アメリカ大統領が選ばれるまで
4年に一度のアメリカ大統領選挙。
日本とは違い、有権者が直接投票して国のトップを決める。その仕組みは?
① 投票するためには、事前に登録が必要
選挙権があるのは、18歳以上のアメリカ国民。ただし、18歳以上になると、日本のように自動的に投票できるようになるわけではない。
投票するためには、事前に居住地の選挙管理委員会に申請して、「有権者登録」を行わなければならない。
有権者登録は、引っ越しをすれば新たな居住地で再度登録する必要があり、長い間投票しないと登録が消されている可能性もある。
戸籍や住民票が無いアメリカでは、不正が起きないように有権者登録という制度があるが、この制度によって、投票がしづらくなっているという指摘もある。
② 票の数ではなく、最後は「選挙人」の数で決まる
有権者は、候補者を選んで票を投じるが、単純に全米で一番多くの票を獲得した候補者が勝者になるわけではない。
投開票は州ごとに行われ、それぞれの州で勝者を決める。
アメリカには、有権者の代表のような存在である「選挙人」が各州の人口に応じて割りふられていて、州の勝者がその州の選挙人を獲得する。
選挙人は全米で538人。過半数の270人以上を獲得したら、最終的な勝者、つまり次期大統領となる。
ほとんどの州で、1票でも多く獲得した候補者が州の選挙人をすべて獲得する「勝者総取りの方式」を採用している。
例えば、選挙人が55人と、全米で最も多いカリフォルニア州で勝者となった候補者は、選挙人55人すべてを獲得することになる。
前回、4年前の大統領選挙では、総得票数では民主党のクリントン氏のほうが200万票以上多かったが、選挙人の数では共和党のトランプ氏が74人多い306人を獲得したため、トランプ氏の勝利となった。
上院・下院の議会選挙のポイントは
ことし11月3日に行われるのは、大統領選挙だけではない。議会上院・下院の議員選挙も行われる。
① 上院の議会選挙
上院議員は、各州に2人いて、定員は100人。2年ごとにおよそ3分の1が改選となる。今回は35議席を争う。
改選前の議会は、共和党が53議席、民主党45議席、無所属2議席となっていて、共和党が多数派だ。
今回、注目されている州の1つが、アリゾナ州だ。
ここは、2018年8月に亡くなった共和党の重鎮、マケイン上院議員(当時)の地盤で、伝統的に共和党が強い州だ。
ただ、政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、各種世論調査の平均値で、民主党がリードしている。
同じように、共和党が地盤の選挙区で、民主党がリードしている激戦州がいくつかある。
今回改選される35議席のうち、改選前の共和党の議席(23議席)から民主党が少なくとも4つ奪うと、民主党が多数派となる。(無所属の議員が民主会派のため)
② 下院の議会選挙
議会下院の議員選挙は2年に一度行われ、定員の435人すべてが改選される。
州の人口に基づいて、議席が配分されるため、州によって議席数は異なる。
改選前は、民主党が232議席、共和党が197議席で、議会下院は民主党が多数派となっている。
ニュージャージー州にあるラトガース大学の研究機関によると、10月15日時点で、女性の候補は298人(民主党:204人 共和党:94人)となっていて、過去最多だった2018年の議員選挙のときの234人を大きく上回っている。
法案の提出などの権限は議会が持つことから、共和党、民主党のどちらが上院・下院の多数派になるかも注目ポイントだ。
郵便投票が大幅拡大、課題は
今回、異例の大統領選挙と言われる理由の一つは、郵便投票の数が大幅に増えると見られることだ。
新型コロナウイルスの感染状況が深刻なアメリカでは、感染防止の対策をとりつつ投票できる仕組みとして、今回、すべての州で、郵便投票が実施される。
郵便投票では、基本的には、送付された投票用紙を返送または投票箱に投かんすることで、投票が完了する。
① 州によって対応はまちまち
ただ、具体的な方法や条件は、州によって異なる。
例えば、有権者登録を行ったすべての人に対して、投票用紙を送付するのは、前回4年前の選挙でも郵便投票を導入していたオレゴン州など3つの州に加え、今回新たに導入したカリフォルニア州やバーモント州など10の州と首都ワシントンだ。これらの州は、最も郵便投票をしやすい州となる。
多くの州では、有権者がみずから手続きを行うことで、郵便投票が可能となる。
一方、新型コロナウイルスへの感染リスクだけを理由に、郵便投票をすることが認められない州もある。伝統的に共和党が地盤の州だ。
例えば、テキサス州では、65歳以上の人や病気や障害のある人に限って認めている。
郵便投票によって、投票率は上がると言われていて、現地メディアの一部は民主党に有利になるという見方を伝えている。
ただ、一部の研究では、共和党・民主党どちらかに有利に働くことはないという結果もあり、専門家の間でも見解は分かれている。
② 郵便投票をめぐる混乱は投票日後も続く?
郵便投票をめぐって、トランプ大統領は、「大規模な不正が起きる」と主張している。
一方、バイデン候補は、不正が起きるという根拠はないとしている。
ただ、すでに混乱も起きている。
ニューヨーク州では、ニューヨーク市南部のブルックリンで、およそ10万人の有権者に発送した返信用封筒に、誤った名前や住所が印字されていたことが分かった。市の選挙管理委員会は、投票用紙などを送り直す手続きをとっている。
また、ニュージャージー州では、郵便配達員の男が、投票用紙の送付を故意に遅らせたり、投票用紙の一部を捨てたりしたとして、逮捕された。
投票箱の設置やその手続きなどをめぐって、各地で訴訟も起きている。
郵便投票では投票日の消印まで有効である州もあり、接戦となれば、開票後すぐに大勢が判明しない可能性もある。
トランプ大統領は、不正の疑いがあれば、選挙結果を受け入れない可能性も示唆していて、最後は法廷で争われる事態になるかもしれないと現地メディアは伝えている。
(国際部記者 岡野杏有子)