
特殊詐欺に関わった疑いでカンボジアにいる日本人19人の逮捕状を取っている警視庁。
19人は、カンボジアを拠点にした特殊詐欺グループとみられています。
グループが拠点にしていたのは、リゾートホテル。
なぜ、カンボジアのリゾートホテル?これまでにわかっていることは?
わかりやすく解説します。
(国際部・社会部取材班)
どんな事件?
2023年1月、都内に住む60代の女性に有料サイトの料金が発生していると、うそのメッセージを送って電子マネー約25万円分をだまし取ったとして詐欺の疑いが持たれている事件です。
警視庁は、25歳から55歳までの日本人19人の逮捕状を取りました。19人は、カンボジアを拠点にした特殊詐欺グループとみられています。
これまでにわかっていることは?
19人は、カンボジア南部の都市、シアヌークビルのホテルを拠点に特殊詐欺を行っていたとみられています。

2023年1月、違法な行為が行われているという情報提供を受けた日本大使館からの連絡を受けて、カンボジア当局がホテルを調べたところ、19人が滞在しているのを発見したということです。
捜査関係者によりますと、19人は電話でうそのやりとりをする「かけ子」の役割を担っていたとみられるということです。
また、ホテルの部屋からは、特殊詐欺の手口をまとめたマニュアル、日本人の名簿、大量のスマートフォンが見つかり、現地当局から日本側に引き渡されたということです。
シアヌークビルってどんな所?
シアヌークビルはカンボジア南部にある、ビーチリゾートです。

首都プノンペンから約200キロの距離がありますが、2022年に完成したばかりの高速道路を使うと約3時間で行くことができ、カンボジア国内では人気の観光地の1つです。
ホテルやカジノが相次いで進出していて、中国人観光客が多く訪れていることでも知られています。
また、中国が海洋進出を強める南シナ海に近く、カンボジアにとって最大の投資国である中国が大規模な開発を進めています。
現地の様子は?
グループが拠点にしていたとみられるホテルを訪れると、白い砂浜が数キロに渡って続く人気のビーチに面していました。

関係者によると、グループはホテルの複数の部屋を拠点にしていたとみられるということです。
またホテルの従業員によると、部屋は証拠保全のために警察から立ち入りを厳しく制限されているということで、ドアには「立ち入り禁止」の貼り紙がしてありました。

ホテルの近くで露天商を営む42歳の女性に話を聞くと、グループのメンバーとみられる人物たちの様子をよく覚えていました。
極端に口数が少なく、ほかの観光客と違ってビーチやレストランにも行っていなかったのが印象的だったからだといいます。その上で、女性は次のように話しました。

「彼らは普通の観光客には見えませんでした。ある朝、警察が来て彼ら全員を連れて行きました」
なぜカンボジアが拠点に?①
グループがなぜカンボジアを拠点に選んだのか、詳しい理由はまだわかっていません。
ただ、背景には日本の警察が特殊詐欺の摘発を強化していることがあるとみられます。
特殊詐欺は、当初、日本国内のマンションなどを拠点にしていましたが、社会問題として深刻化する中、警察による拠点摘発が相次ぎました。
2019年には、摘発を逃れるために高速道路を走る車の中から電話をかけていたとされる男らが逮捕されました。
さらには、海外に拠点を移し、中国、タイ、フィリピンなどを拠点にした日本人詐欺グループの摘発も続いています。
中には、会社に「休暇届」を出して、短期の「出稼ぎ」のように海外に渡っていたケースも確認されています。
今回の事件でグループがカンボジアを拠点にした背景について、現地の事情に詳しい関係者は、次のような点を挙げています。
・以前から国内外の犯罪組織による不法な活動が問題となっていた
・法制度が未発達で、汚職がまん延し、当局による取り締まりが不十分
・物価が安く、滞在費も安い
なぜカンボジアが拠点に?②
カンボジアでは近年、「条件の良い仕事がある」などと外国人を勧誘し、カンボジアに連れてきたあと、不法行為を無理やりさせる事案が相次いでいます。
実際に、ベトナムでは1000人以上、インドネシアでは500人以上カンボジアに連れて行かれたと、それぞれの国が公表しています。
こうした状況に、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチでアジア地域を担当するフィル・ロバートソン氏は、カンボジアを拠点に大規模な人身売買と強制的な不法行為への関与が広がっているとして危機感を強めています。

「新型コロナが流行したとき、犯罪組織はSNSを通じて求人を募っていました。こうした組織は、世界中の人たちからカネを引き出し、詐欺によって人々の人生を台無しにしています。そして無理やり詐欺に加担させた人たちの人生も台無しにしているのです」