2023年12月7日
香港 中国

「ただ自由に生きたい」周庭さん 香港への思い

「私はただ自由に生きたい、そして安全に生きたい。だから香港には戻りません」

そう話すのは、香港の民主活動家、周庭さんです。

今月3日、自身のSNSで現在はカナダに滞在し、現地の大学に通っていることを明かしました。

2021年に刑務所を出所した後、2年半にわたって沈黙を続けていた周庭さんに何があったのか。話を聞きました。

周庭さんとは

周庭さんは、2014年に行われた民主的な選挙を求める抗議活動「雨傘運動」の中心メンバーで、民主化運動の「女神」とも呼ばれていました。

雨傘を広げて警察と衝突する市民(2014年9月28日)

日本の音楽やアニメが好きで、独学で覚えたという流ちょうな日本語で香港の民主化に向けた支援を訴えてきました。

日本記者クラブでの会見(2019年6月10日)

2019年6月の大規模な抗議デモに関連して、違法な集会への参加をあおった罪で実刑判決を受け、2021年6月に刑務所から出所。

これとは別に、2020年8月、外国の勢力と結託して国家の安全に危害を加えたなどとして香港国家安全維持法に違反した疑いでも逮捕され、その後、保釈されましたが、今も当局による捜査が続いています。

今月3日、自身がカナダに滞在していることを明かした周庭さん。

2年半の沈黙を破ってSNSを更新したのにあわせて、NHKのインタビューに日本語で答えてくれました。

※以下、周庭さんの話。

2021年以降の状況は?

2021年の6月に刑務所から釈放されて、3か月に1回警察署に出頭にいかないといけないという状況でした。

出頭ということは、単純にサインすることもあるけど、たまに国安警察(国家安全当局)から取り調べられたり、尋問されたりするのもありました。3か月に1回警察署に行って、パスポート没収通知書みたいなものにサインさせられて、パスポートも没収されていました。

どんな生活を送っていた?

私も民主活動家として知名度があったので、生活するのも結構大変だったし、なぜかというと国安法(香港国家安全維持法)で香港の政治的状況がどんどんどんどん厳しくなり、誰も反対意見を言えないようになっていました。

言ったらすぐ逮捕された人もいたし、私みたいな人が銀行口座を開くのも非常に難しくなったり、たとえば、仕事を探すのも大変だったし、仕事はありましたけども、探す過程は難しかったですね。

生活上はいろいろ難しかったり、心の病にもなっていました。

拘束され警察の車に乗せられた周庭さん(2020年8月10日)

2020年のとき国安法で警察に逮捕されて、その経験が、あまりにも怖すぎて、例えば家の鍵が壊されたり、いろいろ没収されたり、あの経験が本当に怖かったです。

PTSDにもなっていて、この3年間、まだ香港にいたころに「あすの朝、警察が来るんじゃないか」っていろんな怖い思いをして、いろいろ怖くて、警察がいつ来るかもわからないし、警察署に行って出頭すれば、また逮捕されるんじゃないかなという恐怖を持っていました。

なぜカナダに行くことに?

私のパスポートがずっと没収されて、何かを変えようという気持ちがあって、カナダの大学で勉強したいという申請を国安警察に提出しました。

でも最初からパスポートを返してもらえたわけではなく、いろんな条件を満たさないとパスポートを返さないということになってしまいました。

ざんげ書を書かされたり、警察への感謝の手紙を書かされたり、中国大陸に連れていかれたりしました。

一番怖かったのは、中国大陸に行ったことだと思います。中国に行ったら香港に帰れるかもわからなくて、中国で逮捕されたら、何かが起きたら、誰も救いに来ないし、それがほんとにほんとにすごく怖かったです。

中国に行って何をした?

周庭さんはなぜ中国に連れて行かれたのか。中国で何をしたのか。3日に更新したSNSの中で、周庭さんは詳細に説明しています。

周庭さんの2年半ぶりの投稿

8月のある日、私たちは朝早く出発しました。
香港国家安全担当官の5人と一緒に中国南部の深圳を訪れて、中国共産党の発展や歴代指導者の業績などを学ぶために改革開放に関する展示を見学しました。科学技術の発展を学ぶために中国のIT大手「テンセント」の本社も訪問しました。
私は中国の経済発展を否定したことはありません。しかし、この強大な国は民主主義のために戦う人を刑務所に送り、出入国の自由を制限し、パスポートを返すのと引き換えに、中国本土を訪れて愛国的な展示の見学を求めました。
中国にいる間、役人などと会う予定はなく、公安省の尋問を受けることもありませんでしたが、ずっと監視されていると感じました。そして、展示物と一緒に写真を撮るように言われ、ずっと写真を撮られ続けました。
多くの香港の人たちが、娯楽や消費のために中国本土に行く一方で、私は留学の機会と引き換えに中国本土へ行かざるを得なかったのは、皮肉に思えました。
そして、香港に戻ると「祖国の偉大な発展を学べるよう手配してくれた警察当局に感謝します」といった趣旨の書面を書くよう求められました。
パスポートを受け取ったのは、出発する前日でした。

なぜSNSで公表したのか?

公表するかどうかすごく悩みましたけど、公表することを決めました。

周庭さんのインスタグラム

なぜかというと中国に行かされたときにたくさんの写真を撮られて、そして、過去の半年間警察への感謝の手紙だったり、ざんげ書だったり書かされたので、私が自分のストーリーを公表しないと、いずれこの手紙も写真も私の“愛国”の証拠になるんじゃないかなという恐怖ももっていて、公表することになりました。

そして、世界中の人々に、こういう経験がありましたよと、香港の国安警察はこういうことをするようになりましたよ、というのを世界に言いたいというのもひとつの理由だったと思います。

公表して不安はないか?

公表して、一番私にとって気になった、私の中で一番大きいのは、香港政府、中国政府の反応だと思います。

過去の3年間、政府が私の生活や行動の自由に厳しい制約をかけてパスポートも没収して、私の精神状態を崩壊させていました。

香港政府、中国政府は批判的な声明を出していて、これからカナダにいる中国の秘密警察が動き出すんじゃないかなという心配もすごく思っています。

もちろんカナダには香港の国安警察はいないんですけども、完全に安全になったわけではなくて、一部の報道によると、中国はいろんな国に日本にもアメリカにもカナダなどにも海外秘密警察がいて、だから一番の不安は自分の身の安全です。

香港に戻ることは考えているか?

香港は私の家ですから、帰らないと決めたときすごくつらくて、難しい決断でした。でも、今戻るとすぐ逮捕されます。

香港は国安法のもとで全く言論の自由はなくなり、みんなも反対的な意見も言えなくなり、選挙制度も完全に“愛国者”しか立候補できない制度になってしまって、いわゆる香港市民の生活が全般的に中国にコントロールされていると思います。

これから、中国は香港にどんどん強い、厳しい制限をかけるんじゃないかなと思います。

ビクトリア湾から香港の高層ビル群を臨む

香港に戻りたいと思っていますけど、いつか香港が良い場所、自由が保障される、人権が保障される場所、民主的な場所になったら、やっぱり家に帰りたいと思っています。

日本の人へのメッセージは?

私はこの3年間で、『恐怖からの自由』は一体何なのかをすごくわかりました。

日本の皆さんにとってすごく遠い話になりますけど、皆さん当たり前のように、民主主義や自由や人権の保障を持っていて、それを大事にすることが重要だと思います。

私はただ自由に生きたい、そして安全に生きたい。そう思っているだけなんです。

(12月6日 ニュースウォッチ9で放送)

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