世界中の女性に限界は超えられることを証明したかった

谷愛凌

スキーフリースタイル

北京オリンピックの新種目スキーフリースタイルの女子ビッグエアで初代金メダリストとなった中国の18歳、谷愛凌。
アメリカで生まれ育った彼女は広く“アイリーン”の名で知られている。

中国とアメリカというふたつのルーツを持つ彼女は、世界最高峰の舞台を前にそのルーツに関するセンシティブな質問を受け続けてきた。
それでも、みずから選んだのは地元・中国代表としてオリンピックに臨むことだった。

2022年2月8日。谷は期待と注目、かつてない重圧とともに最初の種目女子ビッグエアの決勝の舞台に立った。
2回目を終え3位。最後のランを前に自らに問いかけた。

「世界中の人々が見てくれていて、冬のオリンピックの舞台は私自身を表現するのまたとない機会。そんな舞台で私は何がしたいのか」

金メダルに必要なのは彼女が一度も跳んだことのない大技だった。
スタート前、何度も体をひねり、技のイメージを確認する姿に迷いはみえなかった。

巨大なジャンプ台を踏み切り、空を舞うように横に4回転半、この日最高難度の大技「1620」を繰り出した。

着地が決まった瞬間、声を上げて何度も頭を抱えた。
得点が表示されると、ひざから崩れ落ち口を覆って天を見上げた。

この日の最高得点だった。
オリンピックの大舞台で、跳んだことのない大技に挑戦。それを決めて逆転でつかんだ金メダルだった。

「今までで一度も成功したことがないし、やろうとも思わなかった技。自分自身でも信じられないし、人生の中で一番最高で幸せな瞬間だった」

そして続けた。

「『自分の限界を超えろ』。私自身、そして、私が何よりも大切だと思っているこのメッセージを表現する最高の舞台だった。私がここにいるのは、ライバルを倒すためでも他の誰かよりうまく滑るためでもない。過去の自分を超えたいだけ。世界中の女性に限界は超えられるって証明したかった。『アイリーンができるんだから、自分もできる』って」

今大会、大きな注目を集めた谷愛凌。
どんな質問にも笑顔で答えた彼女の思いが世界に伝わった最高の挑戦だった。

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