2023年12月5日
ウクライナ ロシア

ウクライナの今は?国際報道2023油井キャスターが現地から報告

国際報道2023 NHKプラスの見逃し配信は12月12日(火) 午前5:00まで

ウクライナで取材を続ける、油井キャスターの報告です。先週金曜日は残された遺族、戦禍を生きる人々の思いをお伝えしました。2回目のきょうは、ロシアとの戦闘が長期化し消耗戦となる中で、ウクライナはどのような課題に直面し、克服しようとしているのか。その戦略に迫ります。

油井キャスターが現地から報告

(酒井キャスター)
ウクライナのキーウには油井キャスターがいます。

(油井キャスター)
はい、私は、いま、首都キーウ中心部の広場にいます。きょうも冷たい風が吹いていて、凍えるような寒さです。こちらの広場では、ご覧ください。ロシアによる侵攻でウクライナ軍が破壊したロシア軍の装甲車や軍用車両などが展示されています。平日にもかかわらず、多くの市民が訪れています。

ウクライナ政府は、こうした兵器や装備を展示することで、成果をアピールし戦いに勝利する必要性を国民に訴えているのです。

ウクライナが領土奪還を目指して反転攻勢に乗り出してから半年です。前線では、今も一進一退の攻防が続いていて、一部では膠着状態という見方も出ています。

ロシアとの戦闘が長期化する見通しの中、ウクライナ政府が、今、特に強化、力を入れているのが、「防空システム」と「無人機」です。

ロシアによるミサイルなどからウクライナの空を守る戦いと最新の無人機を開発してロシア軍の撃破を目指す無人機戦略を取材しました。

首都を襲ったドローン攻撃

私たち取材班が、キーウに入った直後の先月25日の未明。ロシア軍の無人機攻撃として過去最大とされる無人機75機がウクライナ上空に飛来。このうち74機をウクライナ軍が撃墜したとしています。

無人機は民間人の暮らしを脅かしています。キーウ市内の幼稚園に向かいました。

(油井キャスター)
「2階の部分に無人機の一部が落ちてきてこのように破壊され鉄筋がむき出しになって崩れ落ちている状況です」

許可を得て、内部を撮影させてもらいました。

(油井キャスター)
「こちらがロシアの無人機のために被害に遭った部屋です」
「いまは跡形もなく破壊されています」

被害を受ける前は、こども達の授業が行われる教室でしたがー。いまは、その面影はほとんどありませんでした。

(園長)
「真夜中だったから子どもたちがいなかったんですけれども、もし日中、子どもたちがここにいたら、大変な事態になっていたと思われます」「とても悲しく思っています、子供たちが大好きな幼稚園を失いました。空襲警報がなったら子供たちを直ちに避難させますが間に合うか(心配です)」

「無人機の迎撃部隊」

ウクライナ軍はロシア側の無人機にどう対応しているのか。「無人機の迎撃部隊」が取材に応じました。機動性を重視し少人数で編成され、キーウ州周辺では、こうした部隊が100以上配備されています。

キーウ州の防空部隊はロシアによる侵攻以降、およそ1万8500の飛翔体を迎撃。そのうち4000以上が無人機だったといいます。

取材のさなか、ロシア軍機が発進したなどとして、防空警報が発令されました。

(司令)
「緊急事態発生!」
(兵士)
「(攻撃されたのは)オブーヒブ地域」

司令部からの待機を告げられた兵士たちは緊張した面持ちで、迎撃態勢に入ります。その後、防空警報は、2時間近く続きました。

多くの飛翔体の迎撃を可能にしているのが、このタブレット。撮影は許可されませんでしたが、近づいてくる敵の無人機の動きを可視化することで対応できるといいます。

「すべての敵の目標や高度、数、方向を見ることができます」

首都キーウの空を守る、防空部隊の司令官が取材に応じました。

(ウクライナ空軍中央航空司令部司令官 アナトリー・クリブォノジコ中将)
「迎撃システムによって警報時に迎撃位置に移動し任務を遂行できる。ほぼすべての無人機を撃墜した」

使われているのは、「デルタシステム」とよばれるシステムです。ウクライナに飛来する飛翔体について、レーダーや無人機などが偵察した情報や、地上にいる兵士たちが集めた情報を統合し、地図上でリアルタイムに把握することができるといいます。

(担当者)
「センサーが物体を検知すると自動的に地図上に表示され追跡されます」
「例えば、このターゲットがシャヘド(ドローン)のように見えたら迎撃するように指示を出すことができます」

ウクライナ側も投入する無人機

一方、ウクライナ側も様々な無人機を戦場に投入しています。

(油井キャスター)
「あちら。無人機が飛んでいます。ここは、ウクライナ軍が無人機の飛行訓練を行う場所です。場所を明らかにしないという条件で取材が認められました」

無人機の技術開発が進む一方、不可欠なのが兵士の操作技術の向上だといいます。厳しい冬の戦いを迎えるなか、強風や雪など過酷な環境でも操作できるように訓練を行っていました。

(ドローン訓練の教官)
「無人機は非常に開発が進み敵も我々を調査し我々も敵を調査している。我々ができるのは操縦を中心として一歩先を行くことだ」

無人機に進められるAIの活用

今、こうした無人機に急速に進められているのが、AI=人工知能の活用です。AIは兵士の操縦を手助けし、標的の発見などで、無人機の精度を大きく向上させることができるといいます。

(ドローン開発者)
「操縦士のアシスタントとして人工知能が存在する。人間の能力には限りがありAIがここで大いに役立つ」

”AI搭載の無人機をすでに戦場に送った”。

そう発表したのは、ウクライナのフェドロフ副首相兼デジタル転換相です。

(フェドロフ氏のX旧ツイッター)
「先週だけでも、ロシアの装備220個を破壊した」

政府はすでにおよそ2000機のAIを搭載した無人機を前線に送ったというのです。

さらに、ウクライナのAI無人機開発は新たな次元に入っていました。

この企業が開発しているのは、人間が介在せずに攻撃する、自律型のAI無人機です。

(開発者)
「このドローンは、自分たちで自ら考えて、標的を攻撃することができます」

標的の発見と攻撃が自動化されるため、人間がターゲットを探す必要も、無人機を操縦する必要もなくなるのです。いまは、実戦投入の一歩手前だと言います。

(バレリー・ボロブィクさん)
「実戦の投入は明日かもしれません」

こうしたAI無人機について、AIに攻撃の判断を委ねることが倫理的に問題があると専門家から指摘されています。

AI無人機が、人間が止められない危険なものになりうるのではないかと聞くとー。

(バレリー・ボロヴィクさん)
「残念ながら、将来、そのような危険な状況が現実に起きるかもしれない。私たちは今、国を守ることに集中していることを理解してほしい。だが将来この技術を犯罪者やテロリストが利用する可能性がある」

油井キャスター「それだけ余裕がない」

(栗原キャスター)
「国を守るために集中したい」重い言葉ですね。油井さん、ウクライナでは倫理的に問題もあるとされるAIによる自律型の無人攻撃機の投入まで目指して開発を進めているとのことだが、「そこまでやるか」と驚きました。

(油井キャスター)
はい。私も驚きました。それだけ余裕がないとも言えます。ロシアの軍事侵攻が長期化し消耗戦となる中で、ロシアと比べて人口が少ないウクライナには兵士の人数に限界があります。それだけに無人機やAIに頼らざるを得ない実情があると見られます。

私が取材したウクライナ政府の高官は、人間が介在しない自律型のAI兵器については、倫理的な問題や国際的なルールがない状況を指摘した上で、実際に配備するかどうかは明らかにしませんでした。

一方で、AIそのものについては導入する重要性を強調しました。

油井キャスターのインタビューを受けるダニロフ書記

(ダニロフ書記)
「ビッグデータとAIを統合すれば、非常に強い武器になる」「新しい技術を利用して、無人機は1機1機送り込まれるのではなく、蜂が群れを作って集団で攻撃するように、無人機も群れで送り込まれ攻撃するようになる。それが、最新の戦争だ」

(油井キャスター)
ウクライナ政府は、ウクライナ国産の無人機・兵器開発を進めると同時に、欧米の防衛産業に対してウクライナへの誘致を積極的に働きかけています。欧米の防衛産業と連携することで、国内の防衛産業を育成したいという狙いです。

その背景には、欧米などで支援疲れが広がって、ウクライナ支援が今後継続するかどうか不透明なこともあります。欧米で政治的な風向きが変わる前に防衛産業と関係を深めることで、経済的な結びつきを強めウクライナ国内で兵器や弾薬を生産できる体制を整えたいという思惑もあります。

直面する国内の不満の表面化

一方で、ウクライナ政府にとって、今、大きな課題として直面しているのが、国内の不満の表面化です。ロシアによる軍事侵攻の長期化に伴う兵士の扱いを巡って、政府の対応に批判が出始めているのです。

「兵士は(政府の)捕虜ではない」

この日、首都キーウの中心部では数百人の女性が集まり、抗議の声をあげていました。

(油井)
「戦闘が長期化するなかで夫や子どもたちに早く戦場から戻ってきて欲しい。そう妻や母親たちが訴えています」

参加者たちが訴えていたのは、戦地に動員された兵士たちの兵役期間を明確にすることでした。夫や子供たちが、”無期限”で戦地に派遣されているといいます。

(デモ参加者)
「前線で戦っている夫を2年近くも待っている。無事を願っているが夫の精神的・肉体的健康がギリギリの状態だ」

(デモ参加者)
「兵士たちはいまもざんごうの中で凍え、食べるものもなく治療も受けられていない。復員する権利を与えられるべきだ」

軍による強引な動員の指摘も

ウクライナでは軍事侵攻以降、総動員令が出され、18歳から60歳までの男性が徴兵の対象となっています。

しかし、ウクライナ軍の犠牲者が増える一方で、兵士の不足が深刻化しているといわれています。

こうしたなか、軍による強引な動員が指摘されています。地元メディアが伝えたこちらの映像。男性が病院で健康診断を受けに来た際、軍の関係者に囲まれ、医師も見ているなかで、連れ出される様子だとしています。

(男性)
「自分から行きますので、1日だけ待って下さい」

(兵士)
「それはできない。一緒に来い」

映像は男性の弁護士がSNSに投稿し、治安当局が捜査に乗り出したと報じられています。さらに別のメディアは、道を歩いていた男性が、車に押し込まれ、連行されたとする様子を伝えました。

こうした軍の行為は特に地方で深刻になっていると言われ、軍による兵士不足への“焦り”が出たものと受け止められています。

社会問題となる汚職

さらに、政府関係者が徴兵を逃れる人たちから賄賂を受け取る汚職も社会問題となっています。

ウクライナ政府は、徴兵の対象者をトラックの中に隠し、国外に逃しているグループを摘発。「徴兵事務所」の責任者が現金を受け取る見返りに、徴兵を免除したり、外国へ出国できるよう偽の文書を作成したりするケースが頻発しているといいます。

ことし8月にはすべての州の徴兵責任者が解任される事態となりました。

(ゼレンスキー大統領)
「(汚職の)捜査の対象になったトップには例外なく公正かつ全面的な責任を負わせる」

こうした汚職は、ゼレンスキー政権にとって大きな痛手となっているとみられています。ことし10月に発表された世論調査によると、ウクライナ政府の信頼度は、74%から39%に大きく低下。ゼレンスキー大統領に対する信頼度も91%でしたが76%に低下しました。

(市民)
「軍のためにお金を使え!」

今回の取材中にも、汚職をめぐり市民から政府に対する不満の声があがっていました。

(参加者)
「酷い汚職がある。国内外の敵と並行してたたかっていく。国内(ウクライナ)の敵にまず勝てなければ国外(ロシア)の敵に勝てない」

長期戦に伴って募る不満

(酒井キャスター)
侵攻から1年9か月が過ぎ、侵攻直後とは違う課題も出てきているんですね。

(油井キャスター)
侵攻直後、ウクライナは愛国心が高まり、国民は結束していました。

しかし、ここに来て、長期戦に伴う不満が表面化し始め、戒厳令が出されている戦時下にもかかわらず、異例の抗議デモが最近、行われるようになっているのです。

こうしたデモは今のところ自由に行われていて、力で抑えつけているロシアとは対応が異なっています。

ただ、ゼレンスキー政権はこうした国民の声に真摯に向き合わなければ、不満はさらに広がり、国民の結束が瓦解する事態となりかねません。

ゼレンスキー大統領は、汚職対策に取り組み、徴兵の期間についても期限を設ける考えを示すなど徴兵システムの見直しを進めていて、国民の不満が払拭できるか焦点の1つとなっています。

さらに、懸念されているのは、こうした国民の亀裂をロシアが利用し情報工作を仕掛けてくる事態です。

ウクライナ政府の高官もこの点を警戒していました。

(ダニロフ書記)
「我々は、社会の結束を必要としている、ロシア政府は、我々の国家を分断させようと必死に取り組んでいる」「ロシア政府は、ハイブリッド攻撃を仕掛けている、SNSを使って情報を発信し、ウクライナ国民の態度を変えようと躍起になっている、これは大きな問題だ」

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