NEW2023年01月19日

かつての輸出大国がなぜ過去最大の赤字に?

去年1年間の貿易統計で、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は19兆9713億円の赤字と、過去最大となりました。原油などエネルギー資源の価格高騰に加えて、外国為替市場で円安が急速に進んだことが輸入額の増加につながりました。かつては「輸出大国」として貿易黒字を積み上げていた日本。今回、貿易赤字が過去最大となった背景には何があったのか。そして今後の貿易収支はどうなるのか。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長に聞きました。

今回の貿易統計では、輸入額が118兆円あまりと、前年よりも39.2%増えましたがその理由は何でしょうか。

去年は輸入の量が増えていたわけではなく、価格が高騰したということに尽きる。

▽エネルギー価格の高騰と▽為替相場が円安に大きく振れたことが輸入額を押し上げた。

去年、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギーが供給されなくなるという心配が出てきたことで、エネルギー価格は高騰した。

2022年10月21日

また、為替相場では、アメリカが金利を引き上げたことで日米の金利差が開き、これまでにないスピードで円安が進み、その結果、円ベースでみた輸入価格の上昇につながった。

斎藤経済調査部長
斎藤経済調査部長

去年は輸出額も過去最大になりましたが、輸入額ほどは増えませんでした。円安は輸出に有利といわれるが、なぜそうなったのでしょうか。

輸出額を分析すると、円安によって円ベース(円換算)の輸出価格が上昇して金額は膨らんだが、実は輸出の量は増えていない。

中国 西安市 2022年1月

これは、中国がゼロコロナ政策をとったことで経済がかなり停滞し、輸出量で見た場合に中国向けが大きく落ちたことが要因だ。

日本は、中国向けの輸出が一番多いこともあって中国向けの落ち込みによる輸出全体への打撃が大きく輸出の量は伸びなかった。

斎藤経済調査部長
斎藤経済調査部長

貿易赤字になることで日本経済にどういう影響があるのでしょうか。

「貿易赤字=悪い」というふうに私は思わない。

例えば、国内の景気が非常に良くて、輸入の量を増やすことで貿易赤字になったけれど、国内の景気がよくなるという事例もある。

ただ、今の日本は、輸入価格が上がったことで、貿易赤字になっているので、量が増えているわけではない。

ある意味で「悪い貿易赤字」と言ってよいと思う。

価格が上がるということは、企業のコストの増加につながり、そのコストを販売価格に転嫁しようとして消費者物価が上がるため、国内の景気にとって厳しい状況だと認識している。

斎藤経済調査部長
斎藤経済調査部長

ことしも巨額の貿易赤字は解消されないのでしょうか。

為替は円高の方向に動き、原油価格もピークからかなり落ちてきているので、価格面で輸入額が増える要素はだいぶ落ちている。

そのため、大幅な貿易赤字は改善するとみているが、赤字の規模は年間で20兆円と非常に大きく、ここからいきなり黒字に転換するのは厳しい。

2年くらいは、赤字幅の縮小にとどまると考えている。

一方で、懸念しているのが輸出の動向だ。

アメリカとヨーロッパで政策金利をかなり引き上げているのでことしは欧米の景気が後退すると予想している。

中国向けの輸出は去年より少しは持ち直すとみられるが、輸出全体でみると、去年よりことしの方が厳しくなるのではないか。

斎藤経済調査部長
斎藤経済調査部長

こうした状況にどう対応していけばよいのでしょうか。

30年40年という長いスパンで見ると、輸出は構造として伸びにくくなっている。

かつての日本は製造業が非常に強かったが、経済が発展していくとやはり、サービス化が進んでいくのは、世界共通であり、製造業のウエイトはだんだん落ちていくものだ。

また、輸入という点でも、輸入価格を決めるのは世界全体の動きであり、日本の政策で、この価格を上げ下げすることはあまり期待できない。

むしろ、日本の景気を考えるなら、国内でできる需要喚起策など、そういった政策に重きを置くべきだ。

斎藤経済調査部長
斎藤経済調査部長