2024年04月02日
「ドレスコードはなくします」「先輩と交流も」「両親の参加もOK」。
今、企業の入社式が様変わりしています。いったいなぜ?最新の入社式を取材しました。
新年度が始まった1日、各地で入社式が行われ、横浜市の化粧品メーカー「ファンケルグループ」では新入社員およそ80人が入社式に参加しました。
式の開始前、会場脇に設けられたメイクコーナーでは入社2年目から4年目の社員が新入社員にメイクを施して、新たな門出を祝いました。
先輩社員「今実家で暮らしてる?」
新入社員「一人暮らしを始めて」
先輩社員「けさ大変だったね」
新入社員「起きれるか怖かったです…」
先輩社員「これから入社式頑張ってね」
新入社員「1年間やってきてつらかったこととかありますか?」
先輩社員「あ~配属された時が一番つらかった」
新入社員「行きたいところじゃなくて、ってことですか?」
先輩社員「そう、でも行ったら全然みんな優しかった」
新入社員たちは最初は緊張ぎみでしたがだんだん笑顔になり、年齢の近い先輩社員に一人暮らしの相談をしたり配属先の話を聞いたりして交流を深めていました。
会社によりますと、コロナ禍を経て社員どうしでコミュニケーションを図る機会が少なくなるなか、新入社員に早く会社に慣れてもらおうと、こうした取り組みを思いついたということです。
総合職で入社した女性
「コロナ禍の大学生活で、先輩とのつながりがなかったので、入社式で先輩方とお話することができて本当によい機会になりました。自分が10年後どうなりたいかと思った時に、ここの社員さんのようになりたいと思ったので、この会社を選びました。皆さんお話上手だし聞き上手だし、私もそんな存在になりたいと思います」
従業員の多様性を尊重しようと「服装や髪形は自由」という入社式も増えています。
和歌山県内を中心に45店舗のスーパーマーケットを展開する「松源」は1日、和歌山市にある本社で入社式を開きました。
会社では従業員の多様性を尊重しようと、去年から勤務の際の髪形などのルールを緩和し「自由」としています。
37人の新入社員は、金髪に染めたり、スーツ姿だけではなくワンピースを着たりするなど、思い思いの格好で出席しました。
式では桑原太郎社長が「皆さんの成長が結果的に売上や利益として返ってきます。皆さんの未来に期待しています」と激励しました。
これに対し新入社員を代表して中嶋悠佳さんが「多様性が尊重される時代にさまざまなお客様のニーズに応えられるよう、社員どうしの個性を尊重しながら日々、成長していきたい」と抱負を述べました。
大手メーカーの日立製作所でも、服装を社員の自由に委ねた入社式が行われ、社長もノーネクタイ姿であいさつしました。
東京・新宿区のホテルで開かれた入社式にはおよそ780人の新入社員が出席しました。
去年までは新入社員の服装をスーツに限定していましたが、社員の個性や考え方を尊重し、会社への信頼感や本人のやる気を高めることにつなげようと、ことしから他人に不快感を与えない範囲で服装を社員の自由に委ねました。
会場にはリクルートスーツ姿の新入社員も目立ちましたが、ネクタイを締めていない新入社員や、ボーダー柄のシャツ、タートルネックのセーターを着た新入社員の姿も見られました。
小島啓二社長は「いま社会は経験したことのない速度で変化している。変化を常に成長のチャンスと捉え、何を成し遂げ、どう成長したいか、きょうから仕事をするなかで見つけてほしい」と呼びかけました。
会社では3年前から入社式を「キャリア・キックオフ・セッション」と呼んでいて、新入社員にそれぞれのキャリアをスタートさせる場として意識してほしいとしています。
このあと36人の新入社員が登壇して今後の目標などを発表しました。
「グローバルに社会課題の解決に取り組んでお客さまを笑顔にしたい」
「仕事で出会う多くの人から学び新たな価値を提供できるエンジニアになりたい」
「大好きなモノづくりでスケールの大きな社会問題に取り組みたい」
1人1人が決意を新たにしていました。
徳島市にある徳島大正銀行の本店で開かれた入行式には、新人行員47人のほかに、18人の家族が初めて招かれました。
新入社員の女性
「親にも安心してもらい、自分も安心して、よかったと思う」
入行式で板東豊彦頭取は「全員が磨けば光る原石で、明るく元気に前向きに取り組み、矜持(きょうじ)を持ってチャレンジし続けてほしい」と訓示し、家族に対しては「支店長や職員に対し、皆さまの大切なご子息、ご息女をお預かりし愛情と責任感を持って接し成長してもらう使命感の醸成に努めます」と述べました。
新人行員を代表して石崎椋介さんが「困難に幾度となく直面すると思いますが、成長する機会だと前向きに捉え、1日も早く銀行員として力を発揮できるよう、日々、業務にまい進します」と抱負を述べました。
人材の獲得競争が活発化する中、家族にも業務や雰囲気を知ってもらうことで、新人の定着につなげるねらいがあるということです。
参加した母親
「親の参加はびっくりしましたが、娘の晴れ姿を見られるのはうれしいです。自分が会社に入る時にこのような取り組みがあったら恥ずかしかったかもしれませんが、時代の変化かと思います」
男性の新人行員
「私が入社してからの生活も知ってもらえるので、いい取り組みだと思います。同僚やお客様に信頼されるしっかりした社会人になりたいです」
多様化する企業の入社式の背景には、人手不足が続くなか、若い世代の「転職」も視野に入れたキャリアに対する考え方が影響しているとみられます。
去年、内定を取得した大学生などに「新卒で入った会社でいつまで働きたいか」を尋ねた調査では「1年未満」から「10年未満」までの回答が合わせて36%に上りました。
「わからない」も32%余りとなっています。一方、「10年以上」「定年まで」と答えた人はそれぞれ15%余りでした。
若い世代の間では入社前から「転職」を視野に入れる人も多く、キャリアに対する考え方が多様化していることがうかがえます。
また、1400社余りの企業に、ことし3月に卒業した大学生などの採用人数が十分だったかを尋ねた調査では「計画より若干少ない」と「計画よりかなり少ない」を合わせると6割を超え、年々、「足りない」と回答する企業の割合が増えているということです。
人手不足が続くなか、企業としては入社した新入社員にいかに長く活躍してもらうかが大きな課題になっています。
就職や採用に詳しいリクルート就職みらい研究所の栗田貴祥所長は入社式が多様化する背景として「キャリア志向」と「多様性」の2つのポイントを指摘しています。
栗田所長
「今の若手の社会人は、1社で働き続けようと考える人は少なく、自分が成長できる環境があれば転職しようと考える人が多いと思います。
ゼロ成長、マイナス成長という中で、1社に忠誠を尽くしても将来の安全・安心・安定が担保できるとは言い切れない現状を、若い人たちは敏感に感じているからです。
彼らにとって魅力的に映るのは、自身のキャリアに寄り添い、キャリア開発の機会や環境を与えてくれる職場です。会社としても『あなたたち一人ひとりを見て、成長できる環境や、あなたのキャリアを支援していきますよ』というメッセージを送っていく必要が出てきているとみられます」
最後に、なぜ企業はあの手この手で新入社員に合わせようとするのか聞きました。
栗田所長
「これまでのような画一的な採用手法は、企業側にとっては非常に効率がよかったんですが、これだけ考え方が多様になってくると、いろいろな選択肢を準備して個人にあったものを選んでもらえるようにすることが必要になっています。
というのも、高度経済成長期には、企業は今ある業務を改善して生産性を上げていくことで事業自体も成長してきましたが、今は将来の予測が困難で、正解が見えない時代になっているからです。
多様な価値観をもつ多様な人材がアイデアを出し合ってイノベーションを起こして成長していくことが求められるので、多様な人材に生き生きと働いてもらうためのアプローチの一環として、入社式も多様なスタイルになっているのだと思います」
(4月1日の「首都圏ネットワーク」などで放送)
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