積極的に行って失敗したら何かが見える。失敗なくして成長はない

矢野燿大

野球

2021年10月26日、甲子園球場で行われたリーグ最終戦。矢野燿大監督率いる阪神は、終盤戦で引き分けを挟んで4連勝など逆転優勝を最後まで諦めなかったが、16年ぶりのリーグ優勝には届かなかった。
試合後、コーチや選手たちとグラウンドに並んだ矢野。感謝の言葉とともに、さらに強いチームになることを誓った。

「僕たちが目指しているところはここではありません。今日のこの最後の試合、こういう試合に勝ちきれる、もっともっと良いチームにもっともっと強いチームになっていけるよう、新たなスタートとしてこの悔しさを持って、戦っていきます」

矢野は、3年前、最下位に沈んだチームの再建を託されて就任した。
掲げたのは「勝利と育成の両立」。勝利を追い求めるだけでは選手が大きく育たないと考えたからだ。
「監督というよりも先生っぽい」とみずからの指導法を語る矢野。技術以上にプロ選手としての心構えを選手に伝えてきた。

監督3年目の2021年。首位から陥落した9月下旬に開いたミーティングで矢野はホワイトボードを用意。「正念場」と書き、教師さながらげきを飛ばした。

「初心に戻って出直すのが正念場だと思う。俺たちは挑戦してこそ勝ちに結びつくチーム。失うものは何もない」

矢野はミーティングでも伝えた「挑戦する姿勢」こそが、選手たちの成長に最も大切なことだと考えてきた。
さらに挑戦したうえでのミスはとがめないことで選手の背中を押してきた。

「『失敗を恐れるな』と選手には常々言っている。積極的に行って失敗したら何かが見える。失敗なくして成長はないし、どんどんしていかないと、そのあとの大きな成長は見込めないと思う」

挑戦する姿勢はチームに浸透した。中でも盗塁の数は3年連続でリーグトップ。隙あらば次の塁を狙う走塁が徹底され、少ないチャンスでも得点を奪ってきた。

「自分たちの野球がどうかとか、心のあり方をチーム全体で共有してやってこれたので、選手たちが何が大事かを理解してくれた。うちのチームではチャレンジすることが当たり前になっている」

一方で、2021年は勝利と育成を両立する難しさに直面したシーズンにもなった。「大きく育てたい」と開幕から起用し続けてきたルーキーの佐藤輝明。24本のホームランを打ち、球団の新人最多記録を塗り替えた。
しかし、後半戦は極度の不振に陥り、プロ野球の野手では最長となる59打席ノーヒットも記録した。チームがしれつな優勝争いを繰り広げる中、矢野は先発から外す決断せざるをえなかった。

「将来的にチームの中心になっていく素材だということは もちろんわかっているから使いたいけど、俺はチームを勝たせないといけない。ここに来てはチームをどう勝たせるかが一番大事」

勝利と育成のはざまで葛藤を続けた矢野。チームは3年連続で3位以上の成績を残し着実に成長を遂げているが、ことしも優勝はできなかった。

「選手にかけることばなど、何かできることはあったんじゃないかとすごく思うし、だからこそすごく悔しい」

矢野にとって、2022年は勝負の4年目。
選手の成長を後押しすることこそが悲願のリーグ優勝につながると考えている。

「失敗しても選手たちがどれだけチャレンジできるか。そこで僕たちがどれだけ背中を押せるかが選手の成長につながる。僕自身の成長も必要になる。全員でマイナスの部分をプラスに、プラスの部分をさらにプラスにできるようにがんばっていきたい」

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