生きているすべてが、自分の力に変えられる

寺内健

飛び込み

日本の飛び込み界のレジェンド、寺内健(39)。夏のオリンピックで日本選手最多に並ぶ6大会目の出場を目前にしていたが、東京大会は1年の延期に。8月に40歳を迎えるベテランは、新たな1年を前向きに捉え、再出発を図っている。
寺内は、4月に練習拠点のプールが閉鎖されたため、現在は自宅のマンションで体幹などを鍛えるトレーニングを続けている。相棒は去年、飼い始めた1歳の猫、豆助だ。

トレーニング中でも豆助は、かまわずそばに。足にじゃれるなど離れようとしない。集中しての練習はままならない状況だが、寺内に焦りはない。

「東京オリンピックに向けて再出発することへの不安はなくて、むしろ今までとは違う自分が作り出せるんじゃないかと思っています」

こう思えるのは、紆余曲折を経てきた長年の経験があるからだ。
オリンピックは、高校1年生、15歳の時にアトランタ大会に初出場して、北京大会まで4大会連続で出場。その後は1度、現役を引退し、2年間のサラリーマン生活を送ったが、メダルへの夢を諦めきれずに30歳で異例の復帰を決断した。そしてリオデジャネイロ大会に出場。2019年の世界選手権では、新たに挑戦した2人が同時に演技するシンクロ種目で好成績を残し東京オリンピックの代表に内定した。

厳しい競技人生を歩んできたからこそ、今回の新型コロナウイルスによる試練も、決して無駄にはならないと信じている。

「オリンピックに一直線で努力することも大事だが、それでは練習ができなくなったとき、目標を見失いかけたりする。
そうではなく、“生きているすべてが、自分の力に変えられる”ということをかみしめながら続けると競技にも生きてくる」

寺内はいま、東京オリンピックへの挑戦をみずからの第3章と考えている。

「10代の頃は競技をするのがつらかった。ただ、ひたすらコーチに頂いたメニューをこなして戦う。その後、20代になってから、ようやくコーチの偉大さやその熱意を感じて支えてくれる人のために戦うようになった。そして、いまは自分のためのオリンピックだと気持ちは切り替わっている。 5回も出ていて、メダルというものがない。自分がどこまでちゃんと努力できていたのか、メダルって結局、取ってみないと価値は分からないし、取ったことがないから挑戦できる」

2021年の東京オリンピックの期間中には41歳を迎えるが、寺内に不安はない。

「41歳が苦しいと思うような状況だったら、40歳に向けてのオリンピック挑戦もなかった。
この1年、しっかり時間を使って自分は結果を目指す。
そして見ていただく方、応援して下さる方には、勇気をもらったと言ってもらえるような努力をする、それしかない」

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