人との戦いというよりは壁との戦い

森秋彩

スポーツクライミング #迷っているとき

盛岡市で行われたスポーツクライミングの「2種目による複合」初のワールドカップ。パリオリンピックと同じ形式で行われたこの大会で優勝を決めた森秋彩に喜びの表情はなかった。

完登できなかった壁を最後まで悔しそうにじっと見つめていた。

「成績よりも登り切れなかったことがすごい悔しい。人との戦いというよりは、壁との戦いだといつも思っているので。でもこれで完登してしまったら満足してしまう部分もあると思うので、そう考えたら悔しい思いができて収穫があった」


あくまで冷静でストイックな19歳。2019年のワールドカップ以降、大学進学に向けた学業を優先させ国際大会には出場しなかった。

そして2022年、大学生になり3年ぶりに戻ってきたワールドカップの舞台で森は快進撃を見せる。

国際大会復帰初戦となった9月のリードのワールドカップでは、東京オリンピック金メダリストで「絶対女王」とも呼ばれるスロベニアのヤンヤ・ガンブレットを破り、ワールドカップ初優勝。その勢いは止まらず、1週間後には再びガンブレットを破って、2戦連続でワールドカップを制した。躍進の背景には、世界大会を離れていた間の心境の変化があったという。

「前はプレッシャーに感じてガチガチになっていたけど、しばらく大会をお休みして、プレッシャーを楽しめるというか、期待してくれて光栄だなと感じて登れるようになった」

パリオリンピックでスポーツクライミングの複合種目は制限時間内に「課題」と呼ばれるコースをいくつ登ったかを競う「ボルダリング」と登った高さを競う「リード」の2種目で行われる。その試金石となった2種目による複合のワールドカップでも、森は世界のライバルたちを圧倒した。

予選と準決勝では、得意の「リード」で完登し、いずれもトップの得点をマーク。決勝では、ボルダリングで4つの課題すべてを登り切って2位につけると、得意のリードでは完登は逃したものの誰よりも高く登り逆転優勝。パリオリンピックを占う大会で2位に大差をつけて頂点に立った。

それでも森は、まだ成長の余地があると感じている。

「ボルダリングをメインに活躍している選手を見ると、全身のパワーやパワフルさ、ジャンプ力で実力の差があると感じる。下半身の筋力トレーニングなど、これまで以上に苦手を克服する方法に力を入れていきたい」


常に課題や改善点を冷静に分析する森だが、自身の強みについて聞かれたときはその答えが少しだけ熱を帯びた。

「一番はクライミングが大好きっていうこと。クライミングを誰よりも楽しんでいるというか、愛しているというか、そういう気持ちは誰にも負けない」

オリンピックも楽しむ気持ちの延長線上にあるという。

「クライミングを楽しみながら、その中の1つのイベントとして捉えている。オリンピックだけにフォーカスはせず、努力をしていきたい」

冷静に自分と向き合い、あくなき情熱で壁に挑む。底知れないポテンシャルを秘めた19歳がどこまでの高みを目指して登っていくのか目が離せない。

スポーツクライミング #迷っているとき