軽量で低コストの水素タンク 宇宙船の技術を応用

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脱炭素社会のエネルギーとして注目される水素。普及に向けてはコストの高さや、引火しやすい水素を安全に運んで貯蔵する頑丈なタンクの開発などが課題になっています。こうした課題を宇宙船の開発技術で克服しようという取り組みが始まっています。

重さは金属製の10分の1

6月13日、広島県呉市で水素の貯蔵や運搬用の新しいタンクが公開されました。金属をほとんど使っていないのが特徴です。

このタンクをつくったベンチャー企業「SPACE WALKER」の眞鍋顕秀CEOは公開にあたり「複合材タンクの技術で、新たな産業革命ののろしを一緒に上げていただきたい」とあいさつしました。

水素はタンクの中で高い圧力をかけた状態で貯蔵します。それに耐えられるよう、多くの場合、タンクには金属が使われています。

一方、今回公開されたタンクは主に樹脂炭素繊維でできています。重さは金属製の10分の1だということです。

例えばトレーラーで運ぶ場合、タンクが軽くなった分1台に積める水素の量を増やせるので輸送の効率が高まるといいます。

ベンチャー企業 眞鍋顕秀CEO
「水素社会が社会実装できるかどうかは、コスト削減が大きくカギを握っている」

タンク事業で宇宙船の開発資金を確保

このベンチャー企業は5年前に設立され、宇宙船の開発を行っています。2029年までに宇宙旅行の実現を目指しています。

宇宙船の開発資金を継続的に確保していくため、いまある技術で別の事業を立ち上げようと考えました。

目をつけたのが、次世代のエネルギーとして期待される水素です。水素で動く船や飛行機などの開発が進んでいて、今後水素タンクの売り先が増えていくと見たのです。

ベンチャー企業 米本浩一CTO
「ビジネスとして技術的な貢献が拡大すれば、必要とする資金(の確保)に貢献できる。どんどんやっていく」

「宇宙で使う技術を地球で有効に使う」

水素タンクの開発には宇宙船に使う技術を生かします。宇宙船の燃料などを入れるタンクは機体の半分以上を占めるため、徹底した軽量化が求められます。

この企業では、樹脂でつくったタンクに炭素繊維を巻きつけることで、軽さと強度を両立させようとしています。さらに、より少ない炭素繊維で強度を高める巻き方も研究してきました。それを水素タンクに応用することで製造コストを抑えることができました。

水素タンクは今後安全性の試験を重ね、23年にも発売する予定です。すでにトレーラーを必要とする水素ステーションの運営会社から問い合わせが来ているといいます。

水素タンクの開発担当 山本睦也さん
「宇宙で使う技術を地球で有効に使って、水素社会が早く来るように、できる協力をしていく」

水素産業に詳しい九州大学水素エネルギー国際研究センター長の佐々木一成さんは「金属をほとんど使わない水素タンクを製造できる企業はまだ少なく、水素社会実現の弾みになる可能性がある」と話しています。

水素の関連技術は、欧米や中国などでも巨額の投資が始まっています。世界をリードする多様な水素技術が日本で進化することを期待したいと思います。
【2022年6月20日放送】