ロシア軍事侵攻 核兵器の威嚇 被爆者が語る“血が凍る”思い

「ヒロシマ・ナガサキの過ちを繰り返してはいけない」

“生き地獄”とも言われる原爆による想像を絶するような被害を見た被爆者たちは、77年にわたって世界に訴えてきました。

いま、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、プーチン大統領は核兵器の使用の可能性をちらつかせて威嚇しています。唯一の戦争被爆国、日本だからこそ伝えられるメッセージを紹介します。

カナダ在住の被爆者 サーロー節子さん

カナダ在住の広島の被爆者、サーロー節子さん(90)は、13歳のとき広島で被爆した自身の体験を長年世界各国で語って核兵器廃絶を訴え続けています。

2017年に国連で核兵器禁止条約が採択された際や、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンがノーベル平和賞を受賞した際の授賞式で演説。

ノーベル平和賞の授賞式では、原爆の爆風で倒れた建物の下敷きになり、暗闇の中で体を動かし続けて助け出されたことを引き合いに「あきらめるな、押し続けろ、光の方にはっていくんだ」と訴え、厳しい状況の中でも核廃絶に向けた取り組みを続けなければいけないと呼びかけました。

軍事侵攻 「怒りで沸き返った」

Q:ウクライナへのロシアの軍事侵攻を見て、いま感じていることは?

A:血液が凍るような思いがしました。

凍ったあと、怒りで沸き返りました。

77年前の恐怖とか怒り、そういう思いが全身に広がり、ただ精神的に感情的に感じたのではなくて食欲もなくなり、本当に怒りで包まれました。
Q:プーチン大統領は、核戦力を念頭に抑止力を特別警戒態勢に引き上げるよう命じました。長年、核廃絶を訴えてきた被爆者としてどう感じましたか?

A:プーチン大統領があんなに急に核兵器に関する脅かしの言葉を使ったのは、無謀すぎるのではないかと思いますが、追い詰められるとどんなことをしでかすか分からないので非常に怖いです。

13歳の少女として、広島の全市が一瞬にして死の街と化してしまった。

あまりにも多くの人間の死を瞬間的に目にしました。

あの経験を通して、人間ひとりひとりの尊厳を無視して無差別の大虐殺をするという非道徳的な人間らしくないことは絶対に受け入れてはいけないと学びました。

人間が人間として生きる、人権というものがあります。

プーチン大統領は一人ひとりの人間の尊厳を無視して、隣の国から泥靴で入り込んで出て行けと、皆さんをホームレス状態にしている。

「世界各地で核兵器による攻撃が起きうる」

寒い冬に凍えながら新しいところを求めて逃げさまよう、両親、大人、子どもたち、無垢の人間の苦しみを、プーチン大統領がテレビを見ながら、これでよしと指令する、何という冷酷な人間なんだろうと思います。

私はこういうニュースを毎朝毎晩聞いて、何十年か前の広島の自分自身の体験を通して、皆さんの痛みっていうもの、本当に痛いほど感じています。

私の4歳のおいは原爆の熱線で焼けただれて、人間には見えないようになり、焼けて溶けてしまいました。

焼け溶けた肉というような、人間という状態ではなくなったんです。

そういうイメージが私の記憶に焼き付いていますから、それを感じながら今回の苦しい話を聞いてきました。

世界の多くの人たちは、いまウクライナで苦しんでる人たちの苦しみを共有して助けるだけじゃなくて、全世界の人間が危機に直面しているんだということ、9つの核兵器国のリーダーがボタンを押せば世界の各地で核兵器による攻撃が起きうるんだということ、東京で、パリで、トロントで起きうるんだということを認識してほしい。
核兵器国のリーダーたちに対しては怒りを感じます。

世界の人々を人質にして、核兵器って役に立つんだぞと、われわれの安全保障が確保されるんだと、そういう意図的に作られた情報、抑止論を信じさせようとしていて非常に危険です。

「広い目で全世界の運命を考えないと」

Q:世界で再び、冷戦期のように核兵器によって相手を恐れさせ、攻撃を思いとどまらせるとする「核抑止」の考え方が語られていることについて、どう感じますか?

A:ウクライナの兄弟姉妹たちに同情や援助はもちろんしなきゃいけない、至急しなきゃいけない、しかし、そこで思いや行動が止まるのではなく、もっと大きい目で、これはウクライナの人たちだけじゃない、世界のすべての人間が9つの核保有国によって人質とされてきているんだと。

だからその広い目でね、全世界の運命ということを同時に考えないといけないんだと。

あまりに長い間、核保有国がとらなきゃいけない責任をとらないで、人々に核兵器って役に立つんだよ、これでわれわれの安全を図ることができるんだって、核抑止論によって、自分たちがしなければならないことを怠ってきたことが、現在起きていることに大いに関わりがあると思います。

核持ち込み 「絶対に許されない」

Q:アメリカの核兵器を同盟国で共有する「核共有」を議論すべきだという意見が出ていることをどう受け止めていますか?

A:日本が核兵器保有国と同調して、特に同盟国である米国の核兵器を日本国に持ち込んで日本人の安全保障を図ろうということを考えるときが来たってことが公表されてあぜんとしました。

それに対して、今の総理大臣がきぜんとしてNOとおっしゃった。

日本政府として、平和憲法を守り、非核三原則を守り、国是は守るんだとおっしゃったことも読んで、ほっとしました。

「核共有」は何十万じゃなくて、いま何百万、何千万っていう多くの人間を対象に無差別の大虐殺をする用意があるということ、そういう脅かしを使うこと、核抑止論ですよね。

核兵器大国である米国と共同で日本の国に核兵器を持ち込むアイデアがあると考えるだけで、非常に怒りを覚えます。

絶対にそういうことは許されない。

被爆体験があるなしにかかわらず、人を殺す、無垢の、罪のない人を平気で虐殺する兵器が悪でない、違法でない、ということをどう確信できるんでしょうか。

「リーダーに繰り返し繰り返し伝えてください」

Q:いま、日本に向けて、世界に向けて伝えたいことは?

A:今この時点で苦しんでいる兄弟姉妹がウクライナにはいる、ウクライナからどんどん脱出して近隣の国に助けを求めている。
世界の人たちが救おうとしていることは非常にありがたいこと、心温まることで、そういう行動をより強化するようにみんなで努力しましょう。

でも同時に、ウクライナだけに焦点を当てるんじゃなくて、全人類がどういう危機にひんしているかということも同時に考えてほしいです。

というのは、世界に1万3000発という核兵器が準備されていて、9つの核兵器国が今でもどの瞬間でもボタンを押せば使えるような状態に置かれている。

その緊急性を考えてください、真剣に考えてください。

思いがけないようなことが2週間余り前に起きたじゃないですか。

もっと現実として世界が抱えている問題に注目して、一緒に学びましょう。

原爆の被害のようなことが二度と起きないように、ともに声を大きくして、われわれのリーダーたちになんとかしようと人類を救えと、その責任があなたたちにはあるんだと、堂々と大きく声を出して伝えてください。

あなたたちの住んでいる国のリーダーにその声を繰り返し繰り返し、伝えてください。

それをみなさんに期待します。