2022年5月31日
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【現地は今】ロシア軍事侵攻3か月 なぜマリウポリで攻防が?

ロシア軍によるウクライナへの侵攻が始まってから、5月24日で3か月。この間、東部の要衝マリウポリでは、激しい攻防が続いてきましたが、ロシア側が5月20日、「ロシア軍の完全な支配下に置かれた」と発表し、事実上ロシアが掌握しました。

一方で、国連は、死亡した市民の数について「何千人もが犠牲になったと推測している」とするなど、非常に大きな被害が出ています。

なぜ、マリウポリでこれほどまでの攻防が続いてきたのか。詳しく振り返ります。

(国際部記者 近藤由香利)

マリウポリとは?

東部ドネツク州のマリウポリ。アゾフ海に面し、石炭や鉄鋼の輸出で栄えてきた港湾都市です。今回の軍事侵攻で、ロシア軍にとっては2014年に一方的に併合したクリミアとロシア本土を結ぶ線上に位置する、戦略的な要衝だと言えます。

ウクライナのクレバ外相はかつてマリウポリが掌握されれば「ウクライナはアゾフ海から遮断される」と述べるなど、ウクライナにとっても重要な拠点の1つとされていました。

「完全に破壊された」

「街の建物は完全に破壊されてしまった」

5月6日、ウクライナのゼレンスキー大統領はマリウポリについてこう表現しました。

いったい、マリウポリで何が起きていたのか。

軍事侵攻後、ロシア軍と親ロシア派の武装勢力は、マリウポリを北東と南西の2つの方角から挟み撃ちにし、包囲網を狭めました。3月24日、ロシア軍がマリウポリの西側から侵入し、中心部に部隊を進めます。(アメリカのシンクタンク「戦争研究所」)

その後、4月8日から11日にかけ、ロシア軍や親ロシア派の武装勢力が市内の複数の港を占拠。21日には、プーチン大統領が「マリウポリを解放するための戦闘は完了し成功した」として、マリウポリを掌握したと主張します。

この間、激しい戦闘が行われ、イギリスの国防情報当局が「無謀で無差別な攻撃を含む消耗戦に移行し始めた」と指摘するなど、市民の犠牲も増えていきます。

3月20日に撮影された映像を見ると、複数の集合住宅が黒く焼け、窓や外壁が壊れて廃墟のようになっているのが確認できました。

また、犠牲者が多く出る中で、一部の遺体は収容されず、路上に置かれたままになっていた時期もあり、道路脇に一時的に埋葬するための穴を掘る人たちの姿もありました。

マリウポリのボイチェンコ市長は、NHKのインタビューに答え、ロシア側が市民の遺体を埋めた集団墓地の存在を指摘し、数千人から1万人の市民が埋められた可能性があるという見方を示しました。(4月30日)

アゾフスターリ製鉄所での徹底抗戦

ロシア軍は、その後も第2次世界大戦の勝利を祝う5月9日の「戦勝記念日」を前に、マリウポリの完全掌握に向けて攻撃を続けていきます。

一方で、ウクライナ側が拠点としたのがアゾフスターリ製鉄所。ロシア軍に包囲され、一時、市民が数百人取り残されたとみられますが、ウクライナの「アゾフ大隊」がロシア軍と激しく戦いました。

アゾフ大隊は、2014年、ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力と戦うため義勇兵などで結成されました。ウクライナの準軍事組織の精鋭部隊として、製鉄所を拠点にロシア軍に対し徹底抗戦していたのです。

アゾフ大隊の幹部は、4月中旬、NHKの取材に応じ、戦況について「ロシア軍は1万4000人以上の兵士を集結させて、マリウポリの50%以上を支配している。これに対し、ウクライナ側はアゾフ大隊と海兵隊など合わせて1000人程度が製鉄所を拠点に戦っている」と明らかにしました。

ロシア軍の“完全掌握”を阻み続けてきたウクライナ側ですが、5月17日、参謀本部はアゾフ大隊の戦闘任務が終了したことを公表。その後、ロシア国防省も20日、製鉄所からこれまでに司令官を含む2439人が武器を捨てて投降したと主張し、「ロシア軍の完全な支配下に置かれた」と発表。

その上で、ショイグ国防相がプーチン大統領にマリウポリ全域の掌握を報告したとしていて、マリウポリは現時点で実質的にロシア軍が掌握したとみられます。

徹底抗戦の意義は

ウクライナ側のマリウポリでの徹底抗戦の意義はなんだったのか。

ウクライナのマリャル国防次官は、SNSで投稿した動画の中で次のように述べました。

ウクライナ マリャル国防次官
「マリウポリの部隊のおかげで、われわれは、予備軍を編成し、部隊の再編成を行うことができたほか、外国から支援を受けるための決定的に重要な時間を得ることができた。マリウポリの部隊はすべての役割を果たした」(5月16日)

さらに、ポドリャク大統領府顧問も、ロシア軍の兵力をマリウポリに集中させたことで、ほかの地域でのロシア軍の作戦に影響を与えるなど、効果があったと強調しました。

ポドリャク大統領府顧問
「ロシア軍をマリウポリに引きつけることで、東部と南部で占領作戦を行うロシア軍の動きを滞らせた」(5月17日)

支配の既成事実化

こうした中、マリウポリの支配を既成事実化するロシア側の動きも相次いでいます。

プーチン大統領の側近の1人で、ロシア大統領府のキリエンコ第1副長官は、5月4日マリウポリを訪問。親ロシア派の武装勢力の指導者プシリン氏によると、キリエンコ氏は、プーチン大統領の政権与党「統一ロシア」のトゥルチャク上院副議長とともに住民との会合に出席し、生活への支援を強調したといいます。

また、インターファクス通信は、キリエンコ氏がロシア軍の包囲するアゾフスターリ製鉄所の周辺や港などを視察したと伝えました。

フヌスリン副首相

その後も、親ロシア派の武装勢力は、8日にプーチン政権で都市開発などを担当するフスヌリン副首相がマリウポリを訪れ、街の復興や港からの商品などの輸出の計画について協議したと発表。

ロシアがマリウポリを掌握したと内外に強調しました。

マリウポリに親戚がいる女性は

マリウポリに残る人たちは今どうしているのか。マリウポリに叔父、叔母、祖母がいる女性、マリア・シェフチェンコさん(28)が取材に応じてくれました。

マリアさんは、去年の年末にマリウポリで叔父に会いましたが、軍事侵攻が始まってから連絡が取れなくなったということです。叔母も叔父に連絡が取れておらず、叔父が今どこで何をしているのか、生きているのかどうかさえ、わからないといいます。

叔母と祖母は、侵攻が始まる前にたまたまマリウポリ郊外にある別荘に滞在していたことから無事であることを確認できていますが、叔母の携帯電話の電波は通じにくく、1週間に1回ほどしか連絡が取れないということです。

また、マリウポリでは、ある程度の食料があり、郵便局も開いているそうですが、事実上、ロシア軍の支配地域になっているということです。叔母も祖母もロシアの支配地域で暮らしたくないと考えていますが、祖母が高齢のため、逃げることはできないといいます。

マリア・シェフチェンコさん
「ロシア軍がいるので、精神的な面で非常にストレスがあると思います。2人は生き残るために、我慢して残っています。すべてが終わってほしいです。そして、家族や親戚と再会したいです。ただ、これはウクライナが勝利したあとでしか実現しないことなのです」

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