NEW2021年10月06日

岸田内閣 経済政策の注目点“1億円の壁”

10月4日に発足した岸田内閣。新内閣の経済政策で注目されるのが、“1億円の壁”をどうするかです。これっていったいどんな壁?
6日の「ニュース シブ5時」で永野解説委員が解説しました。

阿部アナ

そもそも“1億円の壁”って?

永野解説委員

総所得1億円を境に所得税の負担率が下がる現状のことです。

所得税は、所得が増えるほど税率が上がり、これを「累進制」と言います。
税率が上がるわけなので、理屈の上では、所得が増えるにつれて負担率も上がるはずですよね。
ただ、実態は違うんです。

財務省の調べによりますと、▽年間の総所得が250万円までの人は所得税の負担率が2.6%、▽500万円までの人は4.6%、▽1000万円までの人は10.6%と、どんどん上がっていきます。

そして、▽年間の総所得が1億円までの人では27.9%に達しますが、ここがピークなんです。

庭木アナ

その先は所得が増えても負担率が下がるから“1億円の壁”というわけですね。

永野解説委員

そうなんです。
所得税の負担率はだんだん下がっていって、50億円を超える人だと16%台。
岸田総理大臣は、自民党総裁選挙にあたっての「政策集」で、この“1億円の壁”の打破を打ち出しました。

背景には、富の分配のしかたを見直すことで、分厚い中間層をつくり、格差の解消につなげようという狙いがあります。

庭木アナ

どうやって「打破」するんですか?

永野解説委員

焦点になるのが「金融所得課税」です。

“1億円の壁”がなぜできるかというと、いわゆる富裕層は、株式を譲り受けたり、取り引きしたりすることによる所得が多いことが背景にあるとされています。

こちらにかかるのが「金融所得課税」で、儲けが大きければ税率が高くなる累進制ではなく、税率は住民税も含めて一律20%に定められています。
このため、“金持ち優遇”の制度になっているという批判が根強いんです。

阿部アナ

そうすると税率は上がるんですか?

永野解説委員

その点はまだ分かりません。
一方で、金融所得課税の見直しにはハードルもあるんです。
その1つが、東京株式市場に悪影響が出ることへの懸念です。

税率が引き上げられれば、株式を売却する動きが広がったり、株式に投資するお金が減ったりして、株価の下落につながるのではないかと市場関係者は警戒しています。

また、政府が掲げる「国際金融都市の確立」や「貯蓄から投資へ」という目標に対してもマイナスになるという声も聞かれます。

ただ、各国の中央銀行による大規模な金融緩和を背景とした株価の上昇が、コロナ禍の中で格差を広げたという指摘があるのも事実です。

岸田内閣のもとで、今後“1億円の壁”を巡る議論がどう進むのか。
税の公平性を確保し、多くの人が納得する結論を得られるかにも注目していきたいと思います。