“本当のアメリカ” ミシガン州を行く④

目次

    地元を“よく知る”人に聞け

    私が会いたかった、ミシガン州に詳しいある人物。
    それは、地元紙の記者だった。

    デトロイトの中心街にある新聞社「デトロイト・フリー・プレス」。
    1831年創立で、ミシガン州最大の老舗新聞だ。
    アメリカには選挙を分析するシンクタンクや景気を見通す経済アナリストも多くいるが、地元に根を張って、日々、人々の声を拾う記者たちがこの3年で何を見て感じたか、聞いてみたかった。

    私が知りたかったのは、統計には見えにくい製造業の景気の実態と、ミシガン州の票の行方だ。

    その依頼を引き受けてくれたのが、ミシガン州の経済、政治、社会を30年以上にわたり取材してきたジョン・ガラガー記者だ。
    聞きたいことを次々にぶつけていった。

    あの最悪期からは脱却

    顔写真:吉武 洋輔吉武記者

    ミシガン州の製造業の景気はいかがでしょうか?

    顔写真:ガラガー記者ガラガー記者

    ミシガン州の製造業は、10年前のリーマンショックのときに完全に崩壊しました。
    それ以降は回復に向かっていて、現時点では良い状態だと思います。

    GMはことし一部の工場を閉鎖しましたが、クライスラーはデトロイトの東側に新しい工場の建設を表明し、新たに5000人を雇う予定です。
    もちろん製造業はロボットの導入で自動化が進み、かつてほどは人を雇わないという構造的な変化も起きていますが。

    顔写真:吉武 洋輔吉武記者

    製造業の復活を掲げたトランプ大統領が、この改善に貢献したと思いますか?

    顔写真:ガラガー記者ガラガー記者

    私はトランプ大統領が貢献したとは考えていません。

    実はミシガン州にとって最も意味のあった政策は、自動車産業が崩壊した10年前です。
    会社の救済には多額の資金が必要でしたが、当時のオバマ大統領がそれを実行しました(経営破綻したGMを国有化し再建)。
    そのおかげで州内の下請けや取引先も生き残り、回復につながりました。

    ミシガン州で取材して分かったことがある。
    景気の質問をすると、多くの人が、この地に未曽有の危機をもたらした2008年のリーマンショックと比べようとするのだ。

    あの翌年、州の誇りともいえるGMが経営破綻。
    そして、2013年、デトロイト市の財政も破綻した。

    その最悪期と比べれば、確かに景気は回復しているのだ。

    勝つのはどっち?

    顔写真:吉武 洋輔吉武記者

    前回の選挙でミシガン州はトランプ大統領が勝利しました。
    その前までは連続して、民主党が勝利してきましたが、なぜ、前回は共和党が勝利したのでしょう?

    顔写真:ガラガー記者ガラガー記者

    ミシガン州はもともと“分断した州”です。
    州の南東部には、労働組合員やアフリカ系アメリカ人が多く、民主党に投票する傾向があります。
    しかし、郊外には年配の白人が多くいます。
    ですので、前回の結果は劇的な変化ではありません。
    もともと保守の要素もあり、それが前回は、1万票強く出たということなのです(得票率で0.2%差)。

    顔写真:吉武 洋輔吉武記者

    来年11月に迫る大統領の選挙のポイントはどこにあると考えていますか?

    顔写真:ガラガー記者ガラガー記者

    次の選挙は“トランプ大統領の信任を問う国民投票”になるでしょう。
    これまで見てきた大統領の性格、スタイルなどを、有権者がどう評価するかだと思います。

    顔写真:吉武 洋輔吉武記者

    ずばり、トランプ大統領は勝つことができますか?

    顔写真:ガラガー記者ガラガー記者

    予言をしたくはありませんが、民主党支持者が“目を覚ます”のではないでしょうか。

    顔写真:吉武 洋輔吉武記者

    民主党が支持を取り戻せると?

    顔写真:ガラガー記者ガラガー記者

    (ガラガー記者)
    ミシガン州では、トランプ大統領が勝利するまでは、民主党の候補が6回連続で勝利していましたから。

    ただ、民主党支持層には変化が起きています。
    サンダース氏やウォーレン氏の登場で“左寄り”になっていることです。
    どのくらいの有権者の支持を集めるかは、まだ分かりません。

    バイデン氏が主張するような中道的な古い民主党を好む人もいます。
    問題になりそうなのは、仮にバイデン氏が指名された場合、左側にシフトした人たちが民主党ではなく第3の候補者に投票してしまうことです。
    これもまだ読めませんが。

    トランプ大統領の信任を問う選挙に

    ガラガー記者は民主党の巻き返しに言及したものの、トランプ大統領が負ける決定的な理由は示さなかった。
    私もついつい勝つか負けるかの質問をしてしまったわけだが、前回のサプライズを振り返れば、次の選挙の勝者とその根拠を予想するのはかなり難しいことだろう。
    選挙まであと1年と言われるが、まだ1年もあるのだ。

    気になるミシガン州を対象にした最新の世論調査を見てみる。

    世論調査は、時期やサンプル数、調査機関によって微妙に違うが、きっ抗した状態と言えるだろう。

    12月18日、トランプ大統領はウクライナ疑惑をめぐり、アメリカ史上3人目となる、弾劾訴追された大統領となった。
    年明けにも有罪か無罪かを判断する弾劾裁判が始まる。

    “次の選挙はトランプ大統領の信任を問う国民投票になる”

    取材で得たヒントを胸に、1年間の選挙取材を続けていく。

    【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く①】を読む
    【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く②】を読む
    【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く③】を読む

    ワシントン支局記者

    吉武 洋輔

    2004年入局。
    名古屋局を経て経済部。
    金融や自動車業界などを担当。
    2019年夏からワシントン支局。