“核と人類は共存できない” いまこそ伝えたい核廃絶への思い

「ヒロシマ・ナガサキの過ちを繰り返してはいけない」“生き地獄”とも言われる、原爆による想像を絶するような被害を経験した被爆者たちは、77年にわたって世界に訴えてきました。

いま、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、プーチン大統領は核兵器の使用の可能性をちらつかせて威嚇しています。

国連のグテーレス事務総長は「かつては考えられなかった核兵器を使った紛争がいまや起こりうる状況だ」と強い危機感を示しました。

唯一の戦争被爆国、日本だからこそ伝えられるメッセージを紹介するシリーズ。

4回目は、広島からです。

被爆地 広島で長年、核兵器廃絶を訴えている森瀧春子さん(83)。

「核と人類は共存できない」ということばを掲げ、被爆者援護に尽力した広島県被団協の初代理事長、故・森瀧市郎氏の次女です。

市郎さんの死後、活動を引き継いだ森瀧さん。
ウラン鉱山や核実験場など世界各国にみずから足を運び、核被害に苦しむ人々に寄り添い「核と人類は共存できない」と世界に訴え続けてきました。

そして、ノーベル平和賞を受賞した国際NGO「ICAN」=核兵器廃絶国際キャンペーンと連携し、核兵器禁止条約の成立に大きく貢献しました。

がんを患い、闘病生活を続けるなか、3月8日には原爆ドームの前でロシアによるウクライナへの軍事侵攻に抗議し、核兵器の使用は許さないと訴えました。

森瀧さんに、今の思いを聴きました。
※以下「」は森瀧さんのコメント

「人を殺す権利 誰にもない もっと声を」

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をどのように受け止めていますか?

「ウクライナで被害を一方的に受ける人たちの苦しみや涙を見ると、そういうことを平気で引き起こせるというのは本当に非人道的で、これ以上ない悪政だと思う。

人が人を殺す権利なんてないですよね。

誰にもないです。

なぜこのようなことが許されるのか、じくじたる思いです。

ウクライナで、いたいけな子どもたちや、お母さん、妊婦、お年寄りに対し、空から攻撃したり、爆弾を落としたり。

そういう権利がいったい誰にあるのかということを、もっともっと声を上げていかないといけないんじゃないかと思うんですね」

「人類は核との向き合い方を考え直さなくていけない」

プーチン大統領が核兵器の使用の可能性をちらつかせるような発言をしていることについて、どう思いますか?

「長年、みんなが、『核兵器が使われたら人類は生き残れないんだ』という思いでやってきたものが全部壊されてしまう。

広島、長崎に使われた小さな核でも、人間にも、環境にも、これだけの惨事が起こるんだと、世界は学んできているはずだと思うんですね。

だから、核兵器禁止条約のために、世界中、お互いに連帯して、私たちも含めて戦ってきた。

座して人類が葬られるわけにはいかないわけですから、やっぱり核を葬りさらないと、人類の方が核に滅ぼされてしまう。

そういうことが、目の前で起こっているわけです。

実際に、原発が攻撃されています。

一歩間違えれば、チェルノブイリ原発事故の時よりも、もっとひどい大規模な被害が起こってしまう。

そういった惨事が起こってからでは遅いと思うんですね。

それにどう立ち向かっていくか。

本当に途方もなく大変だと思うんですけど、人類は核との向き合い方を考え直さなくていけない局面に立たされていると改めて痛感しています」

「核兵器の存在が攻撃の口実になる」

核兵器によって相手を恐れさせ、攻撃を思いとどまらせるとする「核抑止」についてどう思いますか?

「『核抑止』というのは、『核兵器を使う』という行為を前提にして、それでもって威嚇して相手を屈服させる、あるいは攻撃を断念させる、ということですね。

一国の最高責任者が核のボタンを押せるという、それが、世界の戦争が起こらない抑止力になっていると言い逃れする人もたくさんいますけど、私は逆だと思うんですよね。

核兵器の存在が、攻撃の対象、攻撃の口実になりますからね」

「核被害者 戦争被害者の立場に立つ そこを直視する」

『核共有』を議論すべきだという意見が出ていることについて、どのように感じていますか?

「いまの戦争の状況を利用して、すぐ核共有論を持ち出したり、非核三原則の見直しの議論を持ち出したり、そういったやり方で核の問題を扱ってはいけない。

核が使われたらどうなるのか。

その視点がないと、本質的にいまの戦争を止めることもできないと思います。

そのためには、核被害者、戦争被害者の立場に立つ、そこを直視するということがいちばん必要で、今はその視点が欠けているのではないかと感じています」

<核共有をめぐる議論>
アメリカの核兵器を同盟国で共有する「核共有」について、自民党の安倍元総理大臣は2月、「国民の命をどうすれば守れるかは、さまざまな選択肢をしっかりと視野に入れながら議論すべきだ」と述べ、日本でもタブー視せずに議論すべきだという考えを示しました。
また、日本維新の会は、3月3日、議論を始めるよう政府に提言しました。

一方、政府は「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を堅持する方針で、核共有は認められないとしていて、岸田総理大臣は3月14日、国会審議の中で、「非核三原則や原子力基本法をはじめとする法体系からしても認められない。日米同盟のもと『拡大抑止』は機能していると考えるからこそ、核共有の議論は考えない」と述べています。

「核と人類は共存できない」

森瀧さんはこれまでも「連帯」をキーワードに世界に発信してきました。

いまこそ必要な動きは何だと思いますか?

「1つは戦争反対、1つは核を使うなという、非常に単純明快なことじゃないかなと思います。

そういう共通認識が持てるような運動を、特に広島は作っていかないといけないと思うんですね。

いま私たちができることは、それを広島から、なんとか世界に発信していける方法で続けていく。

私もずっと、核兵器そのものがいかに危険なものかという広島の体験、実相を伝えるという、いわゆる反核行脚みたいなことから始めたんです。

だけど、いろんな国に行って、劣化ウランの問題であったり核兵器の問題であったり、ウラン鉱山の問題だったり、テーマは1つずつ違うようなのですが、根底に流れるものは、やっぱり『核と人類は共存できない』という、被爆後の広島が発してきたこと。

そこの認識をみんなに広めたい。

そのためには、1人ずつの力を寄せ集め、いわゆる『連帯』というものによって、連鎖反応のように認識を広げる努力をしていかないといけない。

とにかく戦争をみんなの力、連帯の力で止めようと、そこで核兵器を使わせない、核戦争には絶対してはいけないという思い。

『とにかくみんな立ち上がろうよ』と言いたいです」
これまでのシリーズは下のリンクからご覧になれます。