被害者や専門家に聞く
交際相手からの「性的DV」とは?

2022年12月9日

「一番は嫌われたくないという思いから応じました」

こう話すのは、交際相手から性行為を求められ、断り切れずに応じたという女性で、あとになって、こうした行為は交際相手からであっても「DV」に当たることを知ったと言います。

交際相手からのDVについて、ある団体が中高生と大学生を対象に行った調査では、4割近くが被害経験があると回答しています。

この中には性的なものも含まれ、特に被害に気付くことが難しく、気付いても自分にも落ち度があったと責めてしまったり、相談できなかったりすると専門家は話します。

そもそも「交際相手からのDV」とは?性的な被害って?被害者や専門家に詳しく聞かせてもらいました。
(成人年齢取材班記者 松田伸子)

交際相手からのDV=デートDVとは?

交際相手との間で起きる暴力のことで、「デートDV」と呼ばれています。ドメスティック・バイオレンス(DV)が主に配偶者との間で起きる暴力を指すため、区別されています。

内閣府によると、デートDVの中には、殴る蹴るといった身体的な暴力だけでなく、精神的な暴力、性的な暴力、経済的な暴力も含まれるということです。

具体的な例として、以下のような行為を挙げています。

  • 携帯電話の着信履歴やメールをチェックする
  • 「ばか」などと、傷つく呼び方をする
  • 自分の予定を優先させないと無視したり、不機嫌になったりする
  • 無理やり性的な行為をする
  • いつもおごらせる
  • 思い通りにならないと、どなったり責めたり脅したりする

被害の実態は?

以下は、デートDVの予防教育や被害の支援を行っているNPOエンパワメントかながわが、2016年に関東地方を中心に行った調査の結果です。

このNPOが出前授業を行った、中学生、高校生、大学生の男女あわせて2868人のうち、交際経験がある男女1329人(女性:894人、男性:435人)で、デートDVの被害経験があると答えたのは、38%でした。(女性は44%、男性は27%)

どんな問題があるの?

デートDVの中でも性的な暴力は、当事者が暴力を受けていることを自覚できなかったり、相談できなかったりすることも多く、専門家や支援団体が問題点を指摘しています。

こうした性的な暴力は「性的DV」と呼ばれ、嫌がっているのに性的な行為を強要したり、避妊に協力しなかったりする行為のことです。

先ほどのデータとは別に、エンパワメントかながわが他の団体とともに行っている、電話やチャットでの相談を分析したところ、次のような内容の訴えがあったということです。

  • 同意のない性行為 10%
  • コンドームをつけないで性行為をする 7%
  • 性的嗜好を押し付ける 4%
  • 同意のないキスや体への接触 4%

(2020年9月~2021年12月、相談件数571件、複数回答)

エンパワメントかながわの阿部真紀理事長は「性的DV」の被害の特徴について次のように話しています。

エンパワメントかながわ 阿部真紀理事長
阿部
理事長

相談の中でも、性的な被害はすぐには出てきません。ずっと話を聞いていて、こちらから質問すると『実は性行為も嫌なんです』ということが多い。人に話してはいけないことなんだという思い込みもあります。だから、『みんな、こんな感じなんだろう』と思って、被害を受けていると気付けない。でも話を聞いてみるとそれが一番苦痛だったりするのです。そして、結局応じている自分が悪いと思ってしまう子も多いです

被害者はどんな思いでいるの?

関東地方の大学に通うみきさん(仮名)のケース

みきさんは中学3年生の時、初めて付き合った男性から、頻繁に性行為を求められたということです。

「性行為はまだ先のこと」と思っていたみきさんでしたが、はっきりと断ることができず「今度にしようね」などと、やんわりと断り続けていました。

その後も、男性が「付き合っている子はみんなしている」などとしつこく求めてきたため、「断ることに心が折れて、好きな人のため」と自分を納得させて、男性の求めに応じたということです。

しかし、性行為をして間もなくして別れを切り出されたみきさんは、「性行為が目的だったのでは」と思い悩み、毎日のように自宅で泣いていたといいます。

「はっきり断れなかったのが悪い」と自分を責め、友人などにも相談できずにいたところ、ある日、学校の部活動の途中で涙が止まらなくなったそうです。

スクールカウンセラーに相談したところ「それは『デートDV』と言うんだよ」と指摘され、初めて性的暴力に当たることを認識したということです。

みきさんは「自分にも悪いところがあるから仕方ないと思っていましたが、暴力だったのだと気付くことができました。性のことは相談もしにくく、もっと誰かに相談してもよかったんだと思っています」と話していました。

中部地方に住む30代のゆきさん(仮名)のケース

ゆきさんは、高校2年生の時、当時交際していた男性の家に初めて遊びに行ったところ、性行為を求められました。

ゆきさんは性行為をしたくはありませんでしたが、「今日はやめておかない?」とはっきり断ることができなかったといいます。それでも男性は、キスをしたり体を触ったりしてきたため、ゆきさんは怖くなってはっきり気持ちを伝えました。

ところが、男性は「だったら手や口でしてほしい」と言ってきて、「彼の家まで行っている私が悪い」という思いもあったゆきさんは、男性の求めに応じたということです。

ゆきさんは、それから20年近くがたって、DVについての知識を得て、ようやく「あれは暴力だった」と気付けたといいます。

どうすれば被害を防げるの?

阿部理事長は、被害を防ぐために必要なこととして、次のように話しています。

阿部
理事長

『嫌な時は断ってもいい』と伝えています。実は、私たちははっきりとNOと言っていいということを教えてもらっていません。特に性に関しては、意思をはっきり伝えることは恥ずかしいという雰囲気もありますよね。また中学生でも『嫌よ嫌よも好きのうち』という言葉を知っていて、相手が『NO』と言っても、本人は『YES』と受け止めてしまう。そして、被害者は『断れなかった自分が悪い』と考え、自分を責めてしまいます。だから、当事者の人たちには『断ってもいい。でも断れなかったとしてもあなたは悪くない。だから、助けを求めてもいいんだよ』と伝えたいと思っています

自分や友人が被害を受けているかもしれないと思ったら?

当然ですが、デートDVは性的DV以外にも、身体的、精神的、経済的な暴力も含まれます。こうしたデートDVの被害を自身や友人が受けているかもしれないと思ったら、相談窓口に相談してみてください。

エンパワメントかながわなどが行っている相談窓口「デートDV110番」では、電話やSNSで相談を受け付けています。匿名でも相談ができ、その場合はスマートフォンにも記録は残らないということです。

また、内閣府が行っている「DV相談+(プラス)」でも、電話、メール、チャットで相談を受け付けています。このほか、自治体の相談窓口もあります。

阿部理事長は、デートDVの特徴を次のように話し、少しでも気になったら積極的に相談するよう呼びかけています。

阿部
理事長

暴力や暴言の後に、一転して優しくなったり、謝ってきたりするので、被害者本人が気付きにくかったり、別れることが難しかったりするのも、デートDVの特徴です。だから、相談してくれる人は氷山の一角だと思っています。暴力を振るう相手とは別れた方がいいけれど、別れられないこともあると思うので、どうしたらよいか一緒に考えましょう

デートDV110番
https://ddv110.org/

DV相談+(プラス)
https://soudanplus.jp/

デートDVを受けているかどうかのチェックリスト

□返信が遅いとキレる、他の異性と口を聞くなと言う、服装を制限する、いつどこにいるかを報告させる

□思い通りにならないと不機嫌になる、傷つくことばを言う、別れたら自殺するとい言う、人格を否定する

□髪の毛を引っ張る、物を投げつける、殴る、蹴る、突き飛ばす、首を絞める、床や壁に身体を押しつける

□デートの費用をいつも負担させる、収入に見合わないほど高級なプレゼントを要求する、お金を渡さない

□同意のない性行為(キス、セックス、体をさわる)、コンドームを着けないで性行為をする

※NotALONE(ナタロン)サイトより

成人年齢取材班記者

松田 伸子

2008年入局
社会部を経て現在、国際部
ジェンダー問題、特に性と生殖の問題を取材
3歳の娘への「性教育」について模索中