カギは中国?エネルギー価格の見通しは

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をきっかけに高騰した原油や天然ガスなどのエネルギー価格。日本でもガソリン高や電気料金の値上げという形で家計や企業の重荷になっています。今後のエネルギー価格はどうなるのか?そして日本に必要な取り組みは?「世界10大リスク」で知られる調査会社「ユーラシア・グループ」でエネルギー分野を担当するヘニング・グロイシュタイン ディレクターに話を聞きました。

ずばり、ことしのエネルギー価格の見通しを教えてください。
ことしの原油価格は、年前半と後半とで大きな違いが出るとみています。年前半は、WTI先物価格でみて、1バレル=70~80ドル程度と、比較的穏やかに推移すると見込んでいます。最大の理由は中国です。

ゼロコロナ政策の影響に加えて不動産市場の混乱も続く中、中国経済の回復は遅れ、原油の需要も高まらないとみられるからです


年後半はどのような違いが予想されますか?
年後半には中国経済は回復してくるとみています。また、欧米や日本などの制裁の影響が続く中で、ロシアの原油生産量が落ちてくるとみています。これらが同時に起きれば、年後半の原油市場は非常に需給がタイトになってくる可能性があります。1バレル=90ドルを簡単に超え、100ドルに向かっていくリスクがあると思っています。


中国経済の回復ペースが大きく影響するんですね。
一方、天然ガスについては、去年みられたような極端な値上がりは想定していません。しかし、エネルギーの“脱ロシア依存”を進めるヨーロッパは、代替手段として引き続き世界の市場からガスを買う必要に迫られています。日本を含む各国との競争になりますから、どうしても価格は高止まりするでしょう。


去年ほどではないにせよ、高止まりが続くと。
はい。高止まりするエネルギー価格は世界的なインフレを招いていますが、解決にはまだ時間がかかるでしょう。最も厳しい影響が出るのは、日本のような豊かな国と違って、アジアなどの途上国です。ただ、中国経済の回復のスピードは実際どうなのか?アメリカは景気後退に陥るのか?ヨーロッパはどうか?アメリカについては深刻な景気後退にまで陥るとはみていませんが、2023年という年は、不幸にも多くの“不確実さ”を抱えている年でもあります。


ことし公表された「世界の10大リスク」では、「エネルギー危機」が第6位とされていますね。

エネルギー危機は、第1位の「ならず者国家ロシア」や、第4位の「インフレショック」などとも密接に関係しています。ヨーロッパ最大の経済大国ドイツは、今やほとんどロシア産の石油やガスを使っていません。ヨーロッパはロシア産のエネルギー依存から段階的に脱却できるでしょう。ただ、そのためのコストは高くつきます。ドイツはLNGを受け入れるための基地を作っていて、オランダやイタリアでも同じような動きが出ていますが、数多くのガスのインフラを設けねばなりません。再生可能エネルギーへの投資加速も必要で、それらは何年にもわたって膨大なコストがかかることを意味します。


膨大なコストですか。
つまり、天然ガスや原油の価格が下がったとしても、消費者の光熱費は下がらないのです。こうした現実は、ことしもエネルギーが重大なリスクであり続けると私たちが考える理由の1つです。


産油国と消費国との緊張の高まりも指摘されています。
アメリカや日本などは、去年、原油高を抑えるために備蓄の放出に踏み切りました。本来は供給の混乱に備えるものですが、価格に影響を及ぼすために行われたのです。サウジアラビアなどの産油国は、以前から“OPECが原油価格を操作している”などと非難されてきたわけですが、逆に“消費国側が備蓄放出で価格を操作しようとしているじゃないか”と言いたくなるわけです。産油国と消費国はきちんとした関係を保っているべきですが、現状はそうなっていません。欧米とロシアの関係はもちろんのこと、産油国と消費国の関係がここまで悪化していることも、エネルギー情勢を危機にさらしている背景になっています。


エネルギーの安定供給、エネルギー安全保障の重要性が叫ばれる中、日本はLNGなどの代替調達先の確保に動いています。
日本がエネルギー調達の多様化を図るのはエネルギー安全保障上、良い選択ですし、さらなる多様化は欠かせません。オーストラリアやマレーシア、カタールなどの国々からのLNG輸入に加えて、カナダやアフリカのモザンビークといったところからの輸入もありうるでしょう。


ほかに日本に求められることはあるでしょうか。
今のようなエネルギー高騰や供給リスクにさらされたときの最善策は、国内の生産能力や効率性を高めるための投資、そしてエネルギー消費の削減です。日本政府は洋上風力など再生可能エネルギーへの投資を打ち出し、原子力発電についても活用を増やす方向にかじを切っています。こうした政策の組み合わせで、エネルギーにかかるコストをコントロールしていく必要があります。こうした取り組みは簡単ではないし、多額のコストもかかります。その分、消費者にとっては、ことしや来年は光熱費の高い状態が続くでしょうが、数年後に利益を享受するためにも、今、求められていることなのだと思います。

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