NEW2022年09月01日

【詳しく】新型コロナ 入院給付金見直しって?

医療保険の加入者が新型コロナに感染した場合に支払っている入院給付金について生命保険協会は、取り扱いのある39社すべてで今月26日から支払い対象を見直すと発表しました。その背景には何があるのか、経済部で金融業界を担当している加藤ニール記者が解説します。

※9月20日時点の情報をもとに記事を更新しました。

新型コロナに感染した場合、医療保険に加入していれば自宅やホテルで療養する患者でも入院給付金の支払いを受けることができるそうですね?

医療保険の入院給付金をめぐっては、新型コロナの感染拡大で医療現場がひっ迫し、患者が入院できないケースが相次いだことから保険各社では自宅やホテルなどで療養したいわゆる「みなし入院」の契約者にも特例で入院給付金の請求に応じてきました。

保険会社によって必要な書類は異なりますが、自宅などで療養した人が入院給付金を請求する場合は、患者自身がスマートフォンやパソコンで健康状態などを入力するシステム「My HER-SYS」で、保険会社から指定された画面をスマホなどで撮影するか、医療機関などで実施されたPCR検査や抗原検査の結果が分かる書類や、保健所とのやりとりが分かるメールなどを提出する必要があるということです。

医療機関や保健所が発行する「療養証明書」でも対応できますが、医療現場に負担がかからないよう代わりの書類でも受け付けています。

加藤記者
加藤記者

感染が拡大する中で「みなし入院」の患者も増えていますよね。

生命保険協会によりますと協会に加盟している42社がコロナ禍でことし7月末までに入院給付金を支払った件数は合わせて351万5966件でこのうち93%の329万2091件が「みなし入院」の契約者でした。

「見なし入院」の患者への支払い件数は、去年10月、11万件を超えましたがその後減少し、ことし1月には1万件程度まで減少しました。しかし、第6波の感染者の請求が増えたことし3月には、40万件に急増し、4月には52万件、5月には64万件、6月には70万件と増加を続けました。

これに伴って保険会社が支払う保険金の額も急増し、コロナ禍でことし7月末までに支払った「みなし入院」の契約者への支払いは、3046億6853万円にのぼりました。

支給額も、去年までは多い月でも100億円程度でしたが、ことし3月には、380億円に増加。4月は492億円、5月は577億円、6月には620億円と増え続けました。7月は395億円となっています。

保険各社はことしの春以降、給付金の支払い業務にあたる職員の数を大幅に増やして対応していますが、想定を上回る件数となったことでふだんよりも支払い手続きに時間がかかるケースが相次いでいるということです。

支払いが増加した要因は、感染者数の増加ですが、保険各社によりますと中には入院給付金の受け取りを目当てにした不適切な契約が疑われるケースも見られるということです。

例えば、発熱などの症状があったり、同居する家族などの感染がわかったりした後に、高額な保障を受けられる保険に加入し、PCR検査で陰性が確認されるとすぐに解約するといったケースなどが見られるということです。保険各社では短期間に高額な医療保険の加入や解約を繰り返すなど、本来の保険の主旨とはそぐわない契約が疑われる場合には、本人への確認作業を強化するなど、対応を取っています。

加藤記者
加藤記者

「みなし入院」の患者に対する支払いが急増しているということですが今回、保険各社は支払い対象を見直す理由についてどう説明しているのですか?

保険各社は政府が新型コロナ感染者の全数把握を見直すことに伴う対応だとしています。

9月1日に金融庁から業界団体に対して「みなし入院」による入院給付金の取り扱いについて、支払い対象も含めてできるだけ早く検討してほしいと要請があり、これを受けて保険各社は入院給付金の支払いの対象を見直すことにしています。

具体的には、今月26日以降に感染の診断を受けた65歳以上の高齢者や入院が必要な患者、妊婦、それに新型コロナの治療薬や酸素の投与が必要な患者など重症化リスクが高い人などに支払いを限定するとしています。

今回の保険業界の対応や課題について、保険業界に詳しい福岡大学の植村信保 教授に聞きました。

「保険会社が『みなし入院』でも給付金を払うと決めたときはまだ、コロナがどんな病気で、どれくらい深刻なのかが分からなかったため、こうした対応が社会にとって役立つと考えていたのだと思う。しかし、今は症状が重くなくても、陽性と判定されればそれだけで給付金がもらえてしまう状況で、給付金をもらうためにあえて保険に加入する人も出てきている。入院給付金の原資は契約者が払う保険料で、保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平な状況になっており、正常な状態に戻すという話だと捉えるべきだ」


「『みなし入院』ということで給付金を支払うことはイレギュラーな事態だが、それをやめるというのもやはりイレギュラーなことだ。このためどうしてこういう対応になるのかをしっかり説明しなければ契約者は納得できないし、見直しの移行期に関しては混乱をきたす可能性がある」

加藤記者
加藤記者

今回、対象が見直されれば、契約者が混乱することになりませんか?

保険会社はあらかじめ支払いの条件を明らかにしておくなど丁寧な説明が求められます。

生命保険協会の稲垣精二会長は、9月16日の会見で「契約者の立場からすると非常にわかりづらく、26日を境に変わることについて不安を抱くお客様もいらっしゃると思う。丁寧に説明させていただき、ご理解いただくことにしっかり努めていくことが重要だ」と述べています。

保険会社や契約の条件などによって対応が異なる可能性もあるので保険に加入している人は契約条件などを改めて確認することが必要になります。

ただ、感染が収束していない中ですので保健所や医療機関などに負担をかけることがないよう配慮していただきたいと思います。

加藤記者
加藤記者