「感情を無にして応じた」
性的DVを受けた女性が語ったこと

2022年8月31日

性的なドメスティック・バイオレンス「性的DV」。

夫婦やパートナーの間で、嫌がっているのに性的行為を強要したり、避妊に協力しなかったりする行為のことです。

30年近く夫からのDVを受け、中でも最もつらかったのが性的DVだったという女性が、みずからの体験を話してくれました。

「大人にこそ知ってほしい性的DV」とは。
(成人年齢取材班記者 松田伸子)

みずからの体験を話してくれたのは

西日本に住み、3人の子どもを持つ、50代の女性です。

夫から、30年近くDVを受けていたということで、2022年に入って家を出て、現在は弁護士を通して離婚に向けた話し合いを行っています。

配偶者やパートナーに性行為を強要する、性行為を拒むと不機嫌になるといった行為が「性的DV」にあたること、そうした行為で苦しむ人がいることを知ってほしいと、匿名を条件に話を聞かせてくれました。

(以下、女性の話)

DVはいつから始まったのですか?

夫とは、大学を卒業してすぐに結婚したのですが、今思えば、ずっとDVを受けていました。

殴る、蹴るといった、身体的な暴力はありませんでしたが、思い通りにならないと不機嫌になり、強い口調で怒る、無視をする、物に八つ当たりをするなどしました。

ドアを大きな音を立てて閉めたり、台所でわざと大きな音を立てたり、にらむような目で私を見たりもしました。

出産で里帰りをしたら不機嫌になったこともありましたし、夫が帰宅したときに子どもの服を作っていたということで不機嫌になることもあり、どこに“スイッチ”があるのかわかりませんでした。

夫は公的な機関で働いていますが、ギャンブルに依存し、貯金はありませんでした。学資保険まで解約してしまったため、子どもたちは奨学金を得て大学に通いました。

私が、収入の安定した仕事に就こうとすると、夫の両親の介護を優先すべきだと言って反対しました。

私の父の看病も反対され、父が亡くなった日に葬式の準備のために自宅に寄ったときも、夫はなぜかとても不機嫌でした。その父の遺産も、夫は使い込み、車などを買ってしまいました。

※内閣府は、生活費を渡さない、もしくは仕事を制限するといった行為は「精神的なDV」に該当するとしている。「経済的なDV」と分類される場合も。

そういった言動に反発などしなかったのですか?

そうした態度や言動をやめてほしいと言ったこともありましたが、さらに怒って私を責めたてたり不機嫌になったりするので、言えなくなりました。

そして、怒らせる自分がいけない、と思っていました。自分さえうまくやれば、自分が怒らせなければ大丈夫だと思っていたんです。また、当時はDVという言葉もなく、家の中のことなので、周りには話せないとも思っていました。

いつの間にか、玄関のドアが開く音がすると、ビクッとして、その日の夫の機嫌を確認するようになっていました。「酒がない」「調味料がない」といった些細なことで、不機嫌になるので、慌てて買いに行くこともありました。

夫がため息をつくだけで怖くなり、「不機嫌になってしまう、どうしよう」という感じでパニックになって、過呼吸になったこともありました。

どうしたら夫の機嫌がよくなるのか、そればかりを考えていて、夫が不機嫌なまま布団に入ってしまったときは、枕元で正座をして「私の何が悪かったのでしょうか?悪いことをしていたら謝りたいです」と土下座したことも何度かありました。

夫が、そうしろと言ったわけではなく、自分が進んでそうしていたのです。夫は「謝られると余計に腹が立つ」と言って、さらに怒りました。

性的DVについて教えてもらえますか?

性的DVが、一番つらかったです。

夫は、頻繁に性行為を求めてきました。断ると不機嫌になり、翌日も子どもの前でずっと不機嫌になってしまいました。

私が妊娠している間も、性行為を控えることはなく、臨月を迎えても求めてきました。出産直後でも求めてきましたし、避妊もしてくれませんでした。ですので、年子で3人の子どもを産みました。

「40代、50代になればなくなるかもしれない」と希望を持って我慢してきましたが、40歳を超えても性行為の回数が減ることはありませんでした。

1年ほど前には「一生(性行為を)続ける」というようなことを言われて、一生応じ続けなければならないのかと、絶望しました。

夜でも、明け方でも、私が寝ていようが起こしてきて、迫ってきました。いつ、夫が求めてくるのかが怖くて、眠ることができなくなり、朝も早く起きてしまうようになったので、睡眠薬を上限まで飲んでいました。

どういう思いでしたか?

感情を持っていては応じきれなくなり、体だけは相手に任せるしかないので、感情を無にして、抜け殻のようになって応じていました。

「いまだけ我慢すれば、数日の間は大丈夫。安全に暮らせる」。そう考えていました。

ただ、無表情になってしまうと怒りだすので、言葉でごまかしたり、喜んでいるように振る舞ったりしていました。

心配だったのは、子どもたちが起きてこないかや、子どもたちに見られたらどうしようということでした。それだけは、どうしても避けなければならないと思っていました。もし見られたら、飛び降りて死のうと思っていました。

一度、40代になってから、夫に対して「私の意思も確認してほしい」と伝えてみたことがあります。自分の意見をしっかり言えば、もしかしたら変わるかもしれないと思ったからです。

でも、やっぱり夫は血相を変えてすごく不機嫌になり、それ以上何も言ってはいけないと思いました。「こんなことを言って不機嫌にさせてごめんなさい」と謝り、それからは自分の意見は言わないようにしました。

自分が、夫の不機嫌な気持ちを解消するための、欲求を満たすだけの“物”として扱われているということは、とてもつらいことでした。

DVだと気付き、離婚を決断した経緯を教えてもらえますか?

実は、私はDVなどに関する研修を受けたことがあります。性的DVについても勉強したことがありました。ですから、うすうすおかしいと気付いていながらも、認めることができなかったんです。まさか自分がDVを受けているなんて。

新型コロナウイルスの影響で自宅にいる時間が増えたことで、夫のDVが悪化しました。そのとき娘から「(父親の言動は)DVって言うんじゃないの?離婚しようと思ったことないの」と言われたんです。

娘に言われるまで、離婚なんて考えたこともありませんでした。家族との楽しい思い出もありましたし、自分さえ頑張れば大丈夫だと思っていました。

でも、娘の言葉でDVを受けているという現実と向き合うことができたんです。

そして、すぐに荷物を持って実家に逃げました。そのとき、娘に「あなたを置いていけない」と言ったら、娘は私を抱きしめて「私は大丈夫だから、逃げて」と言ってくれました。その後、娘は無事迎えに行くことができました。

そこからは、DVに関する研修で学んだことを実行しました。相談窓口に連絡し、住所変更などの手続きを行い、離婚に向けて弁護士に交渉に入ってもらっています。

性的DVに向き合うことには時間がかかりました。思い出し、言葉にすることがとてもつらい。性暴力についての番組を見ると、涙が止まらなくなりました。子どもたちの生まれに関わることでもありますから。今やっと、向き合えるようになったのです。

今はアパートを借りて、娘と2人で暮らしています。生活は決して楽ではありませんが、もうおびえずに済み、安全な場所にいられると感じられ、そうした環境で過ごせることに幸せを感じています。

次回は、性的DVの実態について専門家に話を聞いた内容をご紹介します。

※性的DV

内閣府は、DVの形態について、次の3つに分類している。

  • 身体的なもの
  • 精神的なもの
  • 性的なもの

このうち「性的なもの」について、次のように説明している。

「嫌がっているのに性的行為を強要する、中絶を強要する、避妊に協力しないといったもの。夫婦間の性交であっても、刑法第177条の強制性交等罪に当たる場合があります(夫婦だからといって、暴行・脅迫を用いた性交が許されるわけではありません)」

具体的な例として、次のように行為を挙げている。

  • 見たくないのにポルノビデオやポルノ雑誌をみせる
  • いやがっているのに性行為を強要する
  • 中絶を強要する
  • 避妊に協力しない

成人年齢取材班記者

松田 伸子

2008年入局
社会部を経て現在、国際部
ジェンダー問題、特に性と生殖の問題を取材
3歳の娘への「性教育」について模索中