製造業復活の象徴は今…
“本当のアメリカ” 、トランプ支持者に変化はあるのかーー
ミシガン州の取材は、10月22日、州最大都市のデトロイトから始まった。
私は、気になっていたある場所に向かった。
それは中心部から車で20分の場所にある、鉄鋼大手USスチールのグレートレーク製鉄所だ。
主に自動車用の鉄板を生産するこの製鉄所で、8月、従業員200人をレイオフ(一時解雇)するというリストラ計画が明らかになったのだ。
去年3月、トランプ政権が海外からの鉄鋼に高い関税をかける措置に乗り出したとき、USスチールは、それまで3年間停止していたイリノイ州の製鉄所の操業を再開。
製造業復活の象徴と脚光を浴びた。
しかし、リストラ計画の発表ということは、結局、そううまくはいかなかったということだ。
製鉄所の目の前にある大通りを回ると、シャッターが閉まったままの飲食店や、看板が取り外されたガソリンスタンドが目に入ってくる。
営業していたギリシャ料理のレストランに入ってみると、オーナーの男性が、客の多くが、USスチールの従業員や取り引き業者だと教えてくれた。
しかし、「以前は週に3、4回食べに来ていたグループが週1、2回に減った。今後のレイオフのうわさも絶えない。従業員がゼロにならないことを願うばかりだ」と、景気を悲観した。
GMストで失業者も
全米の失業率は3%半ばという歴史的な水準を維持する中、ミシガン州の失業率はことし一時5.3%(7月)にまで上昇。
そこで、取材に行ったのがデトロイトの近郊にある施設「ダウンリバー・コミュニティ・カンファレンス」だった。
失業した人に仕事を紹介する日本の“職安”によく似た場所だ。
建物の中に案内されると、仕事をマッチングするパソコンがずらりと並べられ、朝から多くの人が出入りしていた。
訪れた人たちにマイクを向けてみると、ある若者は「アスファルト舗装の仕事をしていたが、2週間前にレイオフされた」と話した。
また別の女性に声をかけると、「GMの取引先で働いていたが、ストライキの影響で解雇された」とため息まじりに嘆いた。
GMはストライキですべての生産を停止。
部品や輸送の下請けにも影響が広がっていた。
一時解雇でも“心配ない”
ところが、意外な“声”を聞いた。
職を探しにきていたビクターさん(62)だ。
不精ひげにかっぷくのいい体。白人労働者のイメージにぴたりと合う。
ビクターさんは、農機メーカー「ジョン・ディア」ブランドのトラクター部品を製造する工場を、1週間前にレイオフされたという。
転職してきてまだ1年半と、職歴が短かったビクターさんが真っ先にリストラの対象になったという。
カリフォルニア州出身のビクターさんは、1994年にミシガン州に移り住み、自動車などの工場を転々としてきた。
解雇を通知され、さぞかし不安では、と尋ねた。
しかし「心配していない」と言うのだ。
「以前と比べて資産価値が倍になったんだ。銀行口座の預金も401K(年金基金)も、あらゆるものが上昇しているよ」。
ビクターさんが見せた余裕の裏には、アメリカの株高が関係していた。
ニューヨーク株式市場の代表的なダウ平均株価は、トランプ大統領が当選した3年前の1万8000ドル台から1.5倍の2万8000ドル台の最高値に到達。
日本より投資や資産運用が浸透するこの国では、株高の恩恵を受けるすそ野も広いのかもしれない。
そして、トランプ大統領を支持するかと尋ねると「もちろんさ」とはっきりと答えた。
ビクターさんは60代の白人労働者。
いわゆるトランプ支持層ゆえの回答かもしれないが、製造業の景気が鈍化する中でも、トランプ大統領が強気でいられる理由も見えた気がした。
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