しました。バスの乗車口(後方)には段差があり、ベビーカーを持ち上げなければなりません。赤ちゃんを抱っこしているため1人で持ち上げることができず乗客の方が手伝ってくれました。降車は前方からなのですが、運転手は早く降りろ、と言わんばかりの威圧的な態度で、赤ちゃんを抱っこしてベビーカーを抱えたまま段差でコケそうになりました。バス会社に電話してバスの乗り降りを手伝ってもらえないのか、他に何か対応してもらえないのか聞きましたが素知らぬ態度でした。車椅子の方の乗降は手伝うが、ベビーカーの子連れは運行状況により手伝えないと。それ以来バスには乗っていません。オリンピックもあるのにこんな対応で良いのか疑問です」

(東京都・30代)

「4か月の息子がいます。通勤時間帯にベビーカーがバスに乗るのは避けてほしいというご意見があるようですが、近所の保育園に入ることができず、通勤時間帯にバス、電車をベビーカーで利用せざるをえない方もたくさんいます。みんな周囲に申し訳ないと思いながら、やむを得ずその時間帯に乗っているのではないでしょうか。公共交通機関はみんなのものですが、赤ちゃんや障害のある方のものでもあると思います。ベビーカー、車椅子でも、混雑する時間帯に乗らざるを得ない様々な事情があるということを、もう少し理解していただけたならありがたいと思います」

未来のために

また、「社会が変わらなくては」というご意見もいただきました。

(佐賀県・60代男性・マスターオブローさん)

「社会が崩壊して、助け合いの心をなくした結果だと思う。なぜ、運転手だけでやらなければならないのか?誰も手伝おうしないのか?急いでいるからこそ手伝えば早く発車できることを認識できれば、おのずと、そうした方が利益になると分かる。教育の目的が目先の事しか認識できない状況にあると思う。精神、教育の貧困だと思う」

公共交通機関で、子どもを連れた親がどこまで配慮されるべきなのか。いろいろな立場、考え方があって、なかなか1つの答えにたどりつくことはできません。
ただ、このままでは、私たちの未来を支える子どもたちを育てることが、とてもつらいことになっているという状況は変わりません。

私たちは、最近話題になった事例を取材して、27日、NEWS WEBの「News Up」でこの問題を特集します。ぜひご覧ください。

これからも私たちは、未来に向かって声を上げる親たちの声、そのひとつひとつを丁寧に取材していきたいと思っています。引き続き、ご意見をお寄せください。

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