仲間とつかみとった銀メダル

唐澤剣也

パラ陸上

10歳のときに網膜剥離で失明した唐澤剣也には、欠かせない仲間がいる。ガイドロープを握り、リズムを合わせて伴走するガイドランナーだ。地元、群馬での朝夕のランニングは15人ほどの市民ランナーが交代で一緒に走る。仲間がいなければ、練習はできない。

「暑い日も寒い日も、忙しい時もどんな時も、地元の皆さんが伴走してくれた」

8月27日、初めてのパラリンピックの舞台。唐澤の隣にいたのはその中の2人、ともに元陸上選手の小林光二と茂木洋晃だ。
男子5000メートル視覚障害のクラスの決勝。スタートから4000メートルまでは32歳の小林。伴走経験はことし4月からと少ないが、かつてはオリンピックを目指したほどの実力者だ。常に周りの状況やラップタイムを伝えてくれる小林に、唐澤は全幅の信頼を置いていた。

「レース展開や走る位置はすべて小林さんに任せていた。自分は淡々と前を走る選手の足音を聞いて、落ち着いて走ることに集中できた」

残り1000メートル。伴走は茂木に交代し、一気にスパートをしかけた。

「行くぞ、行くぞと茂木さんに声をかけてもらって、強気で攻めることができた」

銀メダルをつかみとった。伴走した2人にとっても、いつしか夢へと変わっていたパラリンピックのメダルだった。
25歳の茂木は大学時代、箱根駅伝に出場できず挫折を味わった。未練を抱えながら、卒業と同時に陸上を離れようと思っていた4年前、伴走者として誘われた。

「最初は軽い気持ちで引き受けたが、唐澤選手の成長を間近で感じ、勇気をもらってきた。今はこのために陸上を続けてきたと思えるような本当に貴重な経験だった」(茂木洋晃)

唐澤はレース後、笑顔で2人への感謝を述べた。

「私1人だと、力のない選手。小林さんと茂木さんの力、経験も含めてチームとして戦えた。仲間とつかみとった銀メダルだと思う」

唐澤はまだ27歳。3年後のパリ大会も“チーム唐澤”でさらなる高みを目指す。

パラ陸上