“コロナ予算”スペシャル記事

“アベノマスク”を巡るナゾ

予算の通信簿「行政事業レビューシート」

今年7月に中間公表されたとき、取材班がまず始めに見てみたいと思ったのが「布マスク配布事業(通称:アベノマスク)」でした。

政府が民間業者から調達した2億8700万枚のマスク。

当時大きな注目を集めました。

しかし、今年10月末の時点で全体の3割、8130万枚(113億円相当)が配られないまま余っており、倉庫の保管費用も今年3月末時点で6億円に上っていました。

しかし、厚生労働省の行政事業レビューシートの中間報告を見ると、「目標達成度」はなんと100%。

しかも、最終報告からは、項目自体が消えていました。いったいなぜなんでしょうか?

(NHKスペシャル「検証 コロナ予算 77兆円・取材班」/木下義浩ディレクター)

“布マスク”事業 目標達成度100%のナゾ

布マスク事業のレビューシートを確認しようと、取材班はまず厚生労働省のホームページを探しましたが見あたりません。

問い合わせると「『医療機関等へのマスク等の配布事業』というレビューシートに書かれている」と言います。

医療機関に物資を配布する事業の一つとして束ねられているようです。

ようやく探し当てた布マスク事業のレビューシート。

事業概要は「メーカー等から布製マスクを購入し、介護施設等の職員や利用者等や全世帯を対象とした配布を行う」とされています。

事業目的は「布マスクの配布により、国内の感染拡大防止のため極力多くの方にマスクを着用いただくとともに、洗濯することで繰り返し使用可能であることから、国から直接お届けすることで国民の皆様の不安を解消し、不織布のマスクの需要抑制を図る」と書かれていました。

読みながら、そういえばマスクがどの薬局にいっても売っていなかったなとか、やたら値段が高かったなとか昨年春頃の苦労が思い出されました。

そして、「不安解消」と「不織布マスクの需要抑制」が目的の政策だったのだと改めて確認できたわけです。

次に気になるのは効果がどうだったのか?ということです。

レビューシートには、「成果目標及び成果実績(アウトカム)」という欄があります。これは担当部局自らが政策の目標と実績を定量的に示す、いわば“自己評価”の欄です。

この事業のアウトカム欄には、まず一行「定量的な目標が設定できない理由及び定性的な成果目標」という欄が追加されていました。政策によっては数値化することになじまない場合、それを明示しましょうというルールがあるんです。

下の行には、「事業の妥当性を検証するための代替的な達成目標及び実績」という欄がありました。

上記の理由などで目標設定できない場合、効果を見極めるために、何らか代わりの目標と実績を示しなさいということですね。

もっともです。そこには、こう書かれていました。

「代替目標:全世帯に対し布マスクを配布する」「代替指標:配布した布マスク数」、「目標:122(百万枚)」「達成:122(百万枚)」そして、「達成度:100%」

目標を全世帯に配ることとして、実際に全世帯に配ることができたので、成果は達成したということになっています。

こういう目標設定であれば、確かに達成度は「100%」になりますよね。

しかし、布マスク事業で国が調達したのは全世帯向けに1億3千万枚、介護施設や保育所用として1億5千7百万枚だったはず。

予算を効率的に使ったかどうかという意味では、全てのマスクの調達に要したコストや、調達したマスクがどれだけ効果的に使われたか、そして余ったマスクの保管料なども重要になってきますので、レビューシートだけ見ると政策の課題は見えてきません。

また、「目的欄」に書かれていた、配った結果「不安の解消」はしたのか?「不織布マスクの需要抑制」につながったのか?という部分も是非検証して欲しいと思いますが、そこも不明なままです。

しかし、問題はこれでは終わりませんでした。

最終報告で消えた “布マスク”事業

レビューシートは9月に最終公表されます。

事業が継続中だった場合など、事業結果が加筆修正されて確定版になる仕組みです。

取材班は、専門家とともにレビューシートをデータベース化し、解析を進めていたのですが、その打ち合せの席で、驚きの事実がわかりました。

「医療機関等へのマスク等の配布事業」の項目を確認したとき、専門家から「その事業名、見当たりませんね」との回答。

おや? データベースから漏れていたかな?と思い、事業番号を伝えると、該当事業が見つかりました。

事業名が「医療用物資の備蓄等事業」に変わっていたのです。中身を見ると・・・。

なんと、事業目的・概要の欄から「布マスク」の記述が消えていたのです。

当然、アウトカム欄にも、「達成度100%」の項目がなくなっています。

いったいなぜ?

厚生労働省の担当部局に訪ねたところ。

「布製マスクの配布等に関する経費は、医療用物資の確保・備蓄等に関する経費とまとめて、1つの事業として予算要求(事項要求)していたこと、令和4年度概算要求(事項要求)では、医療用物資の確保・備蓄等に関する経費が本事業の必要額のほとんどを占めることになると考えられたこと等から、布製マスクに関する事業目的や概要、代替指標等について記載していません。」

医療用物資の備蓄の事業と統合して予算要求しており、全体の予算額に占める割合が小さくなったので記載をやめたという説明でした。

当時の政権の目玉政策として打ち出され、全国民が関心を寄せた事業が、〝通信簿〟であるレビューシートからは消えてしまったわけです。

厚生労働省に、布マスク事業の政策効果について改めて質問すると。

「布製マスクの配布事業について、昨年マスクの需給がひっ迫し、入手困難な状況となったことから、▼感染拡大防止に一定の効果があり、▼洗濯することで繰り返し利用でき、急増していたマスク需要の抑制の観点からも有効、と考えて実施したものであり、当時の状況において適切であったと認識しています。」

という回答でした。

先日閉会した臨時国会では、余った布マスクの使い道などについて野党から厳しい指摘が相次ぎ、岸田総理大臣も「布製マスクの在庫は、介護施設などへの随時配布をはじめ、費用対効果の観点から適切な方策を検討していきたい」と答弁しました。

私たちもレビューシートだけでは読み取れない“行間”を埋める意味でも、引き続き、取材を続けたいと思っています。

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