コメディアンから「戦時下の大統領」に

ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナ東部ドニプロペトロウシク州出身の45歳。大学で法学の学位を取得したあとは、仲間らとともに芸能活動に従事し、俳優やコメディアンとして活動しました。とくに熱血漢の大統領が政治改革を次々と断行するテレビドラマで主役を演じて人気を博しました。政治経験はありませんでしたが、2014年にウクライナ南部のクリミアがロシアに一方的に併合され、東部ドンバス地域でも政府軍と親ロシア派の武装勢力との戦闘が続くなか、2019年に行われた大統領選挙に立候補すると、経済の低迷や政治家の汚職に対する国民の不満を背景に支持を広げ、初当選しました。

【就任直後は支持率低下も】
大統領就任後は、ヨーロッパとの統合路線を訴える一方で、ロシアに対しては対話を重視する姿勢も示しました。しかしロシアが親ロシア派を支援し東部の住民にパスポートを発給するなどゼレンスキー政権に圧力をかけ続ける中で弱腰だとの批判を受けたほか、低迷する経済の立て直しに向けた政治手腕を不安視する声も強まり支持率は低下していきました。
【侵攻後は徹底抗戦呼びかけ】

2022年2月24日にロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まると国外に避難したのではとの憶測も広がりましたが、その後、首都キーウで側近らとともに自撮りした動画をSNSに投稿し、「われわれはここにいる。国を守る」などと強調して国民に徹底抗戦を呼びかけ、「戦時下の大統領」となりました。軍事侵攻が長期化する中、ウクライナの国章をあしらった服などに身を包み、連日、SNSの動画で国民に直接語りかけることで結束を訴え続けています。また、去年11月、侵攻当初から占領されていた南部の戦略拠点ヘルソンをウクライナ軍が奪還すると直後にみずから現地を訪れ、領土の奪還をさらに進める姿勢を示したほか、12月には東部ドネツク州の激戦地バフムトを電撃訪問し、長期にわたって徹底抗戦する兵士を鼓舞しました。
【各国に支援を呼びかけ】
各国のウクライナに対するいわゆる「支援疲れ」も懸念される中、12月下旬には軍事侵攻が始まって以来、初めてウクライナを出て最大の支援国アメリカを訪問し、バイデン大統領との首脳会談で新たな軍事支援を取りつけました。

その後の連邦議会での演説では、みずから訪れた前線の兵士から託されたというウクライナの国旗を当時のペロシ下院議長に手渡しながら議員らを前に継続的な支援に理解を求めました。ウクライナを訪問した各国の首脳らとも相次いで会談して支援を訴え、2023年3月には5月のG7広島サミットを前に首都キーウを訪れた岸田総理大臣とも会談しました。

ゼレンスキー政権の幹部にはイエルマク大統領府長官など芸能活動をしていたころから親交がある人もいて、異色のメンバーがゼレンスキー大統領を支える形になっています。軍事侵攻後、ともに国際社会に支援を訴えてきた妻のオレーナ氏との間に娘1人と息子1人がいます。