来年11月の大統領選挙まで1年という節目が近づいていた10月。
NHKのワシントン支局の記者たちは選挙戦の行方を取材するため、全米各地に足を運ぶことになっていた。
トランプ大統領の再選戦略。
対する野党・民主党の候補者指名争い。
争点になりそうな若者たちの現状や、分断の現場などテーマはさまざまだ。
私は6月末に東京からワシントン支局に赴任し、主に経済分野の取材担当をしているが、選挙でも争点になる景気が選挙戦に与える影響を取材したいと考えていた。
中西部での異変
首都ワシントンでは、トランプ大統領は、最高値水準にある株価と、歴史的な低水準にある失業率を背景に、経済は好調だと誇っていた。
ところが、10月1日、株式市場を揺るがすある経済指標が発表された。
アメリカの製造業の景況感を表す代表的な指標(ISM製造業景況感指数)が、リーマンショック以来10年3か月ぶりの低い水準となったというのだ。
トランプ大統領が産業保護のために仕掛けたはずの中国への関税上乗せ措置は、報復の応酬に発展し、アメリカの企業のコストを圧迫していた。
特に、FRB=連邦準備制度理事会の地区経済報告では、“中西部”から工場の閉鎖や操業の縮小、運送のドライバーの削減といった事象が伝えられていた。
“本当のアメリカ”
「中西部に本当のアメリカがある」。
こちらに来てまもないころ、中西部のある農家を訪ねたとき、このことばを言われた。
3年前、資本主義、自由貿易で疲弊した中西部のラストベルト(さびついた地帯)の労働者たちに目をつけ、製造業の復活を声高に繰り返したのが、トランプ大統領だった。
民主党の地盤とされてきたミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州でトランプ大統領が勝利。このエリアがトランプ政権誕生を大きく後押しした。
来年の選挙も、この3州でトランプ大統領が再び勝つのか、それとも民主党の候補者が取り返すのか、選挙の勝敗を左右する可能性がある。
工場閉鎖の衝撃
中でも、私の興味はミシガン州に向いた。
理由は、この場所を拠点とするアメリカ最大の自動車メーカー「GM=ゼネラルモーターズ」の変調だった。
ちょうど1年前、GMは北米の5工場を閉鎖するという衝撃的な発表をした。
自動車工場は1か所で数千人の雇用者を抱える。家電や鉄鋼などの工場と比べても規模が違う。
さらに、車は部品数が1万にも上ることから、産業のすそ野は広く、地元経済に与える影響は計り知れない。
驚くのは、これほどの大規模な国内のリストラを、トランプ大統領が国内回帰を訴えるこのタイミングで決断したことだ。
製造業復活と真逆の動きが、しかも最大手のメーカーで起きたのだ。
折しもこの10月、こうしたGMのリストラに反発した労働組合が実に12年ぶりとなるストライキを起こし、長期戦に入っていた。
中西部の景気はどうなっているのか…
“本当のアメリカ”でトランプ支持者に変化はあるのか。
その声を拾うことにした。
【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く②】を読む
【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く③】を読む
【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く④】を読む