ラグビー 日本 敗因は「ハイボール」「ラインアウト」【解説】

「ハイボールへの対応とラインアウトの獲得率の低さ」

イングランド戦の敗因をこのように指摘したのは、元日本代表プロップの山村亮さんです。

ラグビーワールドカップフランス大会、日本は1次リーグの第2戦で前回大会準優勝の強豪イングランドと対戦し、後半、1点差まで追い上げたものの突き放されて12対34で敗れました。前々回、前回とワールドカップで格上に勝利してきた日本ですが、この試合は番狂わせとはなりませんでした。
(スポーツニュース部 記者 小林達記)

はまった裏へのキック

日本は前半から思い描いた戦術でイングランドを焦らせました。

効果的だったのは相手のディフェンスラインの裏に蹴り込むキックです。

スクラムハーフの流大選手やスタンドオフの松田力也選手を中心に、素早く展開しながら少しでもスペースがあれば裏へキック。イングランドが強みとする上がりの速いディフェンスを封じ込めることに成功しました。

イングランドのフルバック、フレディー・スチュワード選手は「日本のキック戦略はすごかった。スピードのある攻撃でついていくのが大変だった」と、その攻撃スタイルをたたえました。

善戦したスクラム

さらにスクラムでも善戦しました。

去年秋の対戦ではスクラムで繰り返しペナルティーをとられ大敗しましたが、この試合ではスクラムがピタリと止まるシーンが何度も見られ、イングランドの強力フォワードに対抗することができました。

スクラムの最前線、プロップとして日本代表で活躍した山村亮さんは、注目ポイントとしていたスクラムについて、次のように評価しました。

元日本代表 プロップ 山村亮さん
「すばらしかった。とくに試合開始直後、自陣5メートルというピンチの場面で迎えた最初のスクラムを押されずに反則もしないで乗り切ったことが試合途中まで接戦になったひとつの要因だと思う」

こうした成果につながったのは早い段階から準備の意識があったからです。

日本は、相手のフォワードが肩を組む頃にはすでに8人がまとまって姿勢を低くして、いつでも組んで押せる状態になっていました。

これは立ち合いで遅れた去年の敗戦で得た教訓で、リーチ マイケル選手は「スクラムの強いイングランドに対してよくできた」と納得の表情をみせていました。

試合をわけた“ヘディングトライ”

一方、試合のターニングポイントになったのがボールがイングランドの選手の頭に当たり、ノックオンかと思いきやトライにつながった「ヘディングトライ」のシーンです。

この場面、レフェリーが止める前に日本の選手がノックオンと決めつけたことで、簡単にトライを許してしまいました。

ウイングの松島幸太朗選手は「レフェリーが止めていない中、自分たちで判断してプレーを止めてしまった部分は反省する」と話しました。

結果的に追加点がほしい場面で相手に得点されてしまい、流れを引き寄せることができませんでした。

「ラインアウト」「ハイボール処理」が敗因に

ラインアウトやハイボールの処理など、事前に警戒していた部分でミスが出たことも敗因につながりました。

特にラインアウトでは前半24分、自陣でのマイボールラインアウトのこぼれ球をトライにつなげられました。

蹴ってくることがわかっていたハイボールについても相手の長身フルバック、スチュワード選手にはたかれて再び獲得されるシーンが目立ち、自分たちがキャッチして攻撃につなげることができませんでした。

フル出場したリーチ選手は、強度の高いスクラムやモール、ディフェンスに加え、キックを追いかけるシーンが多かったことで、いつも以上に体力を削られたと話していました。

後半20分以降、ほとんど敵陣に攻め込めなかった理由は、こうした部分にもあります。

山村さんもハイボールへの対応、ラインアウトの獲得率の低さを敗因としてあげました。

元日本代表 プロップ 山村亮さん
「(ハイボールへの対応については)ボールを直接キャッチできなくてもこぼれ球を確保することが重要で、ハイボールを競り合う選手を周りの選手がサポートすることが求められる」

「(ラインアウトについては)相手のプレッシャーを受けてマイボールラインアウトの獲得率が66%と低かった。このためラインアウトからの攻撃が生かせなかった」

前を向いて次のサモア戦へ

去年11月の大敗のリベンジマッチとして挑んだ日本。点差こそ縮まったもののノートライに抑えられ、イングランドから勝利するにはまだ高い壁があります。

ラグビーのデータ会社のAIによる勝敗予想では日本が勝つ確率は13%。その予想を覆すことはできませんでした。

それでもキャプテンの姫野和樹選手が「下を向いている時間はない」と話したように、1次リーグの戦いは今後も続きます。1次リーグは残り2試合、サモアとアルゼンチンとの対戦です。

山村さんは1次リーグ突破がかかる残りの2試合、サモア戦とアルゼンチン戦に向けては…。

元日本代表 プロップ 山村亮さん
「いずれもフィジカルが強いチームで日本は接点で負けないことが重要になる。ここからはトーナメントのつもりで一戦一戦、すべてをぶつけて戦うことが大事だ」

次のサモア戦は日本時間の今月29日、中10日と十分に時間が空きます。

7月のテストマッチで敗れた相手に、この期間で課題を修正して臨み、勝利をつかむことが求められます。

《データで見る 日本×イングランド》

イングランド戦をさまざまなデータで振り返ります。

【エリア支配率】
日本39% イングランドが61%
(試合終了までの10分間)
日本13% イングランド87%

日本はかなり攻め込まれていました。終盤、日本がスタミナを維持できなかったことがわかります。

【キック】
▽日本:37回で925メートル
▽イングランド:42回で1175メートル

イングランドは高い弾道のハイパントを多用したため、回数も距離も多くなっています。

【タックル成功数】
日本174回 イングランド83回
【タックル成功率】
日本88% イングランド86%

選手個人ではフランカーのピーター・ラブスカフニ選手は19回のタックルを決め両チームを通じて最も多くなりました。