みんなの思いを抱えて登れるくらい、強くなりたい

楢崎智亜

スポーツクライミング

東京オリンピックの新競技、スポーツクライミングで、初代金メダリストに最も近い男と目されていた楢崎智亜は、4位に終わった。
大会閉幕からおよそ2週間後、楢崎は子ども向けのオンラインイベントに参加。「みんなに伝えたいことがあります」とみずからら切り出した。

「僕は、目指していた金メダルを取ることはできなかったんですけど、そこですべて終わってしまうわけではなくて、次に向かって動き出すことが大事だと思っています。みんなも目標に失敗したとしても、終わりではなくて、次に向けて動いていってほしいと思います」

そして、3年後のパリオリンピックへの意気込みを宣言した。

「期待や応援といったみんなの思いを抱えて登れるくらい、強くなりたい」

楢崎は2019年の世界選手権で複合とボルダリングを制覇し、東京オリンピック金メダルの最有力候補に躍り出た。東京大会の1年延期にも「またさらに強くなれる」と前向きだった。

そんな日本のエースに対し、日に日に高まる周囲からの期待。楢崎は「オリンピックで活躍することが僕の使命」と自信満々でオリンピックに挑んだ。

スピード、ボルダリング、リードの3種目の総合成績で争われた男子複合決勝。楢崎は1位を狙ったスピードでスタート直後に足を滑らせて失速。実戦では見せたことのないミスだった。

世界チャンピオンを2回経験したボルダリングでも躍動感のある登りは影を潜めた。
結果は4位。取材エリアに現れ楢崎は、敗因について突っ込む質問にもふだんと同様に落ち着いた口調で答えた。

「4年に1回という少ないチャンスで力を出し切る難しさを感じた。自分でも今までの大会の成績から確実にいけると思っていたので、少し慢心もあったかな」

ほかの大会とは全く異なった、オリンピック特有の雰囲気、注目度、応援。初挑戦の今回は、それらが重圧となり押しつぶされてしまった。

だからといって、はねのけるようにするのではなく、しっかりと受け止めることが、本番で力を発揮するのに必要なことではないか。大舞台での失敗から、自問自答の時間を経て、自分なりにたどりついた答え。それが「みんなの思いを抱えて登れるくらい、強くなりたい」という新たな決意だった。

「自分が成長したり目標に向かって進んだりする中では、たくさんの人と関わる機会が増えていく。その期待や応援をすべて一緒に戦うことが強さなんじゃないかとオリンピックを経て考え方が変わってきた。プレッシャーも大きくなるが、そのうえで自分らしさを発揮できる選手こそ、強い選手、強い人間だと思う」

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