つらいことがあっても乗り越えられる自信がついた

村上茉愛

体操

2019年6月、世界選手権代表の発表の場。
そこに体操女子のエース、村上茉愛の姿は壇上になかった。
村上は光り輝くステージに上がる代表選手たちを目の前にして、大粒の涙を流していた。

「腰の痛みよりも何よりも、壇上に上がる代表選手たちを見るのがつらかった」

23歳の村上は、2016年のリオデジャネイロオリンピックの体操女子団体で日本にとって過去最高の4位入賞に貢献。
翌年の世界選手権、種目別「ゆか」で金メダルを獲得すると、さらに次の年の世界選手権では、日本の女子選手として初めて個人総合で銀メダルを獲得、エースの座を確かなものとした。

しかし2019年はそれまでと一転、厳しい1年となった。
世界選手権の代表選考会となった5月のNHK杯の公式練習。
腰の痛みが村上を襲った。大会前に痛めていた腰の状態が悪化したのだ。
村上は棄権し、東京オリンピックの団体出場権がかかる世界選手権のメンバーから外れた。
代表発表の場で人目もはばからず涙を流す村上にオリンピックを含め、数々の国際大会をともに戦ってきた寺本明日香がステージを降りて抱き寄せた。

「“絶対に出場権を取ってくるから”と言ってくれた。うれしかった」

夏場、村上は練習への意欲を維持するのに苦労した。
目標を見失い、体操が面白くないと感じた。
それでも仲間との約束を思い出し、東京オリンピックを見据えて腰のリハビリと練習に励んだ。

10月の世界選手権。
エース不在の日本は、苦戦したもののなんとか出場権を獲得した。
寺本から届いた「出場権とれたよ」との連絡に熱いものがこみ上げた。
本番では、自分がチームを引っ張ってメダルを取ると誓った。

「これだけつらいことはもうないと思う。
つらいことがあっても乗り越えられる自信がついた」

オリンピックは延期になった。
しかし、思いは変わらない。

「スポーツ選手だけじゃなくて、日本中が東京オリンピックを楽しみにしている。
その方たちの期待に応えられるように頑張りたいし、目標にしている金メダルを獲得したい」

夢の舞台で持ち前の笑顔を見せることが出来るか、ひと回り成長した村上の新たな挑戦が始まった。

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