弱さと向き合ったからこそ、今がある。ふつふつと燃えてきた

重本沙絵

パラ陸上

2016年リオデジャネイロパラリンピックの陸上女子400mで銅メダルを獲得した重本沙絵。リオ以降も主要な国際大会では必ず表彰台に立ってきた。 しかし、東京パラリンピックの日本代表内定をかけた2019年11月の世界選手権。体がこわばり終盤で失速した重本は、決勝で7位と惨敗。内定も持ち越しとなり、かつてない挫折を味わった。

「挑戦者という気持ちを忘れて、どっちかっていうと守りに入っていた」

あらわになった自分の弱さ。刻一刻とパラリンピック本番が近づき、練習に取り組んでも、心ばかりはやった。

「自分の心と体が一体化してないというか、頑張りたいのに体が動かないとか、体はリフレッシュしているのに心が全然リフレッシュされていなかった」

2020年3月、新型コロナウイルスの影響で東京大会は延期に。自分と向き合う時間の余裕が生まれた。重本は自宅のトレーニングでこれまで取り組んだことがなかったヨガに挑戦。生まれた時から右腕が肘までしかないため、バランスが崩れ、なかなか目指すポーズを完成させられない。それでも、できないことから目を背けずにやり続けていると、新たな発見があった。

「最初はポーズをとって静止することに気がいきがちだった。でも、もともと自分の体は左右対称じゃないし、別にポーズをとっている間に、(体が)揺れてもいいし、今日の自分の真ん中ってどこなんだろうと考えるようになってきて、自分の体を知るうえですごく役に立つ時間だった。そうしているうちに、どこが力を抜きやすい場所かということも分かってきた」

重本がたどりついた“力の抜き方”は、練習を再開後、走りにも効果を発揮した。上半身を意識的にリラックスさせることにより、レース後半に伸びのある走りができるようになってきたのだ。

8月中旬に行われた記録会。重本は世界選手権の時より1秒近く速いタイムで400mを駆け抜けた。
それでも自己採点は60点。
“走りはよくなってきているが、まだ打ち勝たないといけない自分がいる”
弱さも含めて自分自身を冷静に見つめ始めたその姿からは、力強さを感じた。

「自分に負けて、弱さと向き合ったからこそ、今がある。まだ時間はあるし、ここが限界じゃない。1年後の強い自分を目指して、今ふつふつと燃えている」

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