NEW2021年10月13日

イチから知りたい! 国際課税の新ルール

10月9日未明(日本時間)、日本をはじめとする130余りの国と地域が、国際課税の新たなルールづくりで最終合意しました。参加国からは「歴史的合意」という声が上がっています。その内容や意義について、13日の「ニュース シブ5時」で永野解説委員が解説しました。

阿部アナ

歴史的合意、何がそんなにすごいんですか?

永野解説委員

国際課税ルールと言いますと「ちょっと難しそう」と思われる方も多いと思いますが、今後日本の税収が増えると期待されている、とても大事な話なんです。
今回、国際課税の新ルールづくりで最終合意したのは、日本など136の国と地域です。OECD=経済協力開発機構という国際機関の加盟国を中心とするグループが2013年から本格的に続けてきた交渉が実を結びました。

何が“歴史的”なのかというと、およそ100年前に整備された今のルールの転換につながるからなんです。

久保田アナ

今のルールの転換につながる?どういうことでしょう?

永野解説委員

今のルールは、製造業中心の考え方に基づいていて、工場やオフィスといった「物理的な拠点」のある国が法人税を課すことを原則としています。

しかし、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの「GAFA」のように、国境にとらわれずサービスを展開するITの巨人が急成長してきました。さまざまな国の人たちがスマホで手軽に音楽や動画などを楽しむ一方、「適切に課税できない」という不満を持つ国が増えていったわけです。

阿部アナ

巨大企業からちゃんと税金をとれるようルールを見直そうということなんですね。

永野解説委員

そうなんです。

合意のポイントは2つあります。

1つめは、法人税の最低税率を導入することです。法人税の税率は、日本が29.74%、アメリカが27.98%ですが、アイルランドは12.5%、ハンガリーは9%などと、国によってばらつきがあります。
新たなルールでは、法人税の最低税率を15%に定めます。
ちなみにこれは、法人税率10%の国が15%に引き上げなければならないということではありません。巨大企業が法人税率10%の国に子会社を置き、多額の利益を得たとしても、最低税率との差にあたる5%分は本社のある国に納税することを想定したものです。GAFAであれば、仕組み上はその分の法人税をアメリカに納めることになります。

阿部アナ

2つめの合意のポイントは何ですか?

永野解説委員

「デジタル課税」と呼ばれる新制度を設けることです。日本の税収アップにつながると見込まれているのは、こちらのほうです。
巨大企業が世界で売り上げた金額の10%を超える分の利益を課税の対象とし、このうちの25%について、サービスの利用者がいる国に配分します。OECDは、巨大企業およそ100社の14兆円を超える利益が課税対象になると推計しています。

久保田アナ

日本の税収はいくらくらい増えそうなんですか?

永野解説委員

詳しい制度設計はこれからですので、具体的な金額はまだ分かりませんが、合意に参加した国と地域は、2023年からの実施を目指しています。

最後に、およそ8年にわたる交渉がまとまった背景には、新型コロナの影響があったことを指摘しておきたいと思います。巨大企業がコロナ禍でも巨額の利益を上げる中、適切な課税を通じて、傷んだ財政を立て直し、格差の是正にもつなげようという機運が国際社会で高まったんです。
コロナという難局を、これまでなかなか手がつけられなかった不公平な制度を転換するための原動力に変えていく。今回の歴史的な合意は、そのことの大切さを示しているように感じました。