“ビジネスケアラー”どう支援する?
ビジネスケアラーということばを耳にしたことはありますか?働きながら親などの介護をする人を指すことばで、日本が本格的な高齢化社会を迎える中で今後、増えていくことが見込まれています。仕事と介護の両立の難しさに直面する人も多く、いかにサポートしていくかは待ったなしの課題です。経済部の岩間宏毅デスクが解説します。
私の親も高齢になってきているので、ひと事とは思えません。
そうですよね。日本では高齢化に伴って、家族を介護する人は2030年には833万人にのぼると推計されていますが、働きながら介護を行うビジネスケアラーの数も318万人と4割を占めるとみられています。
とくに45歳以降になると、親の介護を担う人が急激に増えるとされています。
企業で言えば、管理職など働き盛りの年代がこうした課題に直面すると見込まれています。
仕事と介護の両立に頭を悩ませる人も多いのでは?
そのとおりです。この問題、個々の人たちが大変なだけにとどまらず、経済的な観点でみても大きな影響を及ぼすとみられています。
介護の負担の重さから仕事に専念できず、仕事の効率が落ちる人も少なくありません。
経済産業省によりますと、仕事をしながら家族などの介護をする人の労働生産性は、介護をしていない人と比べて、3割ほど低くなると推計されています。
そうしたことから推計した経済的な損失は、2030年にはおよそ7兆9000億円にのぼるとみられています。
介護離職に伴って失われる労働の損失額1兆円余りなどとあわせると、経済的な損失は9兆円を超えるとみられているんです。
企業経営への影響という意味でも、この問題への対応が待ったなしの課題だとわかります。
切実な問題ですね。
働く人たちからはどんな声が上がっていますか?
経済産業省の委託を受けて日本総研がまとめた調査の例をいくつか挙げますと、「睡眠不足で仕事に行くようになり、ミスも増えた」、「部下や上司に負担をかけて申し訳ないという気持ちが精神的な負担になっている」といった声が上がっています。
また、「残業ができないと会社に言えば、違う部署に異動になる可能性がある」として、介護に関する支援制度があっても利用できないといった声もあります。
介護の負担の重さに苦しむだけでなく、自身のキャリアへの不安も抱えていることが伺えます。
このため、経済産業省ではビジネスケアラーが仕事と介護の両立をしやすくするために企業が取り組むべき支援策を指針として取りまとめる方針で、有識者や経営者でつくる検討会を設けて議論を進めています。
そうした人たちが仕事と介護を両立するためにはどんな支援が必要?
支援を有効なものにするためには上司や職場、さらにはトップも含めた会社としての理解と協力が欠かせません。
従業員の福利厚生というだけでなく、企業経営の視点からみても、支援は重要です。
従業員の能力を十分に引き出せなければ、企業にとってもマイナスですし、支援がうまく機能せずに介護離職につながれば、新たな人材の採用や育成でさらなるコストもかかります。
国の検討会のメンバーにもなっている専門家は、▽介護で支援を必要としている従業員がどれくらいいるか、会社が実態を把握することや、▽リモートワークなどの活用も含め、従業員のニーズに応じて柔軟な働き方を認めるといった対応が重要だとしています。
「介護の負担というのは人によって多様なうえ、負担が変化しやすく、どのような期間、どのような重さで負担がかかってくるかを予測しづらい。なので、今どういう支援が必要か、その時々のニーズにあわせて従業員と話し合ってすり合わせることが重要だ」
ビジネスケアラーへの支援、企業にとっては負担が増えるようにも見えますが?
仕事と介護の両立に向けた取り組みを単なる従業員の支援と捉えるのではなく、企業の成長につながる前向きな取り組みとして見ることが重要です。
専門家は「ビジネスケアラーが介護と仕事の両立を通じて得た新しい視点や生産性を高めるような意識をどう企業の成長に取り込んでいくかを考え、1つの競争戦略として取り組むことが必要だ」と指摘しています。
本格的な少子高齢化時代を迎える中で、働きながら介護をすることは多くの人にとって、避けられません。
こうした時代の変化を前提に企業も働き方などの制度設計を進めていくことが求められています。
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