NEW2023年11月13日

IPEFってなに?暮らしへの影響は?

11月13日からアメリカで、日本も参加する「IPEF」の閣僚会合が開かれます。交渉は実質妥結に向けて大詰めとされていますが、「IPEF」って、そもそも何なのか、交渉がまとまると、私たちの暮らしにどんな影響があるのか。経済部の保井美聡記者が解説します。

そもそもIPEFって、なんですか?

IPEFは、「Indo-Pacific Economic Framework」の頭文字をつなげたものです。

日本語に訳すと「インド太平洋経済枠組み」です。

アメリカのバイデン大統領が提唱し、2022年5月に交渉開始が発表されました。

▽アメリカ、▽日本に加え、▽オーストラリア、▽ニュージーランド、▽韓国、▽インド、▽フィジー、▽ブルネイ、▽インドネシア、▽マレーシア、▽シンガポール、▽タイ、▽フィリピン、▽ベトナムの14か国が参加しています。

世界のGDPのおよそ4割を占める枠組みで、経済連携の強化を目指しています。

保井記者
保井記者

参加する国は分かりましたが、「連携強化」と言っても、分かったような分からないような気がします。

どういう狙いがあるんですか?

この枠組み、インド太平洋地域で影響力を増す中国に対抗することを念頭に、アメリカ主導で経済連携を強化していこう、というのが大きな狙いです。

このため、参加国に中国は含まれません。

一方で「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国などのリーダー格のインドが参加しているのが、大きな特徴です。

この地域では、ほかにも日本が参加する「TPP」や「RCEP」という経済連携の枠組みがありますが、いずれもアメリカは参加していません。

このうちTPPは、もともとアメリカが中心になって進められてきましたが、2017年、当時のトランプ大統領が「アメリカの雇用を奪う」などとして離脱を表明しました。

ただ、経済的にも安全保障上でも中国が台頭する中で、アメリカとしては、経済成長が続くインド太平洋地域への影響力は維持する必要があります。

このため、国内の労働者に不人気な市場開放を伴わない、アメリカ主導の新たな枠組み「IPEF」を立ち上げた、というわけです。

一方、参加する新興国としては、IPEFの枠組みを通じ、アメリカとの関係を強化することで、貿易の拡大につなげたい、という狙いがあるものとみられます。

保井記者
保井記者

交渉開始から1年あまりたっていますが、具体的には、どんな交渉が行われているんですか?

4つの分野で協力を目指して、話し合いが続けられています。

「貿易」「サプライチェーン」「クリーン経済」「公正な経済」の4分野です。

このうち「サプライチェーン」の分野は、2023年5月に実質妥結しています。

感染症や紛争などで、半導体や鉱物などの重要な物資の供給が途絶えた際には、参加国どうしで物資を融通しあう、といったことが、その内容です。

残る3分野のうち
▽「貿易」の分野では、税関に提出する書類のペーパーレス化やデータ流通のルール作り
▽「クリーン経済」の分野では、電気自動車などの導入目標や化石燃料に対する補助金の段階的な廃止
▽「公正な経済」の分野では、汚職防止や課税の適正化
などについて交渉が続けられています。

7回にわたる首席交渉官の会合などで、意見の隔たりが小さい項目を優先して交渉が進められてきていて、13日から始まる閣僚級の会合では、3分野すべてでの「実質妥結」を目指しています。

保井記者
保井記者

交渉がまとまると、私たちの暮らしにどんな影響があるのでしょうか?

関税の引き下げや撤廃などは、交渉の対象とされていないため、TPPなどに比べると、私たちの暮らしに直接、反映するようなメリットやデメリットは、すぐには感じにくいかもしれません。

どちらかと言うと、参加国同士の結束強化、アメリカとの関係強化、という点に重きが置かれている印象です。

このため、アメリカや日本は、今回の閣僚級の会合やそのあとの首脳会合を通じて、新興国の脱炭素に向けた取り組みを支援する基金の設立や、重要鉱物のサプライチェーンの強化に向けた定期会合の立ち上げなどを打ち出す方針で、あの手この手で、IPEFの求心力を保とうとしている姿勢が伺えます。

これまで日本は、自由貿易体制のもと、経済成長を続けてきました。

ただ、米中の対立やロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫化など、日本を取り巻く環境は、大きく変わりつつあります。

そうした中で、日本としては、市場開放のレベルの高いTPP、中国も参加するRCEP、そしてアメリカ主導のIPEFと、それぞれの経済連携の特徴を生かしながら、今後の経済成長につなげていきたい考えです。

保井記者
保井記者