NEW2022年09月07日

どうなる円安?(11月1日更新)

財務省は、9月29日から10月27日までの期間に市場介入に使われた資金の総額が過去最大の6兆3499億円にのぼったことを明らかにしました。市場では政府・日銀が介入の事実をあえて明らかにしないいわゆる「覆面介入」を繰り返しているという見方が出ています。※11月1日の最新の情報をもとに記事を更新しました

政府・日銀と市場との神経戦が激しくなっているようですね。

10月21日のニューヨーク外国為替市場では政府・日銀によるドル売り円買いの市場介入で一時、7円以上円高が進み、翌週24日の東京市場でも短時間で大きく変動する場面がありました。

鈴木財務大臣は24日の朝、記者団に対して、「私どもは市場を通じて投機筋と厳しく対じしている」と述べていますが、市場の根強い円売り圧力と政府・日銀の市場介入が入り交じって激しい値動きが続いています。

10月21日の市場介入はニューヨーク市場の取り引き時間帯だったのですね。

そうなんです。このときの市場の動きを振り返ると、21日の東京市場では1ドル=150円台半ばまで円安が進んでいましたが、海外市場に入って円売りドル買いが加速。一時、1ドル=151円90銭程度まで値下がりしました。

ところが21日のニューヨーク市場での取り引き時間帯、日本時間の午後11時半過ぎに円相場は、突然、円高方向に振れ、その後、およそ2時間で1ドル=144円台半ばまで7円余り変動しました。このとき、政府・日銀は急速な円安に歯止めをかけるためドル売り円買いの市場介入に踏み切りました。

このときは介入の事実をあえて明らかにしないいわゆる「覆面介入」の形をとりました。

9月22日に市場介入を行ったときには介入の事実を明らかにしていましたよね。今回、公表しなかったのはどうしてですか?

政府・日銀が覆面介入という戦術に変えた理由について1990年代後半に旧大蔵省の財務官として円安阻止の市場介入を指揮し「ミスター円」とも呼ばれた榊原英資氏は、    次のように分析します。

榊原英資元財務官

「介入の実績はいずれ公表されて分かるが、しばらく隠しておきたいときには今回のような『覆面介入』にする。なぜかと言えばマーケットに対して“不確実性”を残しておきたいからだ。マーケットを多少、疑心暗鬼にさせて介入の影響力を残しておきたいわけで、どのタイミングで実施したのかということを知らせないほうが一定の効果を持つ。公表しないのも1つの戦略だ」

なるほど。あえて手の内を明かさずに市場をけん制する作戦ですね。それはそうと市場介入の効果は出ているんですか?

一時的に大きく円高方向に動きましたが市場の円売り圧力は根強く、介入のあとに再び円安方向に押し戻されるというケースが相次ぎました。

政府・日銀がおよそ24年ぶりにドル売り円買いの市場介入を行った9月22日のケースを見てみると介入直前には1ドル=145円台後半で取り引きされていましたが介入によって円相場は、一時、1ドル140円台30銭程度まで円高方向に動きました。

しかし、アメリカで大幅な利上げが続くという見方から、市場介入の効果は、持続せず再びじりじりと円安が進行。10月12日には1ドル=146円台まで値下がりし市場介入を実施したときよりも円安になりました。

3週間ほどでもとの水準に戻ってしまったのですね。

一方、日本時間の10月21日深夜から22日の未明にかけて行われた覆面介入では1ドル=151円台後半からおよそ2時間で1ドル=144円台半ばまで7円以上、変動しました。

しかし、週明け24日の外国為替市場では再び円が売られる展開となり、円相場は再び1ドル=150円に迫りました。そしてこの直後に短時間で1ドル=145円台前半まで4円以上、変動する場面がありました。

市場介入を実施したとしても円安の流れを変えることは簡単ではないということですね。

円相場は、さまざまな経済情勢を反映して変動しますが、今の急速な円安の背景にあるのがインフレを抑え込むため、大幅な利上げを続けるアメリカと、金融緩和を続ける日本の姿勢の違いです。

今の円安はどちからといえばアメリカの利上げによるドル高の裏返しという面があり、市場関係者の間では円が売られやすい状況は続くという見方が大勢です。市場は、アメリカがインフレを抑え込む大幅な利上げを続けるとみています。

JPモルガン・チェース銀行 佐々木融 市場調査本部長

JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、「日銀が金融政策を変えなければ1ドル=160円の水準まで円安が進む可能性がある」と指摘しています。

日米の金利差の拡大が意識されているとのことですが、金融緩和を続ける日銀がスタンスを変えることはないのですか?

日銀の黒田総裁は、日本経済はアメリカなどに比べると回復のテンポが遅く、景気を下支えすることが必要だとしたうえで「今、金利を引き上げる必要はなく、金融緩和を続ける」と今月、国内や海外で繰り返し発言しています。

そうすると円安に歯止めをかける手段としては当面、伝家の宝刀、市場介入に頼るしかないのでしょうか?

ただ、為替は市場で決定するという大原則がある以上、市場介入はいわば非常手段であり、そう何度もできるものではありません。

また、市場介入にふみきった場合でも、日本単独での介入になるとみられ、市場関係者の中には円安に歯止めをかける効果は限定的だという見方もあります。

イエレン財務長官

10月21日のニューヨーク外国為替市場で政府・日銀が実施した市場介入について、アメリカのイエレン財務長官は24日、ニューヨークで行った講演のあと「私は介入について何も聞いていない。以前、日本は介入を知らせてきたが、それは過度な変動に対する懸念だったと理解している」と述べ再度の介入に関して日本側から知らされていないことを明らかにしました。

日本だけが為替の変動を問題視しても単独で対処するのは難しいということですね。

確かにそうなのですが、アメリカの利上げを背景にしたドル高が及ぼす影響については日本以外の各国も問題視しています。

G7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議では、共同声明を出して最近の外国為替市場の激しい変動に懸念を示しました。

日本以外の国もドル高の影響を懸念しているのですね。

そうなんです。今年に入ってから28日まででみると円はドルに対して22%の大幅な値下がりとなっています。

このほか主な通貨はドルに対して、
▽アルゼンチンのペソが33.8%、
▽トルコのリラが28%、
▽スウェーデンのクローナが17.4%、
▽韓国のウォンが16.1%、
▽イギリスのポンドが14.6%、
▽南アフリカのランドが12.5%、
▽ユーロが12.4%、
▽オーストラリアドルが11.6%、それぞれ値下がりしています。

各国の通貨に大きな影響を及ぼしているこのドル高、収まる気配はみられませんね。

そうですね。アメリカのバイデン大統領は10月15日、記者団に対して「ドル高については懸念していない」などとドルの値上がりを容認する内容の発言をし、あくまで国内のインフレ対策を優先する考えを示しました。

この先、さらにドル高が進むということになると国によっては自国通貨を守る、通貨防衛を迫られることになるかもしれませんね。

日本はどう対応することになるのでしょうか?

今の円安には、物価上昇を招くなど「悪い円安」という指摘もありますが、政府・日銀が歯止めのかからない円安にどのように対応するのか一層問われることになりそうですね。

円相場をめぐる最近の動向

▽10月31日(月)
・財務省は、9月29日から10月27日までの期間にドル売り円買いの市場介入に使われた資金の総額が過去最大の6兆3499億円になったと公表。

▽10月28日(金)
・日銀の黒田総裁が会見で「今すぐ金利の引き上げや出口が来るとは考えていない」と発言。1ドル=147円85銭まで円安進む。

▽10月27日(木)
・アメリカの利上げのペースが減速するとの見方から1ドル=145円13銭まで円高方向に動く。

▽10月25日(火)
・鈴木財務大臣「(政府の市場介入と日銀の金融緩和とは)政策目的が異なるので矛盾しない」と発言。

▽10月24日(月)
・アメリカのイエレン財務長官「私は(日本の)介入について何も聞いていない」と発言。
・鈴木財務大臣「市場を通じて投機筋と厳しく対じしている。そういう状況を考えてコメントしない」と発言。
・朝方の東京市場で1ドル=149円70銭まで値下がり。
・急激に円高方向に動き、一時、1ドル=145円28銭まで値上がり。

▽10月21日(金)
・ロンドン市場で1ドル=151円台に。
・ニューヨーク市場で1ドル=151円90銭程度に。
・政府・日銀が22日未明にかけドル売り円買いの覆面介入を実施
・介入後、一時、1ドル=144円台半ばまで一気に7円以上円高方向に動く。

10月20日(水)
・東京市場で1ドル=150円台に。
・鈴木財務大臣「投機による過度な、そして急激な変化は容認できないのでボラティリティー・変動に注目し、そうした動きがあるときは断固たる対応をとるという、従来の考えについては何ら変更はない」と発言。

▽10月19日(水)
・日銀の黒田総裁が参議院の予算委員会で、「最近の円安の進行は、急速かつ一方的なもので、このような円安の進行は企業の事業計画策定を困難にするなど先行きの不確実性を高め、わが国経済にとってマイナスであり、望ましくないと考えている」と発言。

▽10月18日(火)
・ニューヨーク市場で1ドル=149円台に。32年ぶりの円安水準を更新。イギリスで大型減税策のほぼすべてが撤回されると発表され、ポンドが買い戻された影響で(現地時間17日)。
・鈴木財務大臣が閣議後の会見で、「投機による過度な変動は容認できず、適切な対応をとるという従来の考えは変わっていない」と発言。
・日銀の黒田総裁が衆議院予算委員会で「今はドルが世界のあらゆる通貨に対して非常に強くなっているが、G20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議に出席した際に会った方たちの間では、その状態が続くと考えている方はほとんどいなかった」と発言。

▽10月17日(月)
・日銀の黒田総裁、衆議院の予算委員会で「金融緩和を継続することが適当」と発言。
・岸田総理大臣、衆議院の予算委員会で「投機が絡んだ急激な為替の変動は好ましくない。政府としては日銀としっかり連携しながら、必要があれば対応を考えていかなければならない」と 発言。

▽10月16日(日)
・アメリカ・バイデン大統領が記者団に「ドル高については懸念していない」と発言(現地時間15日)。

▽10月15日(土)
・ニューヨーク市場で1ドル=148円86銭。32年ぶりの円安水準を更新(現地時間14日)。
・神田財務官がワシントンで「断固たる行動をとる用意がいつもできている」(現地時間14日)。
・日銀黒田総裁、ワシントンで開かれた討論会で「金融緩和を継続することが適切」と発言(現地時間15日)。

▽10月14日(金)
・G20終了後に会見(現地時間13日)。鈴木財務大臣「過度な変動には適切な対応をとる」、日銀黒田総裁「金利の引き上げは必要なく適切ではない」
・ニューヨーク市場で1ドル=148円台に。

▽10月13日(木)
・G20財務相・中銀総裁会議が開幕(現地時間12日)。
・G7が声明で「多くの通貨の変動が激しくなっていると認識」(現地時間12日)。
・9月のアメリカ消費者物価指数。上昇率は8.2%。
・ニューヨーク市場で1ドル=147円台後半。32年ぶりの円安水準に(現地時間13日)。

▽10月12日(水)
・ニューヨーク市場で1ドル=145円89銭(現地時間11日)介入前水準に迫る。
・東京市場で1ドル146円台。介入前より円安に。

▽9月30日(金)
・財務省の発表で9月に実施したドル売り円買いの市場介入の総額が、過去最大の2兆8382億円だったことが明らかに。

▽9月26日(月)
・鈴木財務大臣「必要に応じて対応をとる方針に変更はない」

▽9月22日(木)
・日銀の金融政策決定会合で現状維持の決定直後に1ドル=145円台に。
・日銀の黒田総裁が会見で「当面、金利を引き上げることはない」などと発言したことを受けて1ドル=145円90銭まで円安進む。
・神田財務官「スタンバイの状態だ」と市場をけん制。
政府・日銀が24年ぶりのドル売り円買いの市場介入。1ドル=140円31銭まで円高方向に戻す。
・鈴木財務大臣「投機による過度な変動は決して見過すことはできない」

▽9月14日(水)
・ダウ平均株価、1200ドルの急落(現地時間13日)
・東京市場で1ドル=144円台後半に。
・鈴木財務大臣「投機筋の動きで大変憂慮。あらゆることを排除せずに対応せねばならない」
・日銀がレートチェックを実施。
・鈴木財務大臣、夕方に「あらゆる手段に市場介入も含まれる。やるときには間髪入れずに瞬時にやる」

▽9月13日(火)
・アメリカの消費者物価指数の上昇率が8.3%に(現地時間13日)。
・円安進み一時、1ドル=144円台半ばに。

▽9月9日(金)
・岸田総理大臣と日銀の黒田総裁が総理大臣官邸で会談。会談後、黒田総裁が「1日に2円も3円も動くのは急激な変化だと思う」と発言。1ドル=142円台半ばまで円高方向に戻す。

▽9月8日(木)
・財務省、金融庁、日銀が臨時の会合。
・財務省神田財務官「あらゆる措置を排除しない」と市場をけん制。

▽9月7日(水)
・ニューヨーク市場(現地時間6日)で1ドル=143円台に。アメリカの非製造業の景況感を示す経済指標が市場の予想を上回ったため。
・東京市場で1ドル=144円台に。
・鈴木財務大臣「円安方向に一方的に振れていると憂慮。これが継続すれば、必要な対応を」

▽9月6日(火)
・東京市場で1ドル=141円台に。オーストラリアの利上げなどを材料に。

▽9月1日(木)
・ニューヨーク市場(現地時間1日)で1ドル=140円台に。24年ぶりの円安水準更新。アメリカの製造業の景況感を示す経済指標が市場の予想を上回ったため。

▽8月29日(月)
・週明けの東京市場で約1か月ぶりに1ドル=138円台に。

▽8月26日(金)
・ジャクソンホール会議(現地時間26日)でFRBのパウエル議長が「やり遂げるまでやり続けなければならない」と利上げを継続する姿勢を鮮明に。
・ダウ平均は1000ドル超安。