キャプテンの姫野和樹選手が「死闘」と表現した大一番。
フィジカルが強いアルゼンチンに、どこまで対抗できるかが焦点になりましたが、結果的にディフェンス面で持ちこたえることができませんでした。
ラグビー“日本代表の現在地” あと一歩及ばず【解説】
「道半ばで」
ラグビーワールドカップフランス大会、日本は1次リーグの最終戦でアルゼンチンに敗れ、2大会連続の決勝トーナメント進出を逃しました。強豪を相手に善戦したものの、勝利まではあと一歩及ばず。この試合展開は、日本ラグビーの現在地を示すものとなりました。
(スポーツニュース部 記者 小林達記)
記事後半では元日本代表で歴代最多キャップの大野均さんに、試合のポイントや、今後の日本代表への課題などの解説を聞いています。
【詳しくはこちら】日本 2大会連続の決勝トーナメント進出ならず
ディフェンスでこらえきれなかった日本
【ぶつかった後に“前に進まれた距離”】
▽アルゼンチン:209メートル
▽日本:346メートル
日本が必死のディフェンスで食らいつきながら、アルゼンチンに前進を許していたことがデータで明らかになりました。
【日本代表 先発メンバーのタックルミス】
▽フォワード:8回
▽バックス :16回
バックス陣のタックルミスも目立ち、相手の先制トライもバックスのタックルミスが直結しました。
スタンドオフ 松田力也選手
「相手のいいランナーを止めきれなかった。1個のタックルミスが得点につながることを身にしみて感じた」
また、密集でのボール争奪戦でも相手の圧力に負けるシーンが目立ち、日本が得意とする密集からの素早い球出しをスローダウンさせられる場面がありました。
スクラムハーフ 齋藤直人選手
「密集で強みを出せない部分があった」
リーチ マイケル選手
「アルゼンチンはフィジカルが本当に強かった。そこの差はある」
「ラインアウトモール」「ハイボール」にもフィジカルの差
「フィジカルの差」は、警戒していたラインアウトからのモールや、ハイボールの処理にも表れていました。
アルゼンチンは、中盤からでもモールを組んで押し込み、そこから走力のあるランナーにボールを持たせて展開する攻撃を繰り返してきました。
リーチ選手は「予想どおりだった」と話しましたが、想定していても対応できない場面がありました。
また、高く蹴り上げるハイパントを随所に使ってくることも想定どおりでしたが、日本はこうした場面でも空中での競り合いに負けてボールを確保できないシーンが目立ちました。
逆に、7対7で迎えた前半28分には、日本が自陣から蹴ったハイボールを相手にキャッチされ、そこから一気に攻め込まれてトライを奪われました。
日本がやりたかった形を、相手にやられた印象的なシーンでした。
試合前、ラグビーのデータ会社のAIによる勝敗予想で日本が勝つ確率は17.6%。日本の選手たちは下馬評を覆す覚悟でこの試合に臨みましたが、アルゼンチンの圧倒的なフィジカルの強さに屈した形となりました。
敗戦の中にも光“初出場組の活躍”
一方、敗戦の中にも日本代表の今後につながる光もありました。
ワールドカップ初出場組の活躍です。
スクラムハーフの齋藤直人選手は、流大選手のけがでサモア戦から2試合連続で先発出場。素早いパスさばきでトライを演出し、得意のサポートでみずからトライも決めました。
さらに、この試合初出場、初先発となった24歳のシオサイア・フィフィタ選手は、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの期待に応える鋭い突破を見せました。
ワールドカップ直前にけがから復帰したロックのアマト・ファカタヴァ選手は、世界トップクラスの突破力と個人技で今大会3つめのトライを奪いました。
ファカタヴァ選手
「自分のベストを尽くしてチームに貢献できたと思う」
齋藤直人選手
「4年後を狙える世代が、次に経験を伝えていかないといけない。その部分をしっかり担いたい」
日本の現在地が明らかに
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチが「すべてを出し切ってくれた」と話したように、日本は持てる力を出し切り、敗れました。
キャプテンの姫野和樹選手も「アルゼンチンが僕たちを上回った」と潔く敗戦を認めました。
“強くはなったがベスト8には あと一歩届かない”
これが日本の現在地です。
今後、日本に求められるのは強豪に勝ちきる力。
去年はフランスやニュージーランド、ワールドカップではイングランドやアルゼンチンといった強豪と対戦し、試合途中までは互角に戦いながらも、終盤、勝ちきれない展開が続いています。
リーチ マイケル選手は現状を冷静に分析しました。
リーチ マイケル選手
「日本は60分までいい試合ができる力はあるが、最後の20分をどうコントロールするかが壁になっている」
大会後、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは退任し、今後のかじ取りは現在選考が進んでいる次期ヘッドコーチに託されます。
今大会で課題となった選手個々のフィジカルはもちろん、選手層、ゲームコントロールの源となる経験値など、勝ちきる力をつけるための課題は山積しています。
ワールドカップをエベレストの登頂に例えてきた日本の戦いは、いったん終わります。
姫野選手は「日本ラグビーはまだまだ強くなれる」と、悔しさのなかで前を向きました。
「ナイスゲーム」「ドロップゴール」などSNSトレンドに
【詳しいデータはこちら】日本×アルゼンチン
【動画】全48試合ハイライト
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《【解説】元日本代表 大野均さん 大会の課題と今後は》
NHKで試合の解説を務める、元日本代表で歴代最多キャップを持つ大野均さんに、今大会の収穫や課題、そして今後の日本代表について聞きました。
大野均さん(福島県出身・45歳)
酪農業の家庭で労働しながら育った屈強な肉体で動き回り、熱く、激しくプレーする。高校までは野球で、日本大工学部の機械工学科に入学後、ラグビー部の先輩に勧誘されて練習を見学。国体を目指す福島選抜に入ったことで縁がつながり、東芝の練習に参加したことから、本格的に日本代表への道が開けた。現役時代はロックとして、日本代表歴代最多となる「98」キャップ。
<経歴>
清陵情報高校(福島)→日本大工学部→東芝
<日本代表歴>
▽キャップ:98(日本代表 歴代最多)
▽2007年、2011年、2015年とワールドカップ3大会連続出場
Q.試合を振り返っての感想は?
元日本代表 大野均さん
「日本も十分に素晴らしいパフォーマンスを見せてくれましたが、トライを取りきる嗅覚や一瞬のスピード、フィジカル。その部分でアルゼンチンが一枚上手だった」
Q.セットプレーなど互角以上のものもあったが?
「前半のスクラムであったり、ラインアウトからのラックだったり、日本は互角に渡り合ったが、スクラムを80分通してできなかったのは悔しいと思う」
Q.日本はスクラムの1列目のメンバーを早めに交代した。層の厚さに課題はあるか?
「誰が出ても変わらないスクラムを80分組める。そのレベルにならないと世界の強豪に勝つ、ベスト8になるのは難しいと感じた」
Q.またしても後半に得点を奪われる展開になったが?
「今大会を通して、イングランド戦もサモア戦もそうだったが、残り20分の戦い方ですね。突き放されたり、追い上げられたりしたので、今後の4年間はラスト20分の戦い方を意識してトレーニングを積むことが必要になると思う」
Q.ラスト20分で負けないためには何が求められるか?
「1人ひとりのレベルアップも必要ですけど、チームとしてどう戦っていくか。やっぱり残り20分は非常に苦しい時間帯になるが、そこで選手全員がどういうメンタルを持つのか。そこをもう一度、チームとしてしっかりと共有するのが大事」
Q.接点の課題については?
「ラグビーはコンタクトスポーツ。接点から逃れることはできないので、そこを強化するのは大事ですし、チームとして、1人ひとりの強化はもちろん必要ですけど、チームとして80分を通じて接点を克服していく。そういう部分が大事」
Q.ハイボールへの対応が課題となったが?
「(ハイパントを蹴る)キッカーの精度。キャッチする選手の精度。ディフェンスに関してはいかに相手にクリーンキャッチさせないか。そこを高めていく必要があると感じました。(身長の差を埋めるには)キャッチングスキルですよね。1人で競りにいくのではなく、周りのメンバー仲間と連動して、ハイボールに対して対応する。ハイボールをクリーンキャッチされてもその選手をしっかり止める選手の配置などその戦略を準備するのも大事になる」
Q.日本にとって、このフランス大会は?
「惜しくも決勝トーナメントに行けず2勝2敗という結果だったが、敗れたイングランド、アルゼンチンに対しても、最後まで追い詰めましたよね。勝てるのではないかという期待感を抱かせてくれた。その試合のあと選手たちはしっかり悔しい思いを感じることができたのは、今後の日本代表の強化に向けて大きなことだったと思う。きょうの試合を見ていた日本の子どもたちは本当にいいものを感じたと思う。そういう意味ではこの試合、このワールドカップは日本のラグビーにとって重要な意味を持つ」
Q.若い選手は今後の日本代表を引っ張っていくことになる?
「ワールドカップで優勝する。それを現実のものとしてとらえて、トレーニングを積み重ねて欲しい。私が現役の時、日本代表の時は、優勝ということばを口にすると笑われるくらいの雰囲気ではあった。今の選手たち、特に若い選手たちにはそれを常に口に出し続けて、日本代表が優勝するとイメージし続けてトレーニングして欲しい」
Q.ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの功績は?
「とてつもなく大きいものを残してくれた。前任のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチから代わってプレッシャーもあったと思うがプレッシャーをはねのけて、それ以上の結果を残して、フランス大会でも本当に優勝というものを現実のものと感じることができるチームを作ってくれた。日本ラグビーに大きなものを残してくれた。後任には、優勝を現実のものにできる方に務めてもらいたい」
Q.次の4年間に向け、一人一人の能力を高めるためには?
元日本代表 大野均さん
「コンスタントに国際レベルで、レベルの高い試合を経験していくことは大事だ。2019年大会に向けてはサンウルブズがあった。スーパーラグビーに参加してテストマッチに近い強度の試合を選手たちが経験してきたことがベスト8に進んだ大きな要因になった。今回、この4年間はコロナ禍があったので、その部分で強化が難しかったかと思う。レベルの高いテストマッチを組める環境に進むのが1つ手だと思う。日本はハイパフォーマンスユニオンにも選ばれたので、この4年間はまた違った強化が経験できるのではないか」