「ダメなモノはダメ」核廃絶に取り組む大学生からのメッセージ

「ヒロシマ・ナガサキの過ちを繰り返してはいけない」
“生き地獄”とも言われる原爆による想像を絶するような被害を見た被爆者たちは、77年にわたって世界に訴えてきました。
いま、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続き、プーチン大統領は核兵器の使用の可能性をちらつかせて威嚇しています。
国連のグテーレス事務総長は「かつては考えられなかった核兵器を使った紛争がいまや起こりうる状況だ」と強い危機感を示しました。

唯一の戦争被爆国、日本だからこそ伝えられるメッセージを紹介するシリーズ。
1回目のカナダ在住の被爆者 サーロー節子さんに続いて、今回は長崎出身の大学生を取り上げます。

核兵器廃絶を目指す活動を続ける大学生 中村涼香さん

長崎出身の大学3年生、中村涼香さんは、高校生のときから被爆者への聞き取りや署名活動など、核兵器廃絶を目指す活動を続けています。

大学進学で上京した後、若者による平和活動の輪を全国に広げようと、「KNOW NUKES TOKYO」という団体を立ち上げ、共同代表を務めています。

中村さんに聞きました。

Q: ロシアによる軍事侵攻をどう受け止めていますか?

中村さん
「侵攻が始まったというニュースが流れてきたときには、いまいちイメージが湧かなかったのですが、徐々に事の重大さに気付き始めました。
最初、ピンとこなかったのは、自分が生きてきた中でここまでの危機感を感じることがなく、現実の世界で核兵器が使われるかもしれない、あるいは街の中で本当に一方的に攻撃を受けて人々が犠牲になるというのを、これほどは目の当たりにしたことがなかったからなのかなと思います。
これまで市民社会の中で声を上げていくこと、市民社会が政治を動かしていくことに意味を見いだしていましたが、市民社会ができることに限界があるんじゃないかとも感じずにはいられませんでした」

Q: プーチン氏が核保有を誇示するような姿勢を示していることは

中村さん
「パッと頭に浮かんだのはキューバ危機でした。
よく、『核抑止(核兵器によって相手を恐れさせ、攻撃を思いとどまらせるとする考え方)があったからキューバ危機も乗り越えられた』と言われることがあります。
でも、今回の危機に際して、核抑止の議論は、当時の緊張や『核兵器が実際に使われてしまうんじゃないか』という恐怖を味わっていないからこそ言えることだと改めて思いました。
キューバ危機は歴史の話になっていて結果論で話せるので、核兵器が抑止力として機能したという言説が一定の説得力を持ってしまっていますが、元はといえば核兵器を初期の段階で禁止しておけばそういった危機に至らなかった。
過去に戦争が起きた時代から続いているこじれた状況があり、国際社会や各国が外交の積み重ねに失敗している部分があることを認めざるをえないのではないかと思います」

Q: 核兵器が使用されるかもしれない現状をどう捉えていますか?

中村さん
「改めて、核兵器の問題は過去の問題ではないと痛感しています。
これまで、被爆者の方が『核兵器はいけない』と語ることに説得力があるのは被爆の経験があるからで、私には同じくらいの影響力や強い力を持って語ることはできないと考えていた部分があったような気がしています。
でも、今なお世界には1万3000発もの核兵器があり、自分もいつ被爆者になるか分からない。
そういった状況の中で核兵器の問題を『自分ごと』として語れないのではなくて、語らないといけないんだというマインドの変化が自分の中でありました。
これまで核廃絶に向けた活動をしていても、そこにまで至っていなかったなと思い知りました」

Q:「核共有」を議論すべきだという意見については?

中村さん
「考えが足りていないんじゃないかなと率直に思います。
本当に核兵器が抑止力として機能するのかどうか、核兵器が必要なのかどうか検証を重ねていくと、核兵器の恐ろしさに直面するはずです。
核抑止が必要だとか、(アメリカの核兵器を同盟国で共有する)核共有すべきだと主張する人たちの間で、結論に至るまでの検証が十分にされているのか、懐疑的に見る必要があると思っています。
核兵器で私たちを守ることができるのか、核兵器が安全保障の重要な役割を担っているのか、核兵器を開発・維持していくためにどれだけの資金や労力が必要か、その分をもっと有効な使い方ができないのかとか、判断・選択を積み重ねていくと、どうしても、何度繰り返しても『核兵器はなくすべき』だっていう答えに至るんです。
『日本は被爆国』と言いながら、それが広島・長崎にとどまっていて日本全体で共有されていないのではないか、改めてあらわになったという感触もあります。
核兵器が使われた場合の痛みとか苦しみは日本がいちばん知っているはずです。
その日本から核兵器使用の一端を担うべきだという発言が出ているのは、ほかの国が核兵器の使用を主張するのとは全く違ってくる。
その責任を考えずに発言することは国際社会の一員としてもふさわしくないと思います」
【核共有を巡る議論について】
アメリカの核兵器を同盟国で共有する「核共有」について自民党の安倍元総理大臣は、ウクライナが、核共有を実施しているNATO=北大西洋条約機構に加盟していればロシアの侵攻はなかったのではないかと指摘した上で、日本も議論を進める必要があると強調しているほか、日本維新の会は、3月3日、議論を始めるよう政府に提言しました。

一方、政府は「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を堅持する方針で核共有は認められないとしていて、岸田総理大臣は3月14日、国会審議の中で「非核三原則や原子力基本法をはじめとする法体系からしても認められない。日米同盟のもと『拡大抑止』は機能していると考えるからこそ核共有の議論は考えない」と述べています。

Q:「核共有」に関する発言について、同世代の若者たちの反応は?

中村さん
「核兵器について議論が活発にされているという感触はないです。
社会課題に関心のある人はすごく多いのですが、私たちの世代はまだ人生経験も浅いので、自分の身近にあるものに対する関心の方が大きいです。
日常生活の中で身近に感じるのは環境問題だったりジェンダーや差別のことだったりします。
しかたがないかもしれないとは多少思いつつ、核兵器・安全保障についての議論がないことに対して、すごく危機感を覚えています。
SDGsが叫ばれ、世界は協調していろいろな問題の解決に向かって歩もうとしてきましたが、脅しや仮想敵国というものを前提にした核抑止が言われると、動きが後退してしまうと思います。
その中で、これからの世界を生きていく私たちも核兵器をめぐる問題の議論の一端を担っていくべきですし、同世代の中でもさらに議論を積み重ねていきたいと率直に思います」

Q: 今、若い世代に何ができると考えていますか?

中村さん
「正しい情報を社会に共有していくこともそうですし、核兵器の議論をするときに抜け落ちている視点を問題提起することなど、たくさんあると思っています。
若い世代は、核兵器の問題はずっと昔の問題だと思ってしまっていますが、本当は今現在の問題です。
難しいと思われているものを私たちの日常生活にまで落とし込めるように翻訳していく、そういう作業が必要なのかなと思っています」

Q: 中村さんが世界に届けたいメッセージは?

中村さん
「『ダメなモノはダメ』ということばに尽きます。
核兵器が実際に使われた後には医療も入れない、誰も助けに行くことができない状況が起きることを考えてほしい。
『核の冬(核兵器の使用で発生する大量の粉じんにより太陽光が遮られ、地表の気温が低下する現象)』も起きて環境破壊も進む。被害は局地的なものにとどまらない。
どう対処していくのか丁寧に明らかにしていくと、『核兵器は使用できない』という答えに絶対に到達するはずで、『核兵器をなくさないといけない』ということがすごく明白になると思います。
誰かが決断して動き始めれば、きっと状況は変わるはずだと思うんです。
日本も、欧米と足並みをそろえたロシアへの制裁だけに限らず、独自の外交ルートで話をするとか、問題解決の手だてはあるはずだと思います。
また、核兵器禁止条約に入らない、アメリカとの関係を維持しなければいけないと言いますが、外交努力を重ねずに『核兵器は必要だ』『今の均衡を保たなければいけない』というのは、努力が足りていないと思います。
私自身も市民社会の一員として努力を重ねていきますし、皆さんと一緒に頑張りたいと思います」