夢が目標になり、そして現実になった

橋本大輝

体操

「夢のまた夢だよな」

5年前のリオデジャネイロオリンピックの男子団体決勝。日本が金メダルを獲得した瞬間を中学3年生の橋本大輝は、テレビで見ていた。キラキラした夢の舞台は、遠くの世界の出来事だった。

高校に入学すると、一から体操と向き合って瞬く間に実力を伸ばした。
小さい頃に培った長い手足を生かした美しい体操に加えて、難しい技にも精力的にチャレンジし、少しずつ結果も伴うようになっていった。
そして、高校2年生。練習場で日本体操協会の水鳥寿思男子強化本部長と出会いその年の目標を問われた。橋本は高校生の大会で優勝することと話すと、水鳥強化本部長からこう返された。

「そうじゃない、世界選手権の代表を目指しなさい」

驚いた。日々の練習の積み重ねの道の先に世界の舞台があると思っていなかった。

「僕も日本代表を目指していいんだ」

水鳥の言葉をきっかけに成長のスピードも加速した。

2019年、高校3年生の時には全日本選手権で上位に進出。世界選手権代表をつかみとり、“夢のまた夢”だったはずの東京オリンピック出場が現実味を帯びた。
コロナ禍で東京オリンピックが1年延期になると、類い希な空中感覚と圧倒的な練習量でひたすらに成長を目指した。
ゆかでG難度の「リ・ジョンソン」、跳馬は世界最高難度の「ヨネクラ」、鉄棒で、G難度の「カッシーナ」。大学入学後には難しい技を次々と習得。6種目の演技の難度は、世界でもトップクラスになった。

「日本代表は、1番になって勝ち取る」

4月の全日本選手権の決勝で4種目で15点台をマークする演技で優勝。勝負のNHK杯。4種目め、得意の跳馬は「ヨネクラ」。
しかし跳躍の最中。

「無理だ」

1秒にも満たない間にひねりの回数を減らした技に切り替えた。

瞬時に技を変更する驚異的な力で着地をまとめ、15点台の高得点をマーク。代表争いの重圧の中、王者の雰囲気さえも感じさせる演技を見せて優勝。
5年前はテレビでオリンピックを眺めているだけだった少年は、19歳になり、みずからの将来を変えた。

「夢が目標になり、そして現実になった」

もう夢ではない大舞台。目の前には、さらに大きな目標を見据える。

「目標は、団体でも個人でも金メダルを取ること。体操のエースといったら橋本大輝と言われるように東京オリンピックで最高の演技を見せたい」

あどけなさも残る大学2年生。「夢のまた夢」を乗り越えてさらに大きな“夢の先”へ歩みを進める。

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