大谷翔平“光と影の1年” 超人的活躍から手術 ホームラン王へ

『WBC優勝』から始まり、大リーグ史上初となる2年連続の2桁勝利2桁ホームランなどシーズン中の『超人的な活躍』。そして『右ひじの手術』という、まさにジェットコースターのような激動の1年。その歴史的なシーズンを大谷選手は『ホームラン王』というタイトルを手にして締めくくりました。

その“光と影”を振り返ります。
(アメリカ総局 記者 山本脩太)

記事後半に大リーグ6年目の大谷選手の今シーズンの投打の成績をまとめています。

WBCで“世界一と大会MVP”最高のスタート

3月のWBC=ワールド・ベースボール・クラシック。

WBCで胴上げ投手に(3月)

投打に日本代表を引っ張った大谷選手は世界一と大会MVPという最高の形で1年のスタートを切りました。

アメリカとの決勝前日には、エンジェルスのミナシアンゼネラルマネージャーに電話をかけてリリーフ登板をじか談判しました。

開幕投手が内定していたシーズンには影響しないと納得させると、決勝でトラウト選手から三振を奪って優勝を決めたシーンは、野球史に刻まれる名場面となりました。

WBCで世界一とMVPに(3月)

「チームでも優勝したい」進化させた“二刀流”

WBC優勝の3日後にはキャンプ地で練習試合に登板し、優勝から9日後にはじか談判した時の約束どおり開幕戦のマウンドに上がりました。

開幕戦のマウンドへ(3月)

WBCを終えてエンジェルスに戻った際に「やっぱりこのチームでも優勝したい」と目を輝かせて話す姿には、ことしこそ「ヒリヒリした9月」を経てプレーオフの舞台に立つという強い決意がうかがえました。

レギュラーシーズンは、おととし、去年と見せてきた投打の二刀流をさらに進化させた姿で躍動しました。

ピッチャーとしては、開幕直後は横に大きく曲がるスライダー「スイーパー」を中心とした組み立てで相手打線を寄せつけず、開幕から5登板を終えた時点での防御率は驚異の0.64。

その後、スイーパーを狙い打たれる場面が増えると、今度は縦に落ちる独特な軌道のカットボールを披露するなど、ピッチャーとしての引き出しがさらに増えたことを感じさせました。

昨シーズンは主に中6日だった先発ローテーションも、ことしは開幕から中5日でこなし、シーズン前半の投球回数は、これまでで最も多かった昨シーズンの87イニングを大きく上回る100と3分の1イニングで、初めて100の大台を超えました。

バッティングでは昨シーズン終了時に話した「打率とホームランの両立」という目標を見事に実現し、ホームラン王と初のシーズン打率3割を達成。

ストレートやツーシームといった速球に対する打率が物語ります。

【速球に対する打率】
▽おととし .277
▽昨季 .305
▽今季 .377

着実に向上させ、相手ピッチャーの投球全体のおよそ半数を占める速球を確実に捉えました。

大リーグのルール変更で極端な守備シフトが禁止されたことも、打球速度の速い大谷選手にとってはシフトの間を抜ける当たりが増える一因となりました。

6月と7月には驚異的なペースでホームランを量産し、2か月連続で月間MVPを受賞。

7月27日にはタイガースとのダブルヘッダーで第1試合にわずか1安打しか許さず自身初の完封勝利を挙げると、その45分後に始まった第2試合では指名打者として2打席連続でホームランを打つ離れ業をやってのけました。

ダブルヘッダーで初完封後にホームラン(7月27日)

この時点で、プレーオフ進出圏内まで1.5ゲーム差につけていたチームは夏のトレード市場で積極的な補強を見せ、大谷選手も「やる気というか、士気も高くなる」と話すなど、さらなる活躍を誓っていました。

しかし右ひじが…

しかし、この試合を境に大谷選手の強じんな肉体に異変が生じ始めます。

筋肉のけいれん、いわゆる「つった状態」を理由に試合途中で交代する場面が増え、右手中指のけいれんで4回でマウンドを降りた8月3日の試合後には「一番の理由は疲労じゃないかと思う」と珍しく疲れを口にする場面もありました。

右ひじの異変を訴え緊急降板(8月23日)

そして、先発登板した8月23日のレッズ戦で異変を訴えて2回途中でマウンドを降りたあとMRI検査で右ひじのじん帯損傷が判明し、ピッチャーとしてのシーズンを終えました。

大谷選手はその後も志願してバッターとしての出場を続けましたが、9月4日に新たに右脇腹を痛め、その後はバッターとしても欠場することになりました。

出場に向けて必死に模索を続けたものの、再検査の結果、バッターとしてもシーズンを諦めざるを得なくなり9月19日に2018年以来となる右ひじの手術に踏みきりました。

“ベーブ・ルースをも超えている”

44号ホームラン(8月23日)

投打に年々進化を続ける大谷選手のことしの活躍は「野球史上最高」と呼ぶにふさわしいパフォーマンスで、アメリカのメディアから「ベーブ・ルースをも超えている」という声が聞かれることも珍しくなくなりました。

その輝かしい日々はけがによって唐突に終わりを告げましたが、それでも初のホームラン王獲得をはじめ、大谷選手が成し遂げた数々の偉業が色あせることはありません。

(ホームラン王獲得について球団を通じてコメント)
「大リーグでこれまで活躍された偉大な日本選手たちのことを考えると、大変恐縮であり光栄なことです。この目標を達成するのに協力してくれたチームメート、コーチングスタッフ、ファンに感謝します」

ひじのリハビリを続けながらバッターに専念する来シーズンは打席でどんな進化を見せるのか。

そして再来年、2025年のシーズンに二刀流の輝きを再び取り戻せるのか。

想像上の動物『ユニコーン』にも例えられるその姿を、もっとも近くで見てきたエンジェルスのチームメートは口をそろえてこう言います。

「大谷翔平なら、やってくれる」

今季最終戦(10月1日)

《大リーグ6年目 大谷翔平 今季 投打成績》

【投手成績】
▽先発 23試合 10勝5敗(勝利数リーグ24位)
▽投球回 132回(※規定投球回数の162には届かず)
▽防御率 3.14
▽被打率 .184
▽奪三振 167(リーグ20位)
▽奪三振率 11.39(※9イニングあたりの奪三振数)

【打者成績】
▽主に指名打者として135試合(※規定打席に到達)
▽ホームラン 44本(リーグ1位)
▽打率 .304(リーグ4位)
▽打点95(リーグ14位)
▽盗塁20(リーグ20位)
▽安打数 151本(リーグ22位)
▽四球 91(リーグ5位)
▽出塁率 .412(リーグ1位)
▽長打率 .654(リーグ1位)
▽OPS 1.066(両リーグ通じて1位)
(※OPS=出塁率+長打率)

【アメリカンリーグ ホームラン王争い(上位5選手)】

1.44本 大谷翔平(エンジェルス)
2.39本 ガルシア(レンジャーズ)
3.38本 ロバートJr.(ホワイトソックス)
4.37本 ジャッジ(ヤンキース)
5.33本 デバース(レッドソックス)

《主な節目の記録》
▽6月23日:今季25号ホームラン 日米通算200号に到達
▽8月9日:今季10勝目
この時点でホームラン40本 大リーグ史上初の2年連続2桁勝利2桁ホームランを達成
▽8月23日:今季44号ホームラン
大リーグ通算171本として松井秀喜さんが持つ大リーグで日本選手最多の通算ホームラン数175本まで「あと4本」