NEW2022年08月30日

事項要求で膨らむ?防衛費 令和5年度予算案概算要求

来年度・令和5年度予算案の編成に向けて、各省庁が財務省に提出する概算要求は31日が締め切りとなります。総額が110兆円規模にのぼる見込みだという今回の概算要求、そのポイントは?財務省担当の白石明大記者に聞きます。

110兆円もの要求が出るということだけど、どんな政策が注目なんですか?

最大の焦点は、防衛費です。

ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、中国は台湾への軍事的圧力を強めています。そして北朝鮮は核・ミサイル開発を加速。このように日本の安全保障をめぐる環境は厳しさを増しています。

台湾沖周辺の海域で行われた中国の軍事演習(8月5日)

こうした中「防衛力を抜本的に強化するため、防衛費を大幅に積み増すべきだ」という意見が与党からも強く出ています。

政府はNATO=北大西洋条約機構の加盟国が、防衛費の目標をGDP=国内総生産の2%以上としていることも念頭におきながら防衛力を「5年以内」に抜本的に強化するとしています。

白石記者
白石記者

GDPの2%というと、どれくらいの額ですか?

日本の防衛費はこれまで1%程度に抑えられてきました。

国防にかかる費用の基準はNATOとは異なるところもあるのですが、仮に防衛費をNATO加盟国と同じようにGDPの2%の水準まで引き上げた場合、今の2倍、10兆円を超える規模となる見込みです。

増額分のおよそ5兆円というのがどのくらいかというと消費税で2%分に相当します。

「5年以内に抜本的に強化」ということですから、来年度の予算で一気に2倍にしようというわけではありません。ただ、政府の方針を踏まえ来年度に防衛費をどこまで増やすのかが焦点となります。

白石記者
白石記者

それでは今回、防衛省の概算要求の額はどのくらいになるのでしょうか?

防衛省が今回、概算要求で示す金額は、今年度の当初予算より2000億円程度多い過去最大の5兆5947億円にのぼっています。

ただ、これとは別に多くの事業が「事項要求」となっているのがこれまで見られなかった特徴なんです。

白石記者
白石記者

事項要求??聞き慣れないことばだけど、どういう意味ですか?

通常、概算要求では事業の内容と必要な金額をセットで要求します。

ただ、8月末の締め切り時点で金額を見積もるのが難しい場合などには、例外的に金額を明示せず、事業の項目だけを示すことも認められています。これが「事項要求」なんです。

今回の概算要求では、防衛費のほか、脱炭素につながるGX=グリーントランスフォーメーションの分野、それに「子ども・子育て」など「重要政策」と位置づけた分野では、この事項要求が認められることとなりました。

ただ、事項要求が相次ぐと要求額が実質的に青天井となり、財政の膨張を招きかねないという指摘もあります。

白石記者
白石記者

防衛省の「事項要求」というのはどんな内容なんですか?

例えばこんな事業があります。

いわゆる「反撃能力」としての使用も念頭に、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」の量産を始めるための事業。

それから新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替となるイージス・システム搭載艦の能力拡張のための事業。

このように防衛力の強化を目的としたさまざまな事業が「事項要求」の形で記されています。最終的な予算額は、今後の安全保障戦略を踏まえて調整されることになりますが、さらに膨らむ可能性があります。

白石記者
白石記者

過去最大の概算要求額にしても事項要求にしても、そもそもそんなお金はあるのでしょうか?

問題はまさにそこにあります。

国債の発行残高は今年度・令和4年度末に1026兆円に達する見込みです。

これに短期の借入金なども含めた、いわゆる「国の借金」は6月末時点で1225兆円まで膨らみ、財政の厳しい状況は続いています。

こうした状況で防衛費を増額すれば、それが大きな財政負担となることは間違いありません。

財源のめどがつかないまま国債発行=借金で防衛費を増額するわけにはいかないというのが予算を査定する財務省の立場です。防衛費の増額に関連して、岸田総理大臣は、防衛力の強化を「内容と予算と財源の3点をセットで議論する」と述べています。

年末の予算編成に向けては、有事への備えに必要な装備と適正な予算規模をどのように精査し、財源をいかに確保するのかが焦点となります。

財政が厳しい中で防衛力の強化に向けて税金をどのように使うべきかという議論ですので、私たち国民も高い関心をもって年末にかけての予算の調整過程を見ていく必要があります。

白石記者
白石記者