みずほ銀行 山泉亘さん

“お金は数えない!?”異色の銀行マン

2019年05月13日
(聞き手:鈴木マクシミリアン貴大)

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金融サービスとITの融合「フィンテック」。今回お話を伺ったのは、その改革の最前線に立つ山泉亘さん。銀行員なのに職場ではお金にまったく触れず、フィンテックによる新たなサービス開発を担当。激変する金融業界のなかで山泉さんが考える情報の価値とは。

大学では画像認識技術などを研究していた山泉さん。貼られたシールの数々がPCへの愛着を物語ります。

「フィンテック」のリードオフマン

学生
鈴木

山泉さんは「フィンテック」を担当されているということですが、どのようなお仕事なのでしょうか。

いわゆる銀行って、支店や窓口というイメージですが、私は、あそこにはいないんです。

山泉さん

本部というところで、お客様の悩み事を吸い上げて、じゃあ今度お客様にこういう価値を提供しようとか、そういうのを考えています。

フィンテック(FinTech)
金融を意味するファイナンス(Finance)と技術を意味するテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、IT技術を使った新たな金融サービスなどを意味する。身近な例ではスマートフォンを使った送金、モバイル決済、ネットバンキング、仮想通貨なども含まれる。

具体的には何をされているんですか?

金融の世界でどういうデジタルツールが役立つのか、企画して導入することですね。言ってみれば会社全体のIT戦略を考えています。

たとえばブラウン管テレビって知ってます?

一応、知っています。。

よかった(笑)

今のテレビって平面だけど、昔は曲面だったんですよね。あれも、だんだん変わっていって。

よいものに変わっていくじゃないですか。
それって銀行でも同じなんです。

金融の世界にも、変化が起きているということですね。

そうです。銀行のツールも一緒で、新しい技術って銀行の外でどんどん生まれてくるんです。

たとえ、銀行のために創られた技術じゃなくても、応用できるかもと考えるんです。それで結果的にお客様に価値を提供するのが早くなることもありますね。

新しい技術を吸収しよう!社内の勉強会サークルで講師を務める山泉さん

昔だと、1年かけて新しい金融サービスを考えて、失敗すると1年がむだになっちゃいました。

今の世の中はすごく速くて、きのう考えたことが、きょうはもう古い、という世界なので、いかに早く、お客様に価値を提供できるかが鍵なんですね。

そうした環境での仕事の魅力とやりがいは?

お金の使い方が、今まさに変わりつつあると言われていて。現金主義じゃないですか、日本は。私は個人的には全然現金使わないんですよ。キャッシュレスで。

イメージ:キャッシュレス(みずほ銀行HPより)

キャッシュレス

文字どおり、現金(キャッシュ)要らず(レス)の決済手段。日本では「Suica」や「PASMO」などのICカード乗車券が代表例。その後、スマートフォンの台頭で「スマホ決済」が普及。中国ではQRコードを使った決済が爆発的に広まり、日本でも参入が相次いでいる。普及が広がる背景には、①偽札などの犯罪の防止、②決済データの活用による販売促進、③消費者の利便性向上などの理由がある。

ようやく、世の中的にも「それがふつう」の1歩手前くらいまで進んできたのかなと感じています。その変化しているところに今、いられるのがおもしろいです。

新しいフィンテックの技術で何か社会に影響を与えたようなプロジェクトはありますか?

影響を与えたというところで言えば、LINEでしょうね。LINEとの連携というのは大きなニュースになりました。

どのようなプロジェクトですか?

まさにこれからなんですけども、LINEさんが、新しい銀行をつくるという話なんですね。

その中で、みずほさんと提携していくと?

金融の知恵は、やはり銀行にあるので、そこを提供することでLINE銀行さんがうまくステップアップできるように支援するのが主たるところだと思います。

新たな変化を起こそうという気概を持って仕事をされているんですか?

そうですね。変化のある所じゃないと仕事できない。やっぱり楽しいですよね。何が起こるか分からない。逆に言うと何かを起こせるかもしれない。そこに絡めるかもしれないという期待感はありますよね。

転職のきっかけは“スマホ決済”

山泉さんは、以前は別の仕事をされていて、銀行に転職されたんですよね?

はい。今と全く違って、製造業でした。プリンター・複合機の大手メーカーですね。ただ、プリンターは作ってなくて、ソフトウェア・サービスの開発に携わっていました。

具体的にはどのようなお仕事を?

プリンターで読み取った原稿をいろんな言語に勝手に翻訳してくれる機能とか、クラウドと連携したオンラインサービスなど、“新しい価値を創る” そんな開発部門にいました。

クラウド(Cloud)
直訳すると「雲」で、ネットワークを経由してさまざまなサービスにつながる仕組みのこと。身近な例では、スマホで撮った写真をクラウドにあげてみんなで共有など。現在、多様なサービスがクラウドで提供され、主要な情報通信インフラになりつつある。

なぜ、銀行に転職されたのですか?

前職でクラウド・サービスの開発に3年ほど携わって、社内でクラウドの活用は重要なんだという認識を全員で共有しようと取り組んだんですね。

そうすると、ほかの社員も認識が変わって、クラウドをどんどん活用していく環境が整って、落ち着いちゃったというのがありますね。

銀行はまだまだクラウドを導入して発展できる業界でしょうか。

そう思いましたね。お金の「決済」って絶対無くならない価値交換じゃないですか。「私が持ってる価値とあなたの持ってる価値を交換して下さい」、そこに介在するのが通貨・お金って発想だったんで。

ただ、「お金が無くなるような世界が来る」でも「お金の価値交換・決済はなくならない」。何が起きるんだろう?っていうところに飛び込んでみたいなと。転職のきっかけはいくつかありましたけど、最後の決め手はそこでしたね。

銀行に入るとやっぱりお金とか数えたりするんですか?

私は実際に、お金は数えないですよ!(笑)

あの札束を持って、ばっさばっさと、“札勘(さつかん)”って言うんでしたっけ?全然できないです…

お札の勘定。略して、札勘!
山泉さんのある日のスケジュール

朝起きたら「OKグーグル!」

情報入手について伺っていきたいのですが、どんなアプリやサイトをご覧になってますか?

情報源は日々変えてたりするんですけど、メインはGoogle Newsですね。メインというか、一番最初に開くもの。

言ってみれば、昔の人が朝起きて新聞見るっていうシーンが、私にとってはGoogle Newsですね。

事前に頂いた1日のスケジュールに「Google Home」に話しかけてニュースを流すと書かれていますが…。

え?流さない?

スマートスピーカー、そもそも持っていないです…

今、比較的安いですよ。

「OK、グーグル!、ニュース教えて」と?

そうですね。「きょうのニュース」と。

Googleのスマートスピーカー、Google Home。

スマートスピーカー(AIスピーカー)

音声操作のAI=人工知能を搭載したスピーカー。人の質問にAIが答えをネット上で探して返事をしたり、ネットに接続されたさまざまな家電製品を音声だけで操作できる。Google HomeやAmazon EchoなどIT各社が開発を競いあっている。

最先端ですね。

最先端ですかね?(笑)
ニュースって別にテレビでも何でもあると思うんですけど、目で入るコンテンツって、ほかに何もできなくなるんですよ。

なるほど、たしかにそうですね。

音声だと、ほかの事ができるんですよ。皿洗いしながら聞いたりとか。わたしの場合は、朝ごはん作ったりする時にGoogle Homeで聞いてますね。

NHKのラジオニュースも聞いてますよ。
NHKワールドの英語の方も、一緒に聞いてたりします。

Google Newsが便利なのは、自分用にカスタマイズできるんですね。検索した履歴って覚えられちゃうんですけど、逆に覚えてくれるからこそ、関連する話題を引っかけてきてくれて。私の専用みたいな。

SNSで異なる見解も入手、新たな価値創造へ

自分専用にカスタマイズされていると、自分の好み以外の情報が見えにくくなる弊害はありますか。

ありますよね。そこはSNSを使って情報を集めて補っています。

ということはTwitterやFacebookでもニュースを見たりしますか。

そうですね。結局Google Newsだと自分用なんで、全然違う観点のニュース、もしくはそのニュースを見た時の他の人の観点も出てこない。

でもTwitterとかFacebookだと、そういう考え方するんだというのが手に入る。それが大きいです。

情報収集に関連して学生時代にこれをやっておいたらいい、ということはありますか?

自分に一見関係なさそうな情報でも、いったんは浴びた方がいいかなと思いますね。

それはどういった意味があるのでしょうか。

自分の専門分野だけで勉強したり、情報を得たりしていると広がらないんですよ。そこは特化できるかもしれないですけど、新しいことを生み出せないんですね。

でも全然違う分野の情報を知っておくと、組み合わせられるじゃないですか。そこから新しい発想が生まれてきたりしますからね。

銀行の未来とは?

銀行業界の課題や将来性についても、ぜひお伺いしたいのですが。

わたしが言うのもあれなんですけど、悩んでますよね、現状。銀行業界がどうしたいのかなって、ある意味答えがないので。

こっちの世界がいいですよって提案して受け入れられたらそれが価値なんですよ。何がウケるか、それを考えていくっていうのが、価値創造なんですね。そこを今まさに考えているステップだと思います。

変化で言うと、どういう要素が大切ですか?

完全に金融サービスに特化して考えると、あんまりお客さんはお店に来ないですよね。直近で銀行窓口に行かれたのっていつですか?

1年前とかですかね…

そうなっちゃいますよね。あんまり来ていただけないんですよ。今、ネットバンキングの勢いが高まっているじゃないですか。

そういう変化を、まずは見ていく。お客様がどういうものを求めているか、世の中の人が、どういう風に暮らしたいか、サービスをどのレベルまで提供しないと、お客様が振り向いてくれないかを、しっかり捉えていく必要がある。

変わる「先」を自分で創っていく

最後に、仕事で大切にしていることをこれに書いて頂けますか?

練習してもいいですか?あまり字を書かないんですよ(笑)漢字を忘れることがあって(汗)。

大学生のうちにたくさん漢字書こう。って、PCじゃなくてタブレットだったんだぁ…最先端を行くな~

ぜひ、思った通りに。

はい、こんな感じで!

情報を得て「変化」に備える!

その心は?

今の世の中は変化が激しい。新しいものが生まれては消える。試行錯誤を世の中全体でやっている、そんな状況にあるかな。

逆に、その流れに備えられないと、合わせられないと、置き去りにされてしまう。じゃあ、どうやって、その波、BIG WAVEに乗っていくかという時に、情報が生きるわけですよ。

今後、変化の波はさらに大きくなると思いますが、そうした中で、学生はどういったスタンスで向き合えばいいのでしょうか。

正解はないので、変わるものだと受け入れつつ、逆に、変わる“先”を、自分で創っていけるような、それを楽しむことが、大事だと思います。

受け身にならない!ってことかな。

山泉さん、貴重なお話、本当にありがとうございました。

「銀行員らしくない銀行員」。わたしが山泉さんに抱いた印象です。山泉さんの部署は、他業界からの転職組が半数以上を占めるそうです。従来のビジネスモデルでは立ちゆかなくなった銀行業界は、ITを融合させた金融サービス「フィンテック」という激変の真っただ中。新規参入する異業種との激烈な「価値創造」競争には、多様で幅広い情報が不可欠だと思いました。

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